第5話 決着を付ける為に

 何でも屋から情報を得てから数日が経ったパンプキン家では、ずっと治療を行っていたロボット達が完治して、遂に敵のアジトへ行こうとしている所だった。

 「お嬢様方、お気を付けて。ロアちゃん達、お嬢様方の事、頼みましたよ」

 「お任せください。マスター」

 「まだまだ、この子達の世話になる程、弱っちゃいないですわ」

 エミリーの心配をはねのけてあげようと、サリアは凛として見せる。

 「どんなことを言われても、心配は心配ですよ……」

 それでもしゅんとしているエミリーの肩をロアが優しく叩いてフォローに入る。

 「我々がいますし、マリアお嬢様もいます。ご安心を。マスター」

 その言葉に、少しだけ安心したような顔を向ける。

 「……そうですね。皆いますもんね。サリアお嬢様一人じゃないんですもんね」

 「ちょっと。まるで私が問題児みたいな扱いをしていません?」

 「遠回しにそう言っているのですが?」

 「だとするなら言わなくてよろしい!」

 サリアはぷいっとそっぽを向き、その姿を見て笑いが起こる。しかし、すぐにそれは治まり、皆、覚悟を決めたかのように真面目な顔つきになり

 「それじゃ、行って来るわ。アメの事、宜しく頼むわね」

 「はい。サリアお嬢様。皆さんも、行ってらっしゃいませ。ご無事でお戻りになるのを願って待っております」

 颯爽とヘリへと乗り込むサリア達を、エミリーは深く頭を下げて見送った。



 サリアから連絡を受け、準備を済まして部屋から出て行こうとしていたシュヴァルとハウンドの前に、メルは立ち塞がっていた。

 「どうしてだ!どうして一緒に行ってはいけないのだ!」

 「何度も言ってるだろ。俺とハウンドが決着をつけなきゃいけない問題なんだって。だから連れていけないってよ」

 「何度言われても良く分からぬ!何でも屋で解決をすれば良いではないか!」

 「それも何度も言ってるだろ。これは、何でも屋としての問題じゃないって」

 「しかし!」

 「メル」

 シュヴァルと言い争いをしている中に、ショコラが入ってくる。

 「いい加減にしなさい。連れていけないって言われてるんだから、黙ってそれに従いなさい」

 「ショコラは納得できるのか?」

 「納得も何も、シュヴァルが決めた事だし、私は異論無いけど」

 「私は納得しておらん!」

 「はぁ……だんな。はっきりと言ってやった方が良いですぜ」

 「なんなのだ?」

 「……」

 頭を掻き、言いづらそうにしながらも、意を決して言い放った言葉は、メルの心を折るには強すぎる言葉だった。

 「メル。お前の今の実力じゃ足手まといなんだ。だから、連れて行く気は無い。ここに残ってろ」

 「なっ……!?」

 ショックを受けてその場で固まっているメルを無視してシュヴァルとハウンドは部屋から出て行った。

 「……メ、メルちゃん」

 「アリス」

 アリスが心配そうに声をかけようとするが、ショコラが名前を呼んでから肩を叩く。振り向いて目を開けて見ると、真顔で首を横に振る姿が見えた。

 「今はそっとしときましょ」

 「……うん」

 二人が出て行った後の何でも屋には、重い空気が充満していた。



 「おーひでぇひでぇ。だんなは子供にも容赦がねぇや」

 サリアに指示された集合場所に向かう道中、先程の事について、ハウンドは嫌みったらしくシュヴァルに言う。

 「ああ?あーでも言わねぇと、マジで付いて来そうだったからな。ハイベル達の事は俺の問題だし、関係ねぇメル達を巻き込む訳にはいかないだろ」

 「俺もそんなには関係性があるとは思いやせんけど」

 「だったら残ってろよ。別に、付いて来て欲しいなんて頼んじゃいねぇぞ」

 「いやいや。俺にだって関係性が既に出来ちまいやしたからね。ついて行きやすって」

 「あんな短い出会いで関係性なんか出来るかよ」

 「まぁまぁいいじゃねぇですかい。ちょいと俺的にも気になる事があるんで」

 「なんだよ。それは」

 「個人的な事なんで言えやせん」

 「なんだそれ」

 会話が途切れ、沈黙が流れる。

 「まー……なんですかね……嫌な役をやらせちまって、すいやせん」

 突然ハウンドがどうにも気まずそうに言った。

 「気にしてねぇよ。あんな役、お前には任せておけねぇしな」

 「俺にだって、あれくらい出来やすぜ?」

 「どうだかな。お前は、メルと仲良いからな」

 「ここぞって時は非情になれやすよ」

 「はいはい。分かった分かった」

 そうこうしている内に、サリア達との合流地点に到着する。

 「やっときましたわね。あら?メルちゃん達はいないんですの?」

 「連れて来る訳ねぇだろ。今からどこ行くか分かってんだろうが」

 「それもそうですわね。巻き込まないことにこしたことはありませんわ」

 ハウンドは止められているヘリに近付き、まじまじと見る。

 「またこいつに乗るのかー。研究所の嫌な記憶が思い起こされやすねー」

 「嫌ならあんただけ徒歩で行けばいいんじゃないかしら?」

 「嫌じゃねぇですよ。楽出来るなら楽させていただきやすぜ」

 「現金な奴」

 言いながら、さっさとヘリへと乗り込んでいく。

 「にしても、お前らとこうも付き合いが続くとはな」

 「お姉様が首を突っ込みたがりますからね」

 「マリア。私が悪いみたいに言わないでよ」

 「ふふふ」

 ごほん、と、咳払いをして、シュヴァルに力強く指差して声を上げた。

 「いい?あくまでも、この共闘は一時的ですわよ。今後もこのような関係が続くと思ったら大間違いだから、勘違いなさらないでね」

 「それくらい分かってるし、こっちだってこのまま付き合いを続けたくねぇよ」

 「なら宜しいんですけど」

 二人の間に険悪なムードが流れる。

 (この二人は顔を見合わせる度に喧嘩してるなぁ……喧嘩をすることしか頭にないんでしょうか……)

 睨み合いをしながらヘリに乗る二人を見て、マリアは溜息をついて後に続く。

 ロボットメイド達が操るヘリが飛び立ち、廃工場へと向かって進み始めた。

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