自然エネルギー立国への道

 昨年来盛んに報じられる原発への回帰の根底には脱炭素社会を目指す世界的な流れがある。長年指摘されてきた地球温暖化問題に加え、ロシア-ウクライナ戦争によって顕在化したロシアへのエネルギー依存が政治上の懸案となったことが後押しとなった。確かに、脱炭素社会に向かう世界において、原発は二酸化炭素を排出しない点で優位性を持つ。しかし、放射性物質をどう処理するかという問題を解決しない限り、原発の使用には危険が伴う。この問題に目を瞑り、原発回帰の流れを生んでしまうと、我々は将来に解決の道筋の見えぬ課題を残すことになる。脱炭素社会への道は原発ではなく再生可能エネルギーに求めるべきだ。

 エネルギー資源の化石燃料から再生可能エネルギーへの移行の過渡期に原子力を利用しようというのは、言わば苦肉の策である。あくまでも再生可能エネルギーを主力電源に据えることが最終目的であり、原子力を頼るのは一時的な妥協であるはずだ。ところが、原子力推進派の論調には、原子力をクリーンエネルギーの一つとみなす傾向が見られる。原子力を次世代エネルギーの核に据えるという方向に話がすり替わっている。原子力エネルギーの利用を始めてより半世紀、人類は三度の大事故を経験した。アメリカのスリーマイル島原発事故、旧ソビエトのチェルノブイリ原発事故、そして、日本の福島原発事故。いずれも事故後の処理はまだ終わっていない。どれほど安全対策を講じようと、原発への依存を拡大すれば事故発生の確率も高まる。脱炭素社会を目指すことが人類の喫緊の課題であるとしても、その道筋を誤ってはならない。

 再生可能エネルギーの筆頭にあげられるのが太陽光発電だが、太陽光パネルの敷設には広大な平地が必要で、国土の三分の二を森林が占める日本においては普及に限界があるというのが従来の見方だ。確かに、太陽光パネルを敷設するために森林を伐採するのでは、脱炭素の理念にそぐわない。かと言って、乏しい平地を太陽光パネルで埋め尽くすことも現実的ではない。しかし、現在技術革新により様々なタイプの太陽光パネルが開発されている。たとえば、フィルム型の軽量太陽電池なら、ビルの壁面に設置することが出来る。また、光透過型のパネルなら窓に取り付けることも可能だ。こちらは遮熱効果もあり、二重の省エネ効果が期待できる。水平方向の面積が少ない日本でも、都市部には無数のビルが林立している。垂直方向の面積を含めれば、日本にはまだまだ太陽光を活用できる余地がある。フィルム型太陽光電池の活用は既に始まっており、岡山市の旭電業は自社ビルの壁面をこのパネルで覆っている。未来型都市設計の参考となろう。多結晶シリコンを使用した従来の太陽光パネルでも、戸建て住宅の屋根に設置すれば、余剰電力を生むほどの発電が可能だ。欧米では道路に太陽光パネルを敷設するという取り組みも進んでいる。原発に頼らずとも、この方面への資本投下を促進すれば、太陽光発電だけでもかなりの発電量を賄えるはずだ。

 経済産業省所管の国立研究開発法人NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)では、次世代エネルギー活用の多角的な研究・開発が進められている。その中には原発の再利用・新設に向けた計画も含まれるが、長期的な視野で見ると、安全性においても経済性においても原発の利用は合理性に欠ける。原発への資本投下は最小限に留め、太陽光や風力、地熱、潮力といった再生可能エネルギーの利用拡大に注力すべきだ。問題は、様々な道筋が示される中で、政府がどの様な選択をするかということだ。日本の、そして世界の将来を憂える心があるならば、再生可能エネルギーの利用を中心に据えた明るい未来を志向してもらいたい。思えば、地球温暖化がここまで進行した背景には石油産業の拡大があった。石油をはじめとする化石燃料にからむ利権が大きくなりすぎたことが地球温暖化の原因だと言っても過言ではない。今、原子力産業で二の轍を踏めば、将来に地球温暖化以上の禍根を残すことになるだろう。

 あらゆる分野で技術革新は起こっている。これからも起こり続けるだろう。問題は我々が何を選択し、どんな未来を志向するかだ。政治家や官僚が利権から離れられないのであれば、再生可能エネルギーが利権を生む仕組みを作ればよい。ただ世界の流れに身を任せているだけでは、日本の国土は荒廃するばかりだ。逆に日本が自然エネルギーの活用モデルを示すことが出来れば、これまでとは違った意味で世界も日本を見直すだろう。世界が危険な方向へ向かいつつある中で別の方向性を示すことが出来れば、日本は世界をリードする国へと成長できるだろう。第二次世界大戦に敗れ、焦土と化した日本は、数十年で世界第二位の経済大国として甦った。しかし、この国が真に豊かな国へと成長するには、経済的な成功だけでは十分ではなかった。日本が常に欧米に次ぐ地位を強いられてきたことは、生活水準の差を見れば明らかだ。世界に範を示す気概をもって初めて、日本は世界から認められ、一流国家の仲間入りが出来るだろう。

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徒然なるままに Hiro @jeanpierrepolnareff

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