第13話 敵の本拠地・王国へ 救出作戦開始

三人がクリーム・パンケーキ王国へ向かってから二日程が経ち…

「やっと見えたわ。あれよ、あの遠くに見える防壁の中にクリーム・パンケーキ王国の町が広がってるはずよ」

森を抜けると、崖となる場所へ行き着いたがその先に見えるものこそがミレア達が目指したクリーム・パンケーキ王国であった。

「ひえ~………、今まで見た町とかよりもずっと大きいや…。ホントにあの中に入って皆を探すんだね…」

「ただここからじゃ崖になってて行けなさそうね…、まずは回り道をしなきゃよ」

そうして再び森の中に入るのだった。

「目的の場所ももうすぐだけど、取り敢えずここで休憩にしましょ」

三人はクリーム・パンケーキ王国へ目指していたが、森の中で開けた場所を発見したので一旦休憩を取ることとなった。

「ねえ、そう言えば私達どうやって王国に入るの?門からだと捕まっちゃうんじゃ…」

「あ…、忘れてた…」

「…」

王国は最早どこにグリドの手の者が潜んでいるかは分からない。もし門番がグリドの味方ならミレア達のことを見つけ次第、三人は間違いなく捕まえられるだろう。

だからと言って、もし王国に入る段階で騒ぎを起こせばあっという間にグリドに来ていることがバレてしまう。

それだけは三人共避けたいことだった。

「………。変装して入る…?」

現時点でミレアやミサキの風貌はバレているし、ミレアに関しては晴れてる時にフードを取れと言われてしまえば一瞬で正体が分かってしまう。

「バレるわよさすがに…」

「じゃ、じゃあ夜に門から忍び込んでその日の内に作戦開始する?」

「いくらなんでもそれは無茶よ。それに何日かは国の中に潜伏して準備しないと」

現時点で三人はグリドがどこを根城としているのか、その正確な場所すら把握していない。また、候補に挙げた作戦を実行するにしても、グリドの拠点の回りの状況が分からなければそれも困難である。王国に忍び込むのも下手を打てば、作戦開始前にグリド側にそれを気付かれる可能性も高い。

「でもどこも壁で囲われてて門以外からは入れそうもないよこれじゃ…」

「飛龍見つけにいく?もう一回頼ることになるけど…」

「空から入るの?でも色んな人に見られて目立たないかな…」

「確かに場合によっては大騒ぎになるわよね…。でも他に手は…」

「…その必要はない」

「え?」

「どういうこと?」

二人はムスビの方を向いた。

ミサキ・ミレア「下?」

地面を指差すムスビを見て首をかしげた。

その三時間後…

「ね、ねえさっきから森の中進んでいるけどこっちにはロガー川があるだけよ?その先を進んだところで王国の周りをぐるっと一周するだけよ?」

ロガー川とは王国東にあるシラアワ山から流れ、クリーム・パンケーキ王国を通り南へ流れている川のことである。

因みにこの城壁に囲まれた王国内へ川から人が侵入することは鉄格子やセキュリティ用の魔導具に阻まれ出来ないのである。また流水が弱点のミレアが居る為、それらが無いにしても川から侵入は避けるべきである。

「…あった」

「え?あれ、これって…」

目の前にあるのは人工的に作られた穴、いや下水道である。

「もしかしてここから入るの?」

それにムスビは頷く。

グルル…!ワン…!ワン…!

アズキは体全部を使って断固拒否の意思を示したがムスビに抱えられ、強制連行された。

「ほ、ホントに行くの…?」

「ま、まあ仕方ないわ。早く抜けちゃえばいいだけよ」

「…一旦馬はこっちに置いていく」

五分後…

「うっ、くさい…」

「オエッ…臭すぎて息吸いたくない…」

「…」

アズキはぐったりしながらムスビに抱えられていた。

(うぅ…、まだ下水道は続くの…?)

