祖母の短歌

 手記の最後に12首の短歌が載っていたので、それらも併せて掲載いたします。


・常よりも父はやさしくふるまいて子と過ごしぬ空襲前夜


・空襲のサイレンにせかされ闇の中兄と手をとり壕に避難す


・火におわれ逃げる方も火焔なりビルの窓窓炎ふきあぐる


・焼夷弾の炎我が背に及びしとき阿修羅のごとき母を見たりき


・空襲の炎の中を逃れ来て黒き雨降る焼けあとを歩む


・土に伏す小さきからだすくひあげ爆風あつく襲ひかかれり


・焼夷弾火の手ははやし夏草もたちまちやけてわれにせまりぬ


・鉄橋の上なる電車炎上し川に落ちゆく人影を見し


・水際の葦のしげみに身を伏せしがそばかすめ弾はじけゆく


・「聖断はつひにおりた」とつぶやきし父の言葉を今に忘れず


・鉄棒もブランコまでも徴発されきほいし戦過ぎてはとお


・おびただしき消費のゴミをはき出して戦さはすでに記憶の一コマ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

昭和二十年大阪大空襲~我が祖母の6ヶ月間の記憶~ 赤音崎爽 @WyWsH3972

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画