第三十四集:宣戦布告(この話以降、三人称視点に変更します)
今日、
「アップルトン卿、
スペンサーは柔和な笑顔を浮かべ、その質問が愉快だとでもいうように声を弾ませて答えた。
「ええ、そうです! とっても優秀なんですよぉ」
「それはよく存じております。ただ、殺人で連行しなくてはなりません」
「あらあら、それは無理でしょうね」
「と、申しますと?」
「人間が人間のために作ったような牢では、
「では、どうしろと?」
「見逃してはどうです?」
「それは出来ません」
「頭が固いですねぇ」
「人殺しは大罪ですから」
「では、今回
「人を裁くのは法であるべきです。が、それが機能しないことがあることも事実。人ならざるものが天命を実行したとおっしゃりたいのですか?」
「そこまでは言いませんが……。はたして、あなたがたは尚書の地位に就く者を処刑できましたか? せいぜい、流刑がいいところでは?」
「いえ、処刑できたと思いますよ」
「なぜ?」
「彼が持っている様々な情報。それが漏れるのを防ぐには、流刑にして命綱を握るよりも、殺してしまった方が早いですから」
「なるほど。では、利害は一致しているわけですね」
「……
「それは約束しかねます。なんせ、天狐ですから。種族がまるで違いますからね」
笑顔を崩さず応えるスペンサーの姿に、琰州は観念したようにそっと微笑んだ。
「あなたは本当に不思議な方ですね。では、今日のところはこれで失礼いたします」
「はい。ごきげんよう」
琰州は部下たちを連れて
「もう出てきてもいいですよ、
「なんか……、すみません」
「いいんですよ。
「あ、あはは……」
その時だった。
「な、何事⁉」
「行ってください、
「わかりました!」
黒い煙が立ち昇っている。
「どうか、どうかみんな無事でいて!」
☆★☆★☆☆★☆★☆☆★☆★☆
爆発の数時間前……。
英王府には怒号が響き渡っていた。
「工部尚書が殺されただと⁉」
「まだあの
「お、お怒りなきよう……」
侍従長は怒り狂う英王をどうにか鎮めようと、連絡係を下がらせ、優しく声をかけ続けた。
「くそっ……」
英王は何度も深呼吸を繰り返してから椅子に腰かけ、強く自身の手を握った。
「組み立ては兵部が行っております。工部の援助がなくなったのは痛手ですが、材料の半分はすでにそろっておりますので、計画は勧められるでしょう」
「ふんっ。半分だと? その半分を集めるのに三年以上かかっているのだぞ。また三年など、さすがに時間がかかりすぎる」
「入手経路の確保は出来ております。ズナアクの者も使えますから……」
「所詮あの男一人だけではないか。それが何の助けになるというのだ」
「……では、最小範囲で始めてしまえばよろしいのでは?」
英王は眉をピクリと動かし、「どういう意味だ?」と侍従長に聞き返した。
「殿下は中原全体を欲しておられますが、そのためにはまず、
「……力を中原に示し、恐怖による精神的な地盤を民の心の中に作ってしまえ、ということか」
「左様です。英王殿下を敵に回すと、恐ろしい目に合う、と、知らしめるのです。そうすれば、
英王は瞬時に脳内で想像を巡らせた。
皇帝となった孫の側で実権を握る自分の姿を。
頭を下げ、命乞いをする各国の王たちの姿を。
「ふむ……。それはいいかもしれないな。私に従わない飛燕、穆、隋の三家は
「ただ……」
「なんだ?」
「あの
「天狐は群れないと聞くが……。あれを
「残念ながら、神に等しき力を持つ天狐は、人間にはどうすることも出来ません」
「まあいい。たった一匹。どうにでも出来よう。さすがに千体の
「英明でございます」
「よし。近隣の村で
「ふふふふふ……。
「邪魔なものはそれ相応の手段で消さなければな」
「……
「ふん。身体の悪いただの
「かしこまりました」
侍従長は不気味な笑顔を浮かべながら「それでは、殿下は皇宮へ行く準備をお願いいたします。なるべく、慌てて来たことが伝わるようなお召し物で」と言い、部屋を後にした。
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