三十分後…

「またネズミの死骸…。これでもう何匹目なの?」

「…十三匹目だ」

「わざわざ答えなくてもいいわよ…」

『ベチャ』

「ひっ!?嘘…最悪…」

ミレアは途中、下水道のヘドロに足を突っ込んでしまった。

「あっ、ミレアちゃん…」

「うぇ…、気持ち悪い…」

歩く度にミレアの足に嫌な感触が伝わっていた。

「ムスビちゃん、まだ続くの…?」

「…多分な」

さらにその一時間後…

「や、やっと出れた…」

「ハア…ハア…も、もう下水道は嫌…」

「うぅ~、鼻が変だよ…」

「…」

下水道を抜け終わったがアズキはもはや瀕死寸前と言える程に元気がなかった。

「これ…アズキホントに生きてる?」

「…息はある」

「アズキちゃんからしたら地獄だったよね…」

「と、とりあえずここから離れて宿を見つけましょう…」

「でもこの近くにあるかな…」

「…あっちに行こう」

今三人がいるのは王国の南東に位置するゴミ捨て場…、そこら中にゴミが積もり山のようになっている…、そんな場所だった。ムスビ達の居る場所にはそこら中にゴミが散らばっており、先にはゴミ山が周りを囲んで出来た一本道が広がっていた。

ムスビ達は長い時間下水道を歩き回り、人目のつかないこのゴミ山街道から王国へ侵入した。そして三人は次に中心街を目指すのだった。

「うぅ、何だか怖い感じだよここら辺…」

「さっきよりは人が増えて来たけど明らかにここって…」

「…まあスラム街ってやつだな」

「声をかけられても聞いちゃダメよ二人共…、皆で離れず歩くのよ…」

「う、うん分かったよ」

そして途中声をかけてくる人間を無視し進んでいった。

「もう夕方近くね…。早く宿を見つけなきゃ…」

少しずつ進んでいく三人だったが、しばらく進むと途中でムスビが足を止めた。

「…ここは」

「え…、ここって…」

「宿…なの、かしら…?」

そこには宿の看板こそあるが、建物は見るからにボロボロ。はっきり言って廃業済みに見えるものだったが、建物には灯りがついていた。

「…ここに泊まろう」

「え…?でもここってまだ…」

「いえ、今日はここにしときましょ…。中心街まではまだ遠いしもう日も沈んじゃうわ」

ここはまだスラム街、中心街からはまだ遠い。夜にこの辺りを歩き回るのはさっきまでよりも危険が増すだろう。

「…開けよう」

『カランコロン…』

「ヒヒヒ…、いらっしゃい…。おや子供が三人…泊まっていくのかい…」

扉を開けるとこの宿の人間と思わしき中年の男性がいた。三人を笑顔で出迎えているがどこか怪しい雰囲気がにじみ出ていた。その人物とミサキとミレアは目線が合わないよう、前にいるムスビの陰に隠れるのだった。

「…犬もいるけどいいですか」

ムスビはそう口を開いた。いつもならミレアとミサキが宿の人と話していただろうが、宿の雰囲気に委縮しており、今はムスビが宿の人と優先して話していた。

「くふふ…、心配しなくても大丈夫だよ…。泊まるんなら一人につき700、食事もいるならさらに追加で300だよ…。因みにお風呂はこの宿にはないからね…」

「…食事もお願いします」

「ヒヒヒ…、部屋は三人とも同じ部屋の相部屋ってことになるけどいいかな…?」

「…そうしたいところだが、いいか?」

ムスビは後ろを振り返り二人に確認した。そして二人が頷くのを確認すると財布から金を出して渡した。

「ヒヒヒ…、毎度あり…」

「三人で3,000、安いわね…」

「くふふ…、安いのがうちの売りでね…」

王都での宿代一人当たりの相場は一泊1,500~2,000、食事も入れたら2,000~4,000はかかるのが一般的だ。三人合わせても3,000しかかからないのは破格と言える。

