第14話 侵入!グリドの屋敷

時は夜の十二時、グリド屋敷の門にて…

『コトッ…』

「何だ?今の音…」

外の門の前に立っていた兵士が何かの音を聞き取っていた。

『コトッ…』

「また同じ音が…」

兵士は辺りを見渡した。すると…

『コトッ…』

「石…?」

『コトッ…。タッタッタッタッタッタッ…』

兵士は投げられた石が音の正体だと気付くが、次にその音がした時には何者かが立ち去る足音もしていた。

「ま、待て!誰か居るのか?逃げるんじゃない!」

兵士がそう言っても足音の主は止まらない。

兵士はその足音の主を咄嗟に追いかけようとしたが…

『ゴスッ…!』

後ろから頭を殴られ兵士はその場で倒れた。

「…ちっ、しけてるな」

ムスビはそう言いながら倒した兵士の身ぐるみをはいでいた。

「あの…、完全に悪党のセリフなんだけど…」

「ムスビちゃん命は取らないこと以外は結構容赦ないから…」

「…ん?」

ムスビは突然周囲をキョロキョロと見渡していた。

「ど、どうしたの?周りに何かあるの…?」

「…いや(今、誰かの気配が…)」

「あら?今何か音がしなかったかしら…」

「ほ、本当?もしかして敵の人…?」

「いえ…、でも人の足音とかにしては小さな音だったような気も…」

『ニャー』

猫の鳴き声だ。

「な、何だ猫だったのね…」

「ハ、ハハ…。警戒しすぎだったね…」

「…まあ、いい。じゃあ作戦通り動こう。俺とミレアは先に屋敷に入る。ミサキは俺達が屋敷に入ったら川へ向かってくれ」

「うんまかせて!作戦通り頑張るから!」

そして三人は行動を開始した。

「…ふぅ、危うくばれるところだったな。さてさて…。ここから始まるわけだがどうなることやら」

どうやら勘違いではなく、本当に後ろに何者かが潜んでいたようだ。


そしてとうとう戦いが始まるのだ。少年少女の無謀な挑戦が…

『ガシャーン!!』

戦いは窓のガラスが割れる音から始まった。

そしてそれは

『ガシャーン!!』

『ガシャーン!!』

『ガシャーン!!』

『ガシャーン!!』

と立て続けに何度も繰り返された。グリドの屋敷の窓が一つ一つ割られていたからだ。

割ったのは当然ムスビとミレアの二人、そしてその音に当然屋敷の中の人間は反応した。

「何の音だ!」

「ま、窓が割られているぞ!石が投げ込まれたのか!?」

割られた窓がある部屋に屋敷の中にいる騎士達は集まっていた。

「まさか吸血鬼がやってきたのか!?だとしたら今どこに…」

「窓は複数の部屋割られている。となるとこの割られた窓の内のどこかから乗り込んだということか?」

「いや…、外を見ろ!灯りを持った奴がいるぞ!」

「い、居る!だが何故屋敷にさっさと入らない?」

「怖気づいたのか?だが…」

「愚かだな…。この暗闇の中で灯りを持つなんてみすみす的になるだけだというのにな…!」

そして、騎士達は灯りを持つ者を狙い矢を放っていた。標的は一斉に放たれた数十本の矢から逃れることは出来なかった。

「流水は奴の弱点、くらえ降り注げ水時雨!」

「切り裂いてやる!吹きすさべ突風よ!」

続けて屋敷の中にいる魔法使いは窓から敵を狙い追撃の魔法を繰り出した。相手は吸血鬼、多少矢が刺さろうが致命傷にはならないし、せいぜい足止め程度にしかならないが魔法が直撃したとなればそうもいかない。魔法というのはそれほど強力なのだ。

「よし倒れたな、奴の確認するぞ。周りを囲み逃げ道を作るな!絶対に取り逃すんじゃないぞ!」

そして、騎士達は急いで外に出ていった。だが…

「な、なんだこれは?」

騎士達が向かった場所に吸血鬼はいなかった。吸血鬼の仲間もだ。あったのは服を着せられていた案山子と壊れたランタンだけであった。

『ハズレ』

騎士達を煽るように案山子に着けていた布にはそう書かれていた。


一方、屋敷の中では…

「フフッ…、どうやら上手くやれたみたいね。外にいる囮の案山子に注目してくれたおかげで楽に入れたわ」

ムスビとミレアの二人は騎士達に気づかれることなく潜入に成功していた。

「…ミサキも無事で居てくれると良いが」

ひとまずムスビ達の第一の作戦は成功した。


作戦会議の時に遡る…

「…屋敷へは正面から堂々と入る」

「正面から?いくら何でも無理じゃないかしら?」

「どこかの窓からこっそり入った方がいいんじゃ…」

「…それだと屋敷に入った直後に相当な数戦わされる。俺達が正面以外から入ることは向こうだって真っ先に考える」

「窓から入ったら待ち伏せされるってこと?」

「…そうだ。俺達にとっては楽に入れると思うルートも敵からしたら読みやすい。むしろどうぞ入ってといった感じだろうよ」

「でも何でわざわざ侵入されやすく…」

「…お前を逃さないためだよ。ハッキリ言ってお前が妹を見捨てる決断をすればグリドもお前を捕まえるチャンスが限りなく低くなる。だからあえてお前に何とか助けられるかも…、って思われるように動いてるんだ」

