第14話 舞浜桜の遺産相続問題(流星side)


「お前には女子高に潜入してもらう」


 カガミを基地に呼び出して、今回の任務の説明を始めた。


 任務の説明だから、もっと殺伐とした戦場に送られるとでも思っていたのだろう。

 肩透かしを食らったような顔をしている。


「女子高? それが私の初めての任務なんですか?」

「そうだ。お前には打ってつけの任務だ」


 なにせ、カガミは女子高生だ。

 転校してきたということにすれば、楽に潜入ができる。


 俺達の任務に失敗は許されない。

 だからこそ、それぞれ適任の任務を受ける。


 それに今回は『アンダードッグ』として初めての任務だ。

 そこまで難易度の高い任務ではないだろう。


「俺達が今回潜入するのは、この私立霊堂女子高等学校の探索科だ」


 パンフレットを事前に貰っているので机に広げる。


 へぇ、と呟きながらカガミはパンフレットを手に取った。


 表紙には白くて大きくて綺麗な建物が立っている。

 笑顔の女子生徒のインタビュー記事も中には載っていた。


 私立霊堂女子高等学校は所謂お嬢様学校だ。

 お金持ちしか通えない学校ではあるのだが、探索科もある珍しい学校だ。


 探索科はその名の通り、探索者を目指す学科で、肉体労働の就職を目指す学科だ。

 男子校に多い学科なのだが、どちらかというサポート系の実習を主にやっているらしい。


 Fランクとはいえ、探索者だったカガミにはもっていこいの潜入任務だ。

 溶け込むぐらい訳ないだろう。


「高校かー。私の通っていた高校はどうなってるんだろう?」

「休学届が出されているみたいだな」

「え? そうなんですか?」

「そうだ。知らなかったのか?」

「何の手続きもせずに飛び出したので……」


 本当に何の考えもなしに家出したんだな。

 だとしたら大騒ぎになっていそうだが、調べによるとそうはなっていないらしい。


「随分、親は放任主義なんだな。捜索届すら出されていないとは」

「興味ないだけですよ。私がその辺に野垂れ死んだら、逆にホッとするかも知れないですね……」

「…………」


 歪んでいるのは、親のせいもあるのか。


 しかし、放任主義というのなら、逆にこっちとしてはありがたい。

 親の干渉を受けずにこいつを使い倒すことができるのだから。


「あれ? さっき、俺達って言いましたか?」

「言った……か? それがどうした?」

「え? もしかして、エイジさんも来るんですか?」

「そうだ。新人一人で現場に行かせて任務失敗したらどうする。今回はお前の為の任務だから手厚いフォローはしない。基本的にはお前一人でやってもらうことになる」


 俺が何もかも全てやってしまったら、カガミは成長しないからな。

 ある程度成長するまでは一緒にやることになる。

 俺はそれなりに地位が高いから、新人教育には慣れている。


 しばらくはつきっきりで教えることになるだろう。

 一人前になって独り立ちができるようになるまでは、少しだけフォローしてやろうと思う。


「あと、俺のことはエイジさんではなく、コードネーム『流星』で呼べ」

「もしかして、女装でもするんですか?」

「するか!! 先生だ、先生!! 先生役で女子高に行くんだ!!」

「あっ、先生でしたか」

「……何故そこで残念そうな顔をする……」


 俺が男であっても先生なら、女子高であっても自然に潜入できる。

 手続きが大変だったと『フクロウ』が愚痴っていたな。


「舞浜桜。今回の任務はこの女の子を一週間護衛することだ」


 写真を取り出す。


 儚げな表情をしている少女だ。

 俺もまだ話はしていないからどんな人物かは詳しくない。


 ただ、お金持ちの子どもということもあって、礼儀正しそうだ。

 手間がかからなそうでいい。


 護衛任務は消耗が激しい。

 常に気を張って護衛をするのだから。


 だからこそ、勝手な行動をしかねなない奴の護衛は勘弁願いたい。

 だが、こいつは子どもだし、大人しそうだから護衛はしやすそうだ。


「護衛?」

「彼女の命が狙われているらしい」

「…………命が?」


 まあ、普通に生活していたら他人から命を狙われることなんて少ないだろう。

 だが、そんな奴を助けるのも俺達の仕事だ。


 警察じゃ潜入捜査はできない。

 事件が起きてからじゃないと奴らは行動できない。

 できて精々、学校内の警備を強化することだけ。


 だが、俺達『アンダードッグ』ならば、民事不介入の案件も担当できる。


「つい先日彼女の父親が死んだ」

「え?」

「交通事故で亡くなったらしいが、そのせいで一人娘である彼女に遺産が相続される可能性が出て来たらしい。それを周囲が許すかどうかって話だ」


 俺は交通事故で死んだのも怪しいと思っている。

 事故に見せかけて財産目当てで殺した可能性もある。


 お金儲けしている奴っていうのは、何もしてなくても恨まれそうだしな。

 ただでさえ、異世界に関係する仕事をしていたというのだから猶更だ。


「でも一人娘なんですよね? だったら他に相続する人なんて……」

「母親がいるだろう」

「え? それって実の母親が金の為に子どもを殺そうとしているってことですか?」

「舞浜桜は愛人の子どもだ。親子の情なんてない等しいらしい」

「…………っ!」


 親子関係は冷え切っていたらしい。

 夫婦の関係も離婚寸前だったようだ。

 仲が相当悪かったのは周囲の証言で明らかのようだ。


「その浮気していた人は?」

「女の方も死んだらしいな。それが事件か事故か、詳しい情報は俺も知らない」


 死んだということしか書類には載っていなかった。

 だとしたら、多分事故だろうな。

 今回の件に関係するのなら、もっと詳しい情報があるはずだ。


「なら、この子は本当の両親は他界したんですね」

「そうだな……」


 両親は死んで、そして義理の母親からは命を狙われているかもしれない。

 そう考えると、この舞浜桜という少女はかなり不幸な少女だ。


「遺書の読み上げが一週間後にある。それまで事故を装って舞浜桜の母親が何かしらのアクションを起こす可能性がある。それまで彼女の傍に居続けるのがお前の任務だ。先生とはいえ、ずっと俺が傍に居るのも限界がある。これは護衛対象と同年代のお前だからこそできる護衛任務だ」


 舞浜桜の遺書は金庫に厳重に保管されている。

 その遺書によって、遺書の配分が決まる。

 遺書を破棄しようにも信頼できる執事が金庫の鍵を隠し持っているので、母親はそれもできない。


 だから狙うとしたら遺書の破棄ではなく、舞浜桜の命ということなる。


 険悪な関係だった舞浜桜の両親。

 だとしたら、父親は自分の一人娘である舞浜桜に遺産を相続させようとしていた可能性が高い。


 だから舞浜桜の護衛任務が『アンダードック』にされたのだ。


「だったら依頼者はまさか……」

「そうだ。今回の依頼主は本人からの依頼だ。私は遺産相続何て興味ないのに、命を狙われている気がする。だから助けて欲しいという依頼だ」

「…………」


 黙りこくっている。

 初めての任務で不安なのかもしれない。


「これは通過儀礼だ」

「え?」

「今回の任務でお前が『アンダードック』の一員になるかどうかが決まる。気を引き締めるんだな」

「わかり、ました」


 まだ仮入隊といったところだ。

 だから、今回の任務が成功しなかった場合、こいつを殺さなくてはならない。

 そしてその始末をつけるのは俺だ。


 それをこいつは理解できているんだろうか。


「お前、普通に俺と話すんだな」

「……一晩寝たら色々と嫌なことは忘れるタイプなんです」

「都合のいい頭をしているらしいな」

「引きずらないサッパリとしたいい性格をしていると言って欲しいです」

「…………」


 一々反応するのも面倒な振りだ。

 無視しよう。


「だが俺は大佐でお前は新人だ。線引きは忘れるな」

「分かりました! エイジさん!!」

「……鳥頭が」

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