「…部屋はどこに行けばいいですか」

「フフフ…、そこの廊下を進んで一番奥の部屋だよ…。食事が出来たら運んでくるからゆっくり休んでいっておくれ…」

「…はい、ありがとうございます」

ムスビは部屋の鍵を受け取り、部屋に向かって進んでいった。そしてムスビにピッタリくっついてそそくさと二人もその場を離れていった。

「ヒヒヒ…、何の事情があるかは分からないけどゆっくりしておいで…」

『バタンッ』

部屋へと入ると同時に二人は扉を閉めた。

「はぁ~、何だか緊張しちゃった…」

「正直、不安でしょうがなかったわ…」

「…はあ、大人との会話不安だったな」

「いや、そこじゃないでしょ…」

「…割と普通の人だったと思うよ。こういう所にはああいう感じの人もたまに見るし」

「そうなの…?というかあなた、こういうところに詳しいの…?」

「俺はじいちゃんとばあちゃんに拾われる前はここと似たとこに住んでたよ」

「え…、そんなの初耳よ…」

「嘘…、私もそんなの聞かされてないよ」

「…そりゃあ、話したことないし」

「何でそんな大事なこと…」

「…いや別に聞かれなかったし」

「嘘だ、私ムスビちゃんに昔のこと聞いた時に大して話すことないって言ってたもん」

「大した話あるじゃないの…」

「…面白い話は本当になかったんだって」

『コンコン…』

「…はーい」

「ヒヒヒ…、言い忘れてたけどトイレはこっちとは逆側の方にあるからね…。それと売店もあるから利用したくなったらぜひ寄って行っておくれ…」

「…教えてくれてありがとうございます」

「ヒヒヒ…、お邪魔しちゃって悪かったねえ…。ではごゆっくり…」

『バタンッ』

「…ほら親切に教えてくれた」

「はは、そうみたいだね」

「それでも慣れないわよ正直…」

その後、三人は宿でぐっすり休んだ。そして明日、三人で中心街へ向かうこととした。

翌日の朝

「フフフ…気を付けていくんだよ…くふふ…」

三人は宿を後にした。

「さあ、中心街へ早く行きましょ」

「まずはどこに捕まっているのか見つけないとね」

「…アズキ、そろそろ機嫌直してくれよ」

アズキはムスビにそっぽを向いた。

「ふふ、何か美味しいものでもあげたら?」

「…ソーセージあげるから」

ワンッ!

先程までとは打って変わり尻尾を振って喜ぶアズキだった。

そして何時間かかけて昼頃になってきた頃に中心街が近づいてきた。

その証拠に三人の耳には人々の賑わう声が届いていた。

「とうとうスラムを抜けてこられたわね」

「取り敢えず大事が無くてよかった」

「でもこっちだとグリド達に見つかる可能性もグッと上がってくるわね」

「取り敢えず怪しい動きはしないようにしなきゃ…」

「思ったんだけど私達これで街中歩いてたら目立つんじゃないかしら」

「ムスビちゃんは仮面と頭巾、ミレアちゃんは黒のローブで全身を隠してるもんね…」

「これじゃ見つけて下さいって言ってるようなものよね、どうしましょ…」

「…まあ大丈夫だ」

「いや、だいじょばないでしょ」

「…二人共これを」

「え…、これ…」

ワイワイガヤガヤ…ガヤガヤ…

ザワ…ザワ…ザワ…

ヒソヒソ…ヒソヒソ…

そこらじゅうにある店で人々が買い物をしている。沢山の通行人は勿論、店主に値切りをしている者や魚の大きさを見比べている者、道の端で芸を披露している者様々だ。だがその中でも周囲から視線を向けられている者達がいた。

「え、何あれ…」

「あの人たち何であんな格好してるの?」

「ちょ、ちょっと。あんまりジロジロ見ちゃだめよ…」

「仮装パーティー…?」

多くの通行人が視線を向けている先には白いカーテンか何かをかぶってお化けに見える者、鬼の面をつけてる者、そして白いヘルメットを被った者が居た。

「………ねえ、ちょっと…」

「…」

「ねえ、ムスビちょっと…」

「…ん?どうした?」

「いやどうしたじゃなくて…」

「うぅ…、さっきからじろじろ見られてるよ…」

「一旦路地裏に行きましょ」

「…しかしまだ街の中少ししか進んでないぞ?」

「良いから早く…」

「ムスビちゃん…、早く来て…」

「…分かった」

三人は途中で路地裏へと行き、そこでミレアとミサキはいつもの格好に戻った。

「…せっかく変装したのにどうした」

「何が変装よ!あんなの余計目立ってるだけじゃない!」

「恥ずかしい…。というかこれ去年の節分の時のお面じゃ…」

「あれじゃただの変人集団じゃないの!」

「…そうは言ってもお前は昼は体隠さなきゃだし、ミサキは顔が割れてるし、俺は仮面がバレてるし」

「うぐっ、それはそうだけど…」

「…視線が恥ずかしいのはそうだが、…皆を助けるんでしょ?」

ミサキ・ミレア「うぅ…分かった(わ)よ…」

二人は羞恥の心を抑え、人々の視線を向けられる中、街を見て回っていった。

そしてとある看板を三人は見つけた。

『グリード・ショップ』

「あれは…」

「どうやらここはグリドの経営する店みたいね。他の店と違って何階層も買い物する場所があるみたいよ」

「あそこに皆が居るのかな…?」

「どうかしらね、ここは普通の人が買い物しているいわばグリドの表の顔の店。人も多く出入りしてるこんな所でそんな危ない商売をするとは考えにくいけど」

「…他の所も見ていこう」

そしてしばらく街を見て回り…

三人はセブンス家の豪邸を遠くから眺めていた。

「さっきの店以外に有り得そうなのはあそこなのかな」

「まあ、一番可能性が高そうなのは自宅かしらね…」

「…」

「それにしても…」

「なんて豪邸なの…」

「取り敢えず、あの周辺を見て回ってみる…?」

「そうしましょっか…」

ワンッ!ワンッ!

「…ん?どうしたアズキ?っ!あれは…」

「え、アズキちゃんが吠えてる…ってどうしたのムスビちゃん?」

「何かあったの?」

「…こっちに来て」

「ちょっと何で隠れるのよ」

「見て…、あれ…」

「え、あれって王国の騎士ね…」

三人が見つけた騎士は船で襲ってきた騎士達と同じ格好をしていた。

「危なかったわ、王国内なら騎士が歩き回っていたっておかしくないわよね」

グルルルルゥ…!

「アズキちゃん唸ってる…」

「そうかアズキ、やっぱり間違いないようだな」

「え、何が間違いないの?」

「…あの男、船で倒した騎士の一人だ」

「え、そうなの?」

「…右の頬にある古傷が船で見た奴と同じだ。しかもよく見ると船で負ったであろう火傷の跡もある。その上アズキも奴のにおいを覚えてるみたいだから間違いない」

「それが本当なら、あの騎士は船の騒動から王国に帰ってきた訳ね」

「でも私達には気付いてないみたいだね」

「…着いていこう、何かわかるかもしれない」

「大丈夫?危険そうだけど」

「…何か分かるかもしれない。バレそうになったら離れよう」

そして三人は騎士を後ろから距離を置いて追いかけようとしたがその時…

『王国内の皆様へお伝えします』

「ん?」

街に放送が流れた。それに伴い騎士は一旦足を止めた。

「なにかしら?」

「ミレアちゃん、振り返られたら見られちゃうからもうちょっとこっち隠れよう?」

「あっ、そうね」

「…」

『王国騎士団第十二部隊が管理していた飛竜が脱走しシラアワ山近辺で目撃情報が見られています。現在、王国騎士団を向かわせ被害が出る前に対処を試みています。危険ですので皆様シラアワ山へ近寄らぬようお気を付け下さい。繰り返します……王国……』

「どうやら街中に放送してるみたいね…」

「もしかしてこれって…」

「…俺達と一緒に島に来た飛竜のことかもな」

「あー、確かに元々騎士達が乗ってた飛竜だったわね…。それをそのまま野に返したからその後処理って訳ね」

「…奴が進んだな。追うぞ」

三人は騎士に見つかること無く追跡ができ、騎士を追いかけていくと中心街とは離れていった場所へ向かっていた。そこは工場や倉庫が多く建設されている地区である…

そして…

「ここは…」

騎士は鉄格子の扉を開けて敷地へと入っていった。敷地には三階建ての屋敷があり、本館と別館の二つが見えていた。また敷地内には周りにあるのと同じような長方形の倉庫がいくつか見えていた。

