第36話⁂母初枝を狂わせた復讐⁂



 小百合の母佳代の激しい嫉妬心から起きた初枝切り刻み事件。

 

『どうせロボトミー手術を受けたせいで廃人同然になって居るから、どんな事をされても話す事は出来ないだろう?…そうだ!三ツ矢が切った傷口に沿って深く奥までグッ刺してやれ!あぁ~それから……現場を目撃した修行僧山根には口止めしておかないと……さもないと……夫である和尚に離縁されるかもしれない?』

 そう思い、お金を握らせようとしたが受け取らなかった。

 という事は、この行為を許していないという事で、いつ何時暴露されるか分からない。


 佳代は、何とかしないと自分の身が危ういと言う思いで、ヒヤヒヤ生きた心地がしない。

 だが、何とそれから1ヶ月後に、あの事件、和尚が暗がりで初枝を舐め回すと言う、何ともハレンチな事件が起きた。

 

 あの美しい初枝が寺にお世話になって居る時は、必ず灯籠の陰に隠れて様子を伺っていた佳代だったが、その時に何とも恐ろしい事に、初枝のお腹の父親が修行僧山根の子供だと判明した。


 和尚の方は、あの美しい初枝を寝取られた嫉妬心から暫くは、かなりご立腹だったが、それでも…あと少しで修業期間を終える山根を、本当は破門にはしたく無かった。

 だが、修行僧山根に弱みを握られていた佳代が、この時とばかりに、和尚に強引に食い下がった。


「そんな修行僧たる身分の、ましてや和尚に責任を持って任されていたにも拘らず、手を出したとは到底許されぬ事。絶対に破門にしなくては他の僧侶に示しが付かない!」

 そう言って妻佳代が、騒ぎ立てるので致し方なく破門にした経緯がある。

 それから……初枝に手を出そうとした痛い現場を見られていたので、妻佳代に絶対服従の状態だった為、致し方なく修行僧山根は破門にされたのだった。


 友樹はその真実を母初枝から聞いて、小百合の両親に相当な憎しみが有り近付いた事になる。

 

 この様な理由から山根友樹の恋の行方はどうなるのか?

 友樹は小百合と江梨子のどちらを選ぶのだろうか?

 


 ◆▽◆

 一方の江梨子家族はどうなったのか? 


 父富造と愛人多恵の間に生まれた江梨子なのだが、愛人多恵の元に走った事が原因で何と、本妻さんが自殺をしてしまった。


 それを到底受け入れられない親会社である、日本有数の大山建設の親戚筋である妻の両親が激怒して、多恵を攻め立てた。


「命より大切な娘を殺した責任を取って慰謝料払え!江梨子を置いて今すぐに出ていけ!お前に渡す金は無い!裸一貫で出て行け!」

 だが法律上、子供は慰謝料請求出来るらしいが、嫁いだ娘の自殺に関して親は慰謝料請求できないらしい、との見解なのだ。


 

 その連絡を受けて一安心していた多恵なのだが、暫くすると……何か……いつも誰かに付け狙われている感覚がする。

 

 ある夜の仕事の帰宅時間に、誰かが近づいて来る感覚にとらわれた多恵は、勢いよく駆け出した。

 

 するとその時だ。

 人気のない場所に出た瞬間に、黒い影が覆いつくし多恵は竹やぶに引きずり込まれた。


「キャ————————————ッ!」

 何と、それは自殺した本妻の息子幸助だった。


「ウッフッフッフ~おばさん、よくも母を追い詰めてくれたな~!許せない!エイ!こうしてくれるわ!」

 そして一気に多恵の首を絞めた。


「たっ助けて——ッ!ワッ私には江梨子がいる……まだ中学生の江梨子を1人残して……死ぬ訳には……死ぬ訳には……いかない!……おっお願い……タスケテ――!」


 尚も締め付ける幸助は、とんでもない事を言って来た。


「お爺ちゃん達は慰謝料請求は出来ないが、俺はあんたから母を死に追いやった責任を取って貰い慰謝料請求できる。よくも母を追い詰め殺してくれたな——!ウッフッフ~お前を、母と同じように苦しんで!苦しんで!苦しみ抜いて貰おうじゃないか!ワッハッハー!ワッハッハー!」


「そそっそんな~!」

 息子幸助には復讐の為に、亡くなった本妻の両親が付いていて、多恵に破格の慰謝料請求が要求されて来た。


 とうとう多恵は追い込まれて、水商売に身を落として行ったが、富造が直ぐに辞めさせてしまった。

 

 だが、運が味方してくれたのか、高度成長期の波に乗って急成長した近藤建設は、富山でも有数の建設会社に上り詰めて行った。

 更には本妻の両親も高齢のため相次いで他界していた。

 

