第15話 追う騎士達、追われる黒ローブ

屋敷に侵入成功したムスビとミレア…だが…

「さて…ここは本館の一階だけど予定通り私は別館に向かうわね」

「…ああ、俺は本館を順番に上っていく」

現在二人は屋敷の本館の東側、端から二番目の部屋に居る状態である。

「行きましょ、あいつらもすぐ中に入ってくるわ」

「…ああ、分かっている」

『ガチャ…』

ドアを開き廊下を進む。が…

「何!?貴さ…グエェェッ…!」

『ドサッ…』

ドアを開けてすぐに廊下にいた騎士に見つかってしまった。だが次の瞬間、ムスビに頭を殴られ騎士は床に転がっていた。

「危なかったわ。別館まで行くにしてもこれじゃ道のりは長そうね」

「…階段はあっちか」

廊下に出た二人には両サイドに階段が見えていた。

本館にはいくつかの階段があるが、それの一つの中央階段の方は玄関に入ってすぐの場所、外に出ていった騎士達と遭遇する可能性が高い場所である。二人は当然それを避けもう一つの東側の階段を目指すが…

『タッタッタッタッタッタッタッ…』

二人には大人数の足音が聞こえていた。

「見つけたぞ!あいつらを捕まえろ!」

外から戻ってきた騎士達に見つかってしまった。

「…逃げるぞ」

「いえ…、どうやらそうもいかないわよ」

二人が逃げていく方向、二人を後ろから追う騎士とは別に敵が居た。

本館の一番東端側には二階に上る階段と北側に続く別館への通路がある。その別館へ続く通路から敵の大群が来ていたのだ。

ミレアにはそいつらの足音が聞こえていた。

「向こうからも来てるわ」

「…仕方ない、ミレアちょっと予定変更だ」

「………。私も2階へ行けばいいの?」

「…その通りだが、一旦こっちだ」

そう言ってムスビは

『ガチャッ…』

とムスビは館の一番端の部屋の扉を開けていた。

「そういうことね」

そして二人は素早くその部屋に入り扉を急いで閉めた。

『ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ…』

扉を叩く音が鳴り響く。

「開けろ!」

扉の外からは騎士達の荒げた声が部の中の二人に聞こえていた。

『ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!』

音は先ほどまでと比べてもさらに激しくなっている。

このまま放っておけば騎士達は扉を突き破りあっという間に入ってくるだろう。

「…ミレア、開けてくれ」

「言われなくてもとっくに準備は完了してるわよ、吹きすさべ突風よ!」

『バキバキッ!!』『パリーンッ!』

そんな破壊音と共にその突風は突き破った扉とその向こうに居た騎士達を吹き飛ばしていた。

「あぐあっ…!」

扉越しでミレアの魔法に直撃した騎士達はダメージで立ち上がれなかった。だが敵の数はこの程度ではない。第二第三の騎士達が二人に迫るべく部屋に乗り込もうとしてくるが…

「ええい吸血鬼め!大人しく…」

「ど、どこだ吸血鬼は…!?ま、窓が割られている!」

「そ、外に逃げたのか!?」

「み、見ろ!外に居るぞ黒ローブが!」

「情報ではあの黒ローブを着ているのは吸血鬼のはずだ、奴を追うんだ!」

「いやしかし…、さっきまで一緒に居たもう一人はいったいどこへ…?」

「外に逃げたに決まっているだろう!」

「そもそもの情報では敵の数は最低でも三人のはず…。全く姿を見せてないのが一人いるのはどういうことだ?」

「そんなことはひとまず良い!問題の吸血鬼は目の前にいるんだ!」

「吸血鬼はあの黒いローブだ逃がすな!」

騎士達はその壊れた窓から追う者とほかの場所から屋敷の外に出る者に分かれて黒ローブを追っていった。

外に出た黒ローブは本館と別館をつなぐ渡り廊下の屋根の上に立っていた。

そしてそれを囲むように渡り廊下の周りに騎士達が集まって来ていた。そして

『シュパパパパパパッーーーーー!!』

と上から何かを黒ローブは下に居る騎士達に投げつけていた。

『ベチャッ!』

『ドチャッ!』

『グチャッ!』

騎士達もそれを避けようと動いても一部に人が集まっているこの状況はそれをするには困難な状況だった。投げつけられたものは次々に騎士達に当たっていた。

「な、何だこれは!?」

「く、臭い…奴が飛ばしたのは…?」

「ば、馬糞だ!奴め、ウゲッ!」

「ギャー!き、汚ねぇ…!」

「こ、こっちは生ゴミだ!臭いがひどい……、ホントにひどいぞ…!」

「う、うわ!また来た!」

「お、お前!臭いからこっち来んな!」

「なんて物投げてやがるあの吸血鬼!この人でなしが!」

「こんなことするなんてあいつプライドは無いのか?」

(めっちゃボロクソに言われてる…)

騎士達がいくら敵に対して非情になることが出来たとしても、いきなり生ゴミや馬糞を投げつけられて平気とはいかなかったようだ。

『パリーンッ!!』

少なくとも騎士達に一瞬の隙を作ることにはつながっていた。下に居る騎士達は屋敷の二階の窓を黒ローブが突き破りみすみす入らせてしまっていた。

「し、しまった!屋敷に逃げられた!」

「お、追え!急いで俺達も中へ!」

「待ちなさい、汚れた人達は来なくていいです。グリド様の屋敷まで汚れてしまいます」

「そ、それはそうかもしれんがしかし…」

「あなた達は外で待機です。吸血鬼がまた外に逃げてきたその時に、今度こそ吸血鬼を囲むんです」

「ぬ、ぬぅ…」

「それに増援も連絡も来ています」

屋敷の門、そこには二百人以上の騎士達が来ていた。

「わ、分かった…」

そうして百人程いた騎士達の殆どは屋敷の外で待機することとなった。代わりに追加で来た二百人以上の騎士達が吸血鬼を追うこととなった。


そして館の一番東にある部屋にて…

『タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ!!』

『タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ……』

騎士達の足音が聞こえている。二階へ駆け上がる騎士達のものだ。二階へ逃げた黒ローブを追って逆に今屋敷の一階には殆ど人が居なかった。

『ガサッ…』

そしてその部屋にあるタンスが内側から開けられた。

中に入っていたのは騎士達が見失っていたもう一人…

『ワンッ…!』

ともう一匹…


そして場面は逃げる黒ローブとそれを追う騎士達の方へ…

「居た!奴は三階に上ったぞ!」

「だ、だが見ろ!階段が家具でふさがれている!」

「下らん手を使ってちょこまか逃げおって!だが…」

「逃げ道のない三階に逃げるとはな!」

「よし早くこれをどけて…」

「いえ、その必要はないです。皆さんどいてください」

「何…?」

「頼みましたよ」

「分かっているさ、吹きすさべ突風よ!」

そして階段を塞いでいた家具は吹き飛ばされ、道は開けた。

「こ、これは…」

「魔法ならこれぐらいはすぐです。では行きましょう」

「奴め、向こうに逃げていくぞ!」

廊下を走る黒ローブの姿を騎士達は捉えた。だが、黒ローブが逃げる廊下の先には階段がある。追いつけなければ中央階段から逃げられてしまうだろう。

「待て吸血鬼め!こっちに逃げようとは思わんことだ!」

だがその中央階段から騎士達が上がって来た。さらにその奥にある西側階段からも騎士達は上がって来ていた。三階に騎士達が溢れかえっていた。

『ダッ…!』

黒ローブは階段の方へ向かうのを止めて、別の方向…、屋敷の三階にあるバルコニーの方へ逃げていった。

「ふっ、無駄なことを…」

「そっちに行っても逃げ場はないし、仮に飛び降りても吸血鬼が持つ生命力で何とか生き残れるって目算なら下に居る騎士達が捕まえるだけだ」

騎士達は黒ローブを追い詰めていった。何人もの騎士達が屋敷の両サイドから迫り逃げ道を塞いでいった。先に騎士達が、後ろに魔法使いが控え確実に追い詰めていっている。追う者達はそう考えていた。

『ダッ…、ガタッ…!』

バルコニーに逃げ込んだ黒ローブは置かれているテーブルを足場にし、飛び上がっていた。

『シュタッ…!』

そして屋敷の屋根に飛び移っていた。下のバルコニーには倒れたテーブルと急いで駆けつけてきていた騎士達が既にいた。

「奴は屋根の上だ!」

「梯子だ!早く持ってこい!」

そして上るための足場を持ってくる者達が来てそこから登ろうとするが…

『シュパパパパッーーーー!!』

生ゴミがその騎士達にクリーンヒットしていた。

「まだそんなの持ってたのか!」

「ひでぇ…、顔に直撃してやがる!」

だがそれでも騎士達は屋根に登った。だが、まだ攻めない。

「とうとう追い詰めましたね」

まだ囲むだけである。吸血鬼が逃げられないように。

「ですが、話に聞いていたよりは楽に追い詰められましたね」

「船だと見えない壁で攻撃が阻まれたって話だったが、それを利用しつつ魔法を使いながら屋敷の中に入られていたら相当厄介だったんだがな」

「所詮、その程度も考えられない相手だったってだけのことだ」

「人でもない獣のようなものが魔法を覚えたところで無駄だったみたいですね」

「まあ我らに…、グリド様に逆らおうという時点で賢さのかけらもないんでしょうが…」

騎士の後ろに隠れている魔法使い達は勝ち誇ったように好き勝手なことを言っていた。

だがそんな中…

「…思ったより楽な奴らだったな。下らんことを言う暇があったらさっさと魔法の詠唱でも始めてればいいものを」

「なに…?い、今の声は…」

その声は少年のものだった。声の正体は騎士達が追い詰めた黒ローブを着た人物からだ。

「…ろくに疑いもせず」

「ば、バカな…。黒いローブはあの吸血鬼のもののハズ…なのに何故…」

そう、最初から違ったのだ。追っていたのは吸血鬼などではない。ミレアの仲間、ムスビだったのだ。

「…ここまで上手くいくとは」

「まさか最初から俺達が追っていたのは吸血鬼ではなかったというのか、小僧?」

「…まあ運が良かっただけと言えばそれまでか、敵が愚かだったのは」

ミレアの黒ローブは吸血鬼の母親が自分の子供の為に作る特別な物である。それを着ている者はミレアだと騎士達は決めつけてしまっていた。

「まさかさっきまで一緒だったもう一人の方か!?」

「…おかげで勝てそうだ」

騎士達はもちろん、後ろに居る魔法使い達も動揺していた。必死になって追いかけていたターゲットが別人だったというのだ。もっともそんな動揺してる間に勝負はついてしまうが…