「これ以上行ったら見つかっちゃうわね…」

「何だかさっきまでの所と違って静かだね…」

「この辺りにあるのはこの屋敷と倉庫ばかりみたいだから人もあまり寄り付かないみたいね…」

「でもこの屋敷立派だよね…。もしかしたら本当にこの中に…」

『ガチャ…』

そして玄関の扉が開き、中から髭の生やした白髪の男が騎士を出迎えた。

「…黒い格好をした奴が出てきたな」

「あ、本当だ丸眼鏡をかけてるおじさんが中に居るね」

「ここからならギリギリ聴こえそうね、あいつらの会話が」

「ん?(え、この距離で…?結構遠くて私には聴こえないよ…?)」

「…(マジか)」

(なんて言ってるのかしら…)

『お待ちしておりました。中へどうぞ。グリド様は応接室でお待ちになっています』

「!!(グリドが中に…!)」

『バタン…』

そして、扉が閉じられ騎士と執事の姿は三人には見えなくなった。

「ね、ねえどうしたの?何か聴こえたの?」

驚きが顔に出ていたミレアだったがそれを見たミサキはすぐにミレアに確認をしていた。

「居るみたいなの…。グリドがあの屋敷の中に」

「え!?」

「…それは本当か」

「ええ間違いないわ。でもそうなるとここが一番怪しい場所かもしれないわね…」

「じゃあグリドはあんなに立派な家に住んでるのにここにも屋敷建ててるなんて…」

「私達の家族とかを閉じ込めておくスペースもありそうよ…。自分の商売の為にこんな屋敷建てたのかもしれないわね。商品置き場も兼ねて…」

「…(ここがもしそうなら俺達はここに忍び込んで戦うってことだが…)」

「どうする二人共…?」

「…(となれば敵もここで迎え撃つ為にこの中である程度の準備をしているはず…。俺達がわざわざ自分から懐に飛び込んでくれる絶好の機会を逃さない為に…)」

「私は一先ずここを離れるべきだと思うわ。まだ準備も何も無いんだから調べるにしても後にするべきよ。ムスビはどう思う?」

「…(最初の一回で何としても決めないとこっちにはもうチャンスなんて無い…。敵の油断をつけるのはこっちの手札がバレきってない今しかない…)」

「ムスビちゃん?」

「…(一か八か…これしかないか…)」

「あのちょっと、ムスビ?」

「…一度離れるぞ」

「え?ええ、そうね…」

三人はグリドのいる場所に目星をつけ、その場を後にした。そして、スラムまで戻り昨日と同じ宿に泊まることとしたのだった…

グリドが居ると思わしき場所を確認した三人。そしてその日の夜三人はスラムの宿へ戻った。そして作戦の一部をその晩、話し合うのだった。話し合いが終わった後、ミレアとミサキは部屋に残っていたが、ムスビは一人で外へ出ていった。

ムスビは一人でゴミ捨て場の方へと向かっていた。

「…今日は一旦これで帰るか」

そして一時間ほどその辺りをうろつくと宿の方へと帰っていくのだった。

ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…

暗く静かな道で一人歩くムスビの歩く音がしていた。

ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…

ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…

だが途中からその足音は一人から二人分に増えていた。

そして…

「グエェェ!!?」

ムスビ以外のもう一つの足音の主の声が響いていた。何故なら後ろから近づいて気付かれていないはずのムスビに、不意に腹を思いっきり蹴られていたからだ。

「ぐ、このクソガキぃ…。許さねえ、このナイフで切り…!?」

「…このナイフで何をしようとしたんだ」

男は手に持っていたはずのナイフを目の前の少年に取られていた。

「う…、いつの間に…」

「…逃げたら?」

「ぐ、くそぉ…大人をなめやがって…」

男はどうやら目の前の少年にご立腹のようだ。ナイフを取られてしまっているのに少年へ猛スピードで襲い掛かっていった。だが…

『バンッ!!』

「あぐあっ…!?」

「…?」

男は後頭部を殴られていた。殴っていたのはムスビではなく、男の後ろに立っている鎧に身を包む茶髪の女性だった。

『ドサッ…』

「…あらま」

「全く…、子供相手に情けない大人だ…」

「…」

「ふぅ…、君大丈夫だったかい?」

「…はい」

「良かった…。でもね、こんな夜遅くにこういう道を子供一人で歩くのは危ないからやめるんだよ」

「…心配かけてすみません」

「まあ、謝らなくても大丈夫だよ。でも君も今の男ぐらいなら大丈夫だったかもしれないけど何が起きるとも限らないんだ。お父さんやお母さんが心配するから早くお家に帰らなきゃだめだよ」