「確かに警戒を強めて屋敷に入るのも出来ないなんて状況ならミレアちゃんが来るなんて思えないもんね」

「でも正面への警戒が無くなる訳じゃないのよ?どちらにしろ敵に見つかって戦うだけよ」

「…ああ、敵には俺達を、いやミレアを見つけてもらう」

「見つけてもらうって…見つからないように入るべきでしょ…」

「でもそんなの無理だよ。屋敷の中には沢山人が居るだろうし…」

「…だからその沢山の人には一旦外に出てもらう」

「出るわけないでしょ…。私達が屋敷に入るのは敵からしても明白なのよ?」

「…だが、敵がお前の姿を見つけてそれが屋敷に入ろうとせずにずっと外にいるような状況ならどうだ?」

「それは…、確かにそれなら私を狙ってくるだろうけど…」

「でもどうするのムスビちゃん?」

「…まず俺が石をグリドの屋敷の窓に投げる。そうなれば中にいる奴らはガラスの割れる音に気付き間違いなくその部屋に向かう。そして当然割れている窓に気づいたら騎士達はもしかしたら俺達が入ってきたんじゃないかと部屋の中を探すはずだ。そして部屋に誰もいないとなれば次は外を見る。そこで庭に灯りを持った何者かを用意すれば敵はそいつをまだ屋敷に入っていないミレアと勘違いしてくれる」

「でもそれって囮が必要ってことじゃ…」

「…ああ、この案山子を使う。ローブを着せているからパッと見は人っぽく見える。ランタンでも引っ掛けておけば敵は灯りを持った人間が居ると思うはずだ」

「そして敵は屋敷から弓なり魔法なりで攻撃してくるって訳ね」

「…その通り。そして騎士は急いで外に出る。ミレアの逃げ道を塞ごうと大人数で囲みにな」

「確かにこれが上手くいけば全員は無理でも屋敷から相当の人数外に出せるわね」

「後は外に人が出てきたらその間に俺やミレアは屋敷に入ればいい。囮の案山子と反対側から玄関にこっそり入っても良いし、騎士の服や鎧を調達できたんなら騎士のフリをしても良い」

「でもいくら全身がローブで隠れていても動かない案山子じゃすぐに怪しまれるんじゃ…」

「…まあ確かに」

「でもそれに気付く前に敵は捕まえようと攻撃を開始するんじゃないかしら…。でも確実じゃないわよね…」

「………。私が灯りを持つよ!」

「…な、なに?」

「ミサキちゃん…?いったい何を…」

「囮には案山子も使うけど、最初にランタン持つのは私がやるよ。灯りを持った私が動くの見たら敵だって放ってはおけないよね?」

「…ダメだ。そんなことはさせられない」

「そうよ、そもそもそれじゃ案山子を使う意味がないじゃない」

「意味ならあるよ。これなら二人は確実に屋敷に入れるでしょ?それに星のブレスレットのある私が一番攻撃されても大丈夫なんだから私がやるべきだよ」

「…しかし」

「大丈夫!私も灯りを持ってるのは最初だけにするし、暗い夜の中なら私が逃げるのも見えづらくて追いかけにくいでしょ?ね、大丈夫だから」

「………、分かったわその方が良さそうね。ミサキちゃんの言うようにやってみましょう、ね?ムスビ」

「…だ、だが」

「もう大丈夫だから!ムスビちゃんやミレアちゃんばっかり無茶してるのに、私だって少し位危険な橋渡らなきゃ…!それに私が屋敷入るのは二人が入った後なんでしょ?二人が屋敷に入れなかったら作戦も全部台無しになっちゃうよ」

「ほら、ミサキちゃんもこう言ってるんだから」

「…分かったよ」


そして場面はまんまとムスビ達の罠にはまった騎士達へ戻る…

「お、おのれ…!我々を騙すとは!」

「だがこんなことをしたということは間違いなく吸血鬼共は今屋敷に入ったと考えていいだろう!」

「それに逃げ場が少ない屋敷の中に入ってくれたのは好都合だ」

「騎士達、あなた達の中から何人かはグリド様にこのことを伝えに行きなさい。そして他の騎士達は予定通り屋敷に入った侵入者を追い込み、逃げ場を無くすのです。そこを私達の魔法で吸血鬼を倒し捕まえます」

「分かっている。グリド様から頂いた汚名返上のこのチャンス、我々で必ず吸血鬼を捕まえるのだ!」



第十四話 侵入!グリドの屋敷 終

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