『ザシュッ…!』

そう…

既に勝負はついていたのだ。ミレアのふりをしたムスビが屋根の上に登り、それをみすみす追いかけてしまった時点で…

『ドガガガガガ、ドガガガガガガガガガガガガガッガッシャーーーーンッ!!!!ガガガッガッシャーーーーンッ!ゴドゴドゴドゴドゴドゴド………』

グリドの屋敷、その屋根には溢れていた。

大量のゴミが…

溢れたゴミは屋根から下へ落ち、立派な屋敷があった場所は大きなゴミ山へと姿が変わっていた。ゴミは屋敷の門まで波のようにひろがっていた。

「う、うぐっ…」

「あがっ…」

騎士や魔法使いはその大量のゴミに飲み込まれて皆が気を失っていた。

「…ふぅ、ごめんねばあちゃん。せっかくの形見こんな形で使っちゃって」

そう、このありえない量のゴミはムスビが持っていた鞄、魔法の力で容量が膨大になっている鞄から出されたものだ。


時は作戦会議の途中の話まで遡る…

「ムスビ、次の話しに移るわよ…。さっき言っていたあなたが囮になる作戦。どんなのか聞かせてもらえるかしら?」

「まあ、作戦としてはさっき言った通り俺はミレアのふりをする。そうして一番上まで登る。少なくともあの屋敷の屋根の辺りまでは行く予定だ」

「わざわざ逃道の無い建物の上を目指すの?」

「…ああ。そこが一番の場所だ。こいつを使うにはな」

「ん?それって…」

「貴方のおばあちゃんが作ってくれたって言うバッグじゃない。それで一体何を…」

「…俺は作戦当日に、このバッグを壊す」

「え…?」

「こ、壊すって、それって大事で貴重なもののはず…」

「…確かに大事だし貴重だが、だからこそ使う」

「ムスビちゃん…、バッグを壊したら何が出来るの?」

「…このバッグは容量が大きい。グリドのところにあった倉庫よりもな…。俺もこのバッグの容量限界まで入れたことは無いが…。何にしてもその容量がいっぱいになるまでものを詰め込む。そしてバッグが壊れた瞬間、その中身はその場に溢れる。グリドの屋敷の上でな…」

「な…!そんなこと出来るって言うの!?」

「…出来る。これはおばあちゃんが生きていた頃に俺が既に一回バッグを壊した時に確認済みだ」

「そ、そうだったんだ…」

「で、でも貴方のその作戦にはバッグに詰め込む物が大量に必要なはず。そんなもの一体どうやって調達をするって言うの?」

「い、一旦王国の外に出て石でも拾う?」

「…いや、その必要はなくなった。別のを見つけられたからな」

「別の…?」

「…俺達が最初に王国に入った時にあったゴミ山だ。そこにあるゴミを可能なら全部貰っていく」

「え!?あのゴミを全部!?」

「と、というかいいの?その…、ゴミなんか入れて、貴方だって嫌なんじゃ…」

「…嫌は嫌だが仕方ない。俺達含めた何人もの命運がかかっているんだ。それにパッと見だがゴミの中には鉄製の物やまだ使えそうな物も幾らかあったから今回の作戦に必要なのを探すついでにもなるから丁度いい。俺が作りたいこれの材料も沢山あるだろうしな」

ムスビが言っている作りたいものは生ゴミを材料にした敵の注意を逸らす為の玉のことだ。

「も、申し訳無さが凄い…」

「でも、敵も絶対に気づけないよね。これは…」

「まあ、ゴミ山が無くなるなんて不可解なことと私達と結びつくわけないものね」

「…だが当然、これは一回キリの作戦だ。しかもいくら物を詰め込んだと言ってもそれが広がる範囲なんてたかが知れている。重要なのは敵をその範囲内に一ヵ所に集めることだ。そしてその為にはミレア…敵の目的であるお前のふりをするのが一番だ。何処に行こうと向こうから勝手に追いかけてくれる…」

「なるほど…。確かに、貴方にとっても好都合って訳ね…」

「…その通りだ。正直言って俺だと騎士一人一人を相手するのも一苦労だ。だが、これなら敵の守りも役にはたたない」

「敵も不意にゴミで押し潰されるのには対応出来ないもんね多分」

「ゴミで押し潰されて気絶しても良し、それを逃れた人間が居ても混乱に乗じて隙を狙うも良し、そうじゃなくても敵から逃げるチャンスにしても良し…って感じかしら?」

「…そゆこと」


一方、別館の方では…

『ドガガガガガ、ドガガガガガガガガガガガガガッガッシャーーーーンッ!!!!ガガガガッガッシャーーーーンッ!ゴドゴドゴドゴドゴドゴド………』

「フフッ、ムスビの方も良い感じみたいね」

ワンッ!

「これでムスビも追っていた奴らを倒して自由に動けるようになったことだし、ミサキちゃんも戻ってきやすくなったし、こっちも頑張らないとね。頼んだわよ?」

ワンッ!

「まあ…、私のふりして生ゴミとか投げるって言われた時は正直嫌だったけど…」


こうしてグリドが抱える騎士達と魔法使い達を一網打尽にしたムスビ…

だが、救出作戦はまだ成功していない。

あまりにも多い敵をただ処理しただけに過ぎないのだ。

重要なのはここからである…

次回に続く…


第十五話 追う騎士達、追われる黒ローブ 終

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