「…そんなのはいないけど、そうですね。早めに宿に戻ります」

「………!ごめんね、辛いこと言わせちゃって。危ないからせめて宿まで送っていくよ」

「…いえ、お構いなく。宿はすぐそこなんです」

タッタッタッタッタッタッ…

そう言ってムスビはそこから離れていった。

「あ、行っちゃった…。ってホントに近いみたいだね宿…。まあ宿に戻ったなら取り敢えずいいか…。こっちも仕事中だし…。じゃ、22時32分、少年への殺人未遂の現行犯逮捕と…」

そう言って彼女は倒れている男に手錠をかけた。そう、彼女は警察だったのだ…

『ガチャッ』

「あ、ムスビちゃんお帰り」

「………ッ!ハア…ハア…。あらお帰り、そっちは大丈夫だった?」

ムスビが外出している間ミレアは魔法の練習をしており息切れをしていた。

「…ああ」

「良かった、じゃあ予定通り明日ごみ捨て場へ戻りましょっか」

「…そうしよう、それと作戦開始までにちょっと調べたいことも出来た。本当は四日後位に決行したかったが…。救出作戦…、上手くいけば何とかなりそうだ」

「と言うことはさっき決められなかった作戦の詰めの部分、そこが決まったのね!」

「…ああ。これでグリド達を倒せる。皆を助けられる」

とうとう救出作戦を開始するまであと少しまで漕ぎ着けた三人…

吉と出ようと、凶と出ようと、三人の旅の終着点もそこで決まる…


一方、三人が王国に侵入してから数日が経った頃…

既にグリドは船での出来事を帰還した騎士から話を聞いていた。そして執事からさらにグリドへある報告がされた。

「グリド様…、奇妙な事件が」

「ん?何だ、吸血鬼が街で何かしたのか?」

「いえ、それがエイド地区でのことなのですが…」

「ああ、あのスラム街のところか」

「そこのゴミが殆ど消えたとのことです」

「え、あそこのゴミが…?」

「は、はい。誰が何のためにしたのかは分からないのですが…。それにゴミが山のように積まれていた場所には焼け跡のようなものもあったそうなのですが、ゴミ全部が燃えたような大規模の火事は発生した訳では無いようで、何故か小さな焼け跡が点々とあるとのことで…」

(いったい誰が…。もしや吸血鬼がやったのか?いや、それはないか…。船での話を聞けば魔法が使えるようになったらしいがゴミをどうこうしたところで何の意味もないはずだ。焦ることはない…。こっちは船に乗った騎士達の話からそっちの手の内を殆ど知っているんだ。こっちに妹の吸血鬼が居る限り仕掛けて来るのはそっち…、どっしり構えて待てばいい)

「まあ良い、それよりも例の手筈は順調か」

「はい、グリド様。そちらの方は滞りなく進んでおります。船での吸血鬼捕獲は失敗に終わりましたが、今度こそ成功させるはずです。失敗した騎士達やグラット様率いる傭兵達も品の警備の為に呼び集めております」

「ではこのまま引き続き、部下達の見回りは続行。街でそれらしいのを見つけても深追いはし過ぎないように。下手に追い詰めて妹の救出を諦めることがないようにな。それに今は面倒な警察本部のお偉いさん達も来ているし」

「はい、承知しました」

(ククク…、吸血鬼め。そちらが強くなろうが仲間を増やそうが無駄だというのを教えてやる。すでにお前達が街に潜んでいることはバレバレだ。俺から動かなくてもお前は自分からこっちに来てくれる…。その時点でもうお前の勝ち目はないのだ…)


そして三人が王国に侵入してから丁度十日目に救出作戦は決行された…

昼の賑やかな雰囲気から打って変わり静まり返った夜の街…

空を見ると星が輝き、月が真夜中の街並みをうっすらと照らしていた…

「とうとうやるのね…」

「うん…。なんだかここまで長かったような短かったような…」

「…」

ワンッ!

『ゴーン…ゴーン…』

時計塔の針が十二時を指し、鐘が鳴り響く…


第十三話 敵の本拠地・王国へ 救出作戦開始 終

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