第41話⁂最終話⁂

 


 三ツ矢と初枝は今までの穴埋めをするように人生の終盤は、それはそれは幸せな結婚生活を送ってこの世を去った。

 三ツ矢は何と大往生の90歳で天寿を全うした。

 

 一方の初枝は、あれだけ仲の良かった愛する夫三ツ矢の後を追うように、三ツ矢の死から僅か3日後の83歳でこの世を去った。

 

 人生の後半は、今までの不幸を取り戻すかのように、それはそれは充実した人生を送ることが出来た初枝の人生は、なんだかんだ言って、本当は幸せだったと言えるかもしれない。

 

 ◆▽◆

 それではあの遠い夏の日に海水浴に行った、若い4人組のその後はどうなったのか?


 江梨子に思いを寄せていた北村は大学を卒業後、石川県庁に勤務。

 今現在は退職して妻と共に老後を楽しんでいる


 北村が、あれだけ江梨子に思いを寄せて尽くしまくったが、結局は実らず仕舞い、結局只の友達付き合いに留まっている。


 それでは山根を射止めたのは小百合なのか?

 それとも江梨子だったのか?


 ◆▽◆



 初夏の爽やかな日曜日だったが、時間はPM2時を少し回った時間帯。

 大学生のマンションにしては2LDKと広いが、ボーリングの後食事を取って帰宅したばかりで部屋は滅茶苦茶蒸し暑い。

 

 夏という事も有り、キャミソールだけの肉感的でグラマラスなボディが、思い切り目の前に飛び込んで来て抑えきれない衝動にかられた友樹。


 夏の暑さで頭が朦朧としていたのも手伝って、訳も分からず只々興奮して………。


「今日は良いだろう」


 返事も聞かずに無茶苦茶に乱暴に抱いてしまった。

 多分「ヤメテ❕止めて!」と叫んでいたが、無理矢理事に及んでしまったのだと思う。


 多分、今までの鬱積した思いをぶつけたかったのも有るのだ。

 それは一体どういう事?


 それは……実は…あぁ~やっと、父副住職と母初枝をあんなにも残酷に傷つけ、家族をバラバラにした復讐を達成できた達成感と、その反対に最も愛する女性小百合を無理矢理乱暴に抱いた嫌悪感で、押し潰されそうになっていた。


 確かに池田に捨てられ、義父三ツ矢が母初枝を愛しすぎる余りに、美しい身体を傷付けてしまった事が、母が気が触れた1番の原因かもしれない。


 また、副住職の実父が、どうしても母を自分だけの者にしたくて、淫らな格好の母初枝を手籠めにした結果俺が生れたが………。


 だけど……その行為は到底許されるものではないが、それもこれも母初枝を愛するが余りの行為。

 三ツ矢はあんな狂った母を引き取り、そして…この俺までも引き取って、あえて苦労を買って出てくれた。

 当然初枝を心から愛しているからなのだろうが、自分の愚かな行為に責任を取ろうと必死だ。


 実父の副住職も20も年が離れていたが、親子の縁を切ってでも母初枝を迎えに来るつもりだった。


 だから……愚かな行為だった事は認めるが、恨みの一欠片も2人の父にはない。

反対に感謝していると言った方が正しい。



 だが、小百合の父和尚さんと母佳代2人には、それこそ相当の恨みを抱えている。

 それは……余りにもやり方が汚いからだ。

 

 善意の和尚さんを前面に押し出して世間の目を欺き、その実は…心の奥底ではドロドロの卑しい欲望が渦巻き、ロボトミー手術の影響で誰かに漏らす筈がないと分かった途端に、美しい女体を思う存分楽しもうとした余りにも愚痴な行為。まさに住職にあるまじき行為。


 一方の小百合の母佳代は嫉妬の余り、最初から母初枝の真実を見ようともしないで、自分の感情「夫が、余りにも魅力的な初枝に狂うのでは?」そんな危機感ばかりで、母を毛嫌いして受け付けなかったばかりか、嫉妬の余り、あの夜三ツ矢の切り口に沿って母の美しい乳房と○部を、滅茶苦茶に切り刻み、死ぬ事も有ると分かりながら、母にあんな酷い傷を負わせた。

 

 更には実父を、自分の犯行が夫和尚にバレるのを恐れて破門にした。

 その恨みは今尚、色濃く友樹の心の奥底に残っている

 

 

 ◆▽◆ 

 まさか同じ大学の同じサ-クルに、そんな因縁の娘小百合が居ようとは夢にも思わず、最初は『可愛い娘がテニスサークルに入って来たな~』ぐらいに思っていた。

 

 だが、江梨子と話していく内に違った感情が芽生えて来た。

 その原因、江梨子が放った言葉。


「私の大親友は、山根先輩もよく知っている西光寺のお嬢さんで、テニスサークルの富士小百合なんだ」

 そう聞いた時は、ビックリして腰が抜けそうになった。

 

 

 まだ見ぬ第二の故郷、自分の原点である魚津の美しい蜃気楼が、”ふ~っと”蘇って来た。

 だが、その後に何か……?口では言い表せない程の憎しみが、押し寄せて来るのを感じた。

 母初枝を不幸にした町。父と母の負の原点、西光寺。


 人を導き人々に仏教の教えを説く、和尚さん一家によってもたらされた、山根一家の別れ。


 


 ◆▽◆

 

 あの初夏の日のPM2時を少し回った蒸し暑い日に、友樹を襲った心の闇。


 余りにも幸せそうな小百合を見るにつけ「何て可愛い娘なんだ!」と思う反面、何か無性に腹立たしく、母初枝を散々酷い目に合わせておきながらと思う気持ちが、交互に押し寄せて来た。


 そして…その時に、一気に恐ろしい悪魔の囁きが聞えた。

 今こそ復讐のチャンス、処女の小百合を愛しているフリをして、甘い言葉を散々囁いてその気にさせて、そして乱暴に処女を奪い一切の連絡を絶つ、これが最高の復讐と言うもの。


 同じ女でも母と比べると天と地の差、それもこれも母を不幸に陥れた小百合の両親のせいで母初枝は不幸のどん底に突き落とされた。

 

 だが、この娘は何だ!こんな幸せそうな何の苦労もない、幸せを絵に書いたようなお嬢様、そう思うと小百合を滅茶苦茶に壊したくなった。


 小百合が俺に気があるのは百も承知だ。その気持ちを分かっていながら、あえて粉々に壊したくなった。

 

 皆にも責任があるのに、小百合の両親だけに固執するのはいかがなものか?

 チョット逆恨みの感も否めないのだが…………。


 だが、その残酷な行為の後、それ以上に、その何倍も何十倍も後悔が押し寄せて来た。


 ああああアアアアアア!俺はなんて事を?もう手遅れだとは思うが?もし……こんな酷い、心の腐った俺でも……ほんの少し……ほんの1ミリでも許してくれる心があるのなら……俺は一生小百合に償いをして……大切に大切に守り通していくつもりだ。


 ◆▽◆ 

 小百合はマンションに帰り延々と泣き崩れていた。

「あんなに優しかった友樹が、私が拒んで居るにも拘らず滅茶苦茶にした…何故?ワァ~~ンワァワァ~~ン」

 

 自分の部屋と何ら変わらない、お互いの部屋を行き来している2人なのだが、小百合が今日はやって来ないので、今度は江梨子の方が小百合の部屋に行った。


 すると、いつもの明るい小百合らしくなく、延々と泣き崩れているので心配になり聞いてみた。

 だが、事が事だけに、話せる訳もなく只々泣き続けている。

 無理矢理友樹に処女を奪われたとは到底言えない。


 それでも江梨子が心配して、食欲のない小百合の為に夕飯を作ってくれたり、後片付けをしてくれたりしたので、何か……ふっと辛かった話を聞いて貰いたくなった。 そして全てを江梨子に話した。


 その話を聞いた江梨子は、小百合を可愛そうに思う反面、また別の感情が押し寄せて来た。

 

 もう2人は1つになってしまった。もうこれで友樹を諦めるしかない!


 絶望感が押し寄せて来たが、すぐにまた違う感情が江梨子を支配した。


『イヤイヤ~?関係を持ったから2人は1つと考えるのは間違っている。要は只の欲望のはけ口、弄ばれただけなのかも知れない。本当に好きな女の子をそんな乱暴に扱うわけが無い……それって事は、私の方が可能性があるって事かもしれない。もうかれこれ知り合って1年以上になると言うのに、手も握った事がない……雨の日には相合傘では帰るが、それくらいだ……それって事は私を大切に思っての事に違いない!』



 そう思い、江梨子は勇気を振り絞り大胆な行動に出た。


 小百合を無理矢理抱いて、弄んだかもしれないが、そんな関係でも、いつ真実の愛に変わるかもしれない

 その危機感で一杯の江梨子はある日、友樹のマンションを訪ねた。

 

 だが、まだ帰っていない様子。

 暫く待っていると、アルバイトが終わった友樹が帰って来た。


「どうしたんだい江梨子ちゃん、こんな夜遅くに?」


「実は…おいしいケ-キ屋さんが有って……買って来たので……それで一緒に食べたくて……」

「ダメだよ……こんな夜遅く……帰りなさい」


「嫌よ私……今日は帰らないつもりよ。イヤ!イヤ!」


 そう言って友樹に抱き付いた。

「ああアア~ケーキが落ちちゃう~?もう仕方ないなあ~上がって上がって!」


 こうしてマンションの中に入った江梨子は、友樹と一緒にケ-キとお茶の準備をしている。


 そして…ケーキを食べながら江梨子が、ボツボツ自分の想いを打ち明け出した。


「あの~実は…今日は話が有って私……ここに来たの……あの~私……あの~!山根先輩の事が……山根先輩の事が……前から……好き……好きだったんです……だから……だから……私と付き合って……付き合って……貰えませんか?」


「…………」


「山根先輩どうしたんですか?黙りこくって?」


「…………」


「何とか言って下さい」


「俺は…俺は……好きな子が居るんだ……だから……ゴメン!」


「好きな子って………まさか………小百合?」


「……そう……そうなんだ!」


「そんなの絶対にイヤイヤ!小百合にだけは渡したくない!」


 泣きながら友樹に抱き付いた江梨子は、ここでオズオズと引き下がれば、完全に友樹が小百合の者になってしまう危機感から、恥も外聞もかなぐり捨ててやっとのこと最後の言葉を吐いた。


「イヤ!イヤ!私は・・・・・・ず~っと山根先輩しか見えなかった!私を抱いて」


 友樹はこんな綺麗なお嬢さんにそんな事を言われて、一瞬その気になったが、母初枝とレミママ、それと義父三ツ矢のあの恐ろしい三角関係を目の当たりにした経緯から『これは絶対に避けなくては!』そう思うのだった。


「尚も抱き付く江梨子を突き放し「俺は……俺は……江梨子を抱いても構わない……だが、結婚は出来ない……それでも良いのかい?」


「ワァワァ~~ンワァワァ~~ン」延々泣き続ける江梨子だった。


 ◆▽◆

 江梨子はその後どうなったのか?

 

 …江梨子はあれだけ一途に思い続けた友樹に、あっさり振られてしまい、ましてや宿敵小百合に取られた時はさすがに傷付いたが、余りにもはっきり言われてスッキリしたのと同時に、敗北感で押し潰されそうだった。



 そして…実は兄幸助が次期社長と目されていたが、胃癌で他界した為、江梨子が会社を継ぐ事になった。

 

 それでも、あれだけ憎んだ只一人の兄だったが、失って見ると寂しさが一気に込み上げて来るのだった。

 

 江梨子は、父の紹介で、会社の有望株、滝田健司と結婚して夫と二人三脚で、近藤建設を盛り立てている。


 

 

 一方の小百合は最初は友樹を恨んだが、友樹から過去の諸々事件を聞き、母初枝さんに申し訳ない気持ちで一杯だった。

 

 当然小百合の両親が友樹の両親に行った行為の数々は折に触れて、僅かではあるが、耳に入って来ていたし、嫉妬深い母の行為が余りにも常軌を逸したものであった事は、よくよく知っていたので、友樹が恨むのも痛いほど理解できた。


幾多の試練も諸共せずに、愛し合っていた友樹と小百合は、不幸を乗り越え結婚して幸せを手に入れた。



 終わり




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遠い記憶*far memory (ℝ15) あのね! @tsukc55384

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