第40話⁂レミママは⁈⁂


 2022年9月某日。

 豪邸三ツ矢邸で熟年夫婦は、遥か遠い過去[遠い記憶]を回想している。

 

『山根友樹』こと、三ツ矢友樹69歳は、義父三ツ矢の地盤を引き継ぎ政治家になっていた。その横で微笑む妻。

 

「あの時はビックリしたよ。義父三ツ矢と母初枝が寄りによって、俺の育ての母レミママに刺されて重傷だと聞いた時はショックで生きた心地がしなかったよ」


「確かあなたが高校1年生の時だっけ?」


「そうだよ15歳の時だよ」


 遠い記憶******あの日嫉妬に狂った、育ての母レミママがジョギング中の2人、俺の大切な両親の跡を執拗に付け回し、殺害しようとしたあの日の事は、苦い思い出となって今も消える事無く頭に焼き付いて離れない。 


「よくも私を騙してくれたな~!憎い女、初枝死ね————ッ!」後ろから刺し続けた。

「キャ—————————ッ!」

 

 初枝が悲鳴を上げ逃げ惑っているが、尚も執拗に追い回し、般若の面の様な嫉妬と恨みのこもった何とも恨めしい顔で、目が血走り怒り狂って、尚も初枝を刺し続けている。


「タッタスケテ—————!」


 三ツ矢が、自分も刺されて立って居るのもままならないのに、初枝を守りレミを必死に押さえ付けようとしている。

 するとその時初枝は、とうとう力尽き、よろけながらその場に倒れ込んだ。


 レミは、これでは三ツ矢に押さえ付けられると思い、今度は三ツ矢を思いっきり刺し続けた。


 すると……その時誰かが「キャ————————————ッ!人が……人が……死ぬ———ッ!誰か………誰か……タスケテ――————————————ッ!」


 辺りは血の海と化した。




 俺の愛するレミママが、寄りによって愛する実母初枝と義父を恨んで殺害しようとした、その悲しみは計り知れない。

 

 それも母初枝の結婚相手であり可愛がってくれる義父が、事も有ろうに育ての母レミママを、長きに渡り煮え切らない事を言って繋ぎ止め、散々弄んでおきながらゴミクズのように捨てた。

 

 どの人も俺には、かけがえのない大切な家族。

 そんな大切な家族が憎み合い、こんな殺害にまで発展するとは、到底耐えられない。


 ◆▽◆

 そう……遠い記憶。

 あの日の事件は今でも俺の心に色濃く残り、今尚深い傷となって俺を支配している。

 今でもあの日の事件を思い出すと、知らず知らずのうちに涙が溢れ出し、あの日の光景がフラッシュバックして来て、義父を殺したい衝動に駆られる。


 病院に搬送された3人だったが、一報を受けて俺は授業も中途で抜け出し病院に駆け付けた。すると母初枝は、集中治療室で今にも息絶えそうに人工呼吸器を付けられ悲惨な状態になっていた。


 義父の容態も心配されたが……それでも父三ツ矢は、初枝より幾分容態が良く、あれだけ凄惨な事件に見舞われたが、運が良い事に僅か1ヶ月余りで回復して退院できた。

 それでも…心配された母初枝も半年後には退院して元気になった。


 幾多の出来事があり、やっと結婚出来てあんなに幸せそうだった2人が、まさかあんな恐ろしい事件に巻き込まれるとは夢にも思わなかった。


 

 ◆▽◆

 それではあんなに、優しかったレミママはその後どうなったのか?


 両親が相次いで惨劇に見舞われ倒れ込んだが、急遽救急車が到着して慌ただしく運ばれて行った。


 レミママはその場で警察官に取り押さえられるかと思いきや、警察官が取り押さえる暇も与えず、ニヤリと不吉な笑みを浮かべたかと思うと、持っていた刃物を一気に自分に向けて、心臓を一突きにグサリと刺しその場に倒れ、それっきり息を吹き返す事は無かった。


 母同然のレミママを軽視し、弄んだ挙句、まるで虫けら同然に捨てた義父三ツ矢を、今すぐ病院に駆け込んで八つ裂きにしてやりたい、そんな思いで一杯だったが、それを引き止めさせたのは、レミママと同じぐらい大切に思う実母初枝を、自分が殺されるかもしれないと思いながらも、それも顧みず、自分の命を犠牲にしてまで母初枝を守ろうとした話を、病院で聞かされ思い留まった。


 どれだけ、あの当時は義父三ツ矢を恨んだ事か。

 大切なレミママの気持ちを踏みにじって出まかせを言って、長きに渡り結婚を餌に引き留めておきながら、あっさり捨てるとはレミママがあまりにも可哀想過ぎる。


 あんなにモテたレミママの人生を、自分の欲望のはけ口の為に狂わせた功罪は許されざる罪だ。

 幾らでもレミママと結婚を望む男性が居たのに、その機会を自分可愛さに奪っていたのだから……。



 あの時は俺は……頭が混乱して、それこそ未曾有の天変地異が起こったのではないかと思う程のショックで、この世の中の理不尽さをどれくらい恨んだ事か。


 

 ◆▽◆

 あんな悲劇に見舞われたが、その後友樹は金沢大学在学中に、アメリカ合衆国ニューヨーク州某大学に1年間短期留学した。

 

 大学卒業後は、某テレビ放送網に入社、大蔵省や外務省、首相官邸等を担当した。

 だが、父が高齢の為政界を引退したので、地盤を引き継ぐ為にテレビ局を退社した。

 そして…見事当選。

 以降政治家として活動している。

 そして…今は厚生労働大臣の職に就いている。


 それでは小百合と江梨子と友樹の関係は、どうなってしまったのか?

 そして友樹の妻は誰なのか?


 いよいよ最終章が・・・










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