 義兄幸助も母親を失った恨みは今なお消えないが、祖父母と言う後ろ盾を失った事も有り、更には父親から「多恵を恨み続け家族の溝を深くしても何の得にはならない。いつまでもそんな事を言っているようでは、会社の権利はお前には譲らない」


 そう言われて父の大切な女、多恵に無理難題を言ってもマイナスにしかならないと踏んだ幸助は、慰謝料請求の話は中断している。


 それから何より大切な唯一の妹を、あんな形で傷つけてしまった事への、自分の余りにも愚かな行為に、今尚後悔と懺悔の気持ちで一杯で、あの時は母の余りにも惨たらしい姿に、恐ろしい蛇になってしまったが、死んでしまったものは生き返らないし、時と共に徐々に薄れて行く。


 だが、生きている妹は折に触れて目にする事がある。


 以前は真っ先に飛んで来てくれたのに、今は何とも悲しい事にまるで一番見たくない恐ろしい悪魔でも見る様な、蔑んだ、恨んだ、今尚憎しみの対象でしか見てくれない余りの虚しさに、若気の至りと言えども、とんでもない取り返しの付かない事をしてしまったものだと言う罪悪感で、母の死を悼む気持ちが、どこかに飛んでしまっている。

 それだけ妹江梨子の事で今尚、苦しみ思い悩んでいるのだ。


 ◆▽◆

 江梨子は山根友樹の為にもPTSD:【心的外傷後ストレス障害】とクレプトマニア を直そうと心掛けている。


 何か……友樹の為にも、それに相応しい女性になろうと病気と懸命に戦っている、

そのせいなのか、最近は病気の再発頻度が極力減って来ている。


 誠に嬉しい事だ。


 ◆▽◆

 

 ある日曜日の事だ。

 友樹と小百合は休みという事も有ってボーリングを楽しみ、その後おしゃれなレストランでランチを食べ、山根のマンションに向かった。


 まだ2人の間は純粋な関係なのだが、今日は取り分けボーリングのスコアも良かった事から、小百合も有頂天だ。


 初夏の爽やかな日曜日だったが、時間はpm2時を少し回った時間帯。

 大学生のマンションにしては2LDKと広いが、帰って来たばかりで蒸し暑い。

 小百合は余りの暑さに羽織っていたカーデイガンを脱いだ。


 キャミソールだけの肉感的でグラマラスなボディが、思い切り目の前に飛び込んで来る。


 それもキャミソールはペラペラで、可愛いピンクの花柄模様のブラジャーは、巨乳のせいで、その可愛い花柄のブラジャーからはみ出しそうになっている大きな胸元。


 夏の暑さも手伝って友樹は、ソファーで寝そべっている、警戒心の欠片もない友樹を信頼しきった小百合に可愛いと言う思いと、 興奮状態が止まらなくなってしまった友樹は、もう我慢が出来ない、あぁ~それから……?何か……何か……憎しみ?……復讐?色んな思いが、ない交ぜになり興奮状態が抑えられなくなってしまった。

 

 夏の暑さで頭が朦朧としていたのも手伝って、訳も分からず只々興奮して飛び掛かった。


「今日は良いだろう」


 返事も聞かずに無茶苦茶に乱暴に抱いてしまった。

 多分「ヤメテ❕止めて!」と叫んでいたが、無理矢理事に及んでしまったのだと思う。


 多分今までの、鬱積した思いをぶつけたかったのだ。

 

 父副住職を追い出し、母をあんなにも残酷に傷つけた小百合の母佳代に対する積年の恨み。更には和尚さんの母初枝に対するセクハラの限りは許せないばかりか、息子として耐え難い限りだ。

 やっとの事、今までのモヤモヤと恨みを解消出来たが、その後は、何とも虚しい空虚感で押し潰されそうになった。


 俺は母をこんな目に合わせた魚津の住民を恨んでいるが、その代表である小百合の両親をもっとも恨んでいる『この恨みを誰にぶつけるのさ!魚津にやって来たばっかりに、あんなに狂ってしまって気の毒に!』その復讐として小百合を只の欲望の対象として滅茶苦茶にして、母と同じ思いをさせてやろう。そうず~と思って小百合に近付いた……だが復讐以前に、もう小百合を愛し始めていたのかも知れない……何も母初枝が狂ってしまったのは、小百合家族だけの責任では無い筈なのに……優しい父2人副住職と三ツ矢を卑劣で卑しい犯人にしたく無いばかりに、責任転嫁して、あのグチな和尚さんと恐ろしい小百合の母佳代に、全部責任をぶつけて母を傷付けた恨みを晴らしたかっただけなのかも知れない。その恨みを最も大切な愛する女性に、ぶつけてしまった俺は何て愚かな・・・






















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