第37話⁂友樹が三ツ矢に引き取られて経緯⁂



 それでは初枝が三ツ矢に引き取られた経緯や、大物政治家三ツ矢とレミママが『山根友樹』の実の両親と思われていた理由を詳しく紐解いて行こう。


 実は…三ツ矢が初枝を精神病院に入れたのだが、友樹の為にもそんな精神病の母親が居て、精神病院に入院している事など隠しておきたいのが心情。

 余り聞き心地の良いものではない。

 ハッキリ言ってマイナスイメージが強い。


 その為、友樹がいじめに有ったりする危険性も考えて「実母は病気で入院中で、育ての親は三ツ矢とレミママだと言いなさい」と教えていた。


 それをテニスサークルのマネージャー香苗に相談していた友樹なのだが、育ての両親と言ったのを、父は大物政治家で母は愛人で水商売「クラブ🥀レミ」のママだと友達Yに話してしまったのだ。


こうして三ツ矢とレミママの子供にされた。

こんな出まかせを言われれば友樹が怒るのも当然の話。


 


 ◆▽◆

 実は友樹の父修行僧で副住職だった山根とレミママは同郷で尚且つ同級生。

そして…この2人は付き合い始めていた。


 だが、レミママの母親は極貧農家の娘で、身売りさせられてしまった身の上、その為、レミママは父親が誰だか分からない私生児。

 

 里子に出されたレミママは、呉服問屋を営んでいる養父母に、ただ働き同然で女中のように扱き使われている有様。


 一方の山根は、この富山の片田舎でも名の通ったお寺の跡継ぎ、到底結婚など出来る筈もなく友達関係に留まっている。


 山根は初枝に子供を身籠らせた罰として、徹底抗戦もむなしく破門になり、また違う寺に修行僧として修行に出た。



 そして無事修行を終えて帰還。

 次期住職としてお勤めに励んでいたのだが、運の悪い事に、あの当時は不治の病と恐れられた肺結核で、27歳という若さであっけなくこの世を去った。


 初枝が産んだ赤ちゃん山根友樹は、初枝があのような状態なので、僧侶山根が存命中は山根の元で育てられていたが、山根の死で事態は急変する。


 一体どういう事かというと、山根が肺結核でもう余命幾ばくも無いと悟った時に、死の淵でレミママに懇願していたのだった。


「修行僧の身でありながら、廃人同然の初枝に手を出し子供まではらませるとは何という恥知らず!この寺にはおいては置けない!」と言われて、破門になった修行僧山根。


 初枝が修行僧に手を出され、出産した話を聞いた三ツ矢が危機感を感じ、初枝を強引に引き取って行ったのだが、初枝はあんな身の上でありながら、母性だけは正常な母親と何ら変わりはなかった。

 それを修行僧山根の一存で友樹を強引に引き取る決意をした。


 破門になり唯一の初枝の分身友樹を、どんな事をしても自分の元で育てたかったのもあるが、それより何より初枝では育てられる筈が無いと踏んでの苦肉の策だった。


 

 ◆▽◆

 一難去ってまた一難。

 山根の両親はどこの馬の骨とも分からない、狂った年増の女の産んだ子供など絶対に孫とは認めたくなかった。


 ましてや20も年増の女を妻にしたいと言い出した時は、完全にブチキレた両親は勘当も辞さない覚悟だった。


 「初心な息子を年増の女が良いように騙し、あんな女に狂ってしまった。そんな訳の分からない女を嫁にするなど、到底受け入れられない」

 カンカンに激怒していた。

 そんな理由から孫の友樹が憎らしく、冷たく当たっていた。


 本来ならば自分が亡くなれば、その息子友樹がお寺を継承する筈なのだが、気位の高い両親が許さなかった。


「そんな20も年上の2回も結婚した精神病の女の産んだ子供なんぞ、母親の元に追い返せ!こんな災いの種など見たくもない。汚らわしい!」罵倒の限りだったのだ。

 こんな状態だったので友樹も祖父母には全く懐いていない。


 

 だが、祖父母も、まさか我が息子に、こんなに早く死気が訪れるとは夢にも思わなかったので、精神的に追い詰められている。


 それでも嘆いてばかりはいられない。

 唯一の生き残りで、孫の友樹を一気に手のひら返しで可愛がり出したが、時すでに遅しで、全く祖父母に懐かない友樹。


 そこで死期を悟った山根は、結婚は出来なかったが、友達としての交流が有った、レミママには懐いていたので、レミママに友樹を託した。


 そして…自分がもう長くないと悟った山根は、レミママに必死に頼み込んでいた。


「友樹が祖父母とはウマが合わない。暫くはレミが面倒を見てくれ、そして…あれだけ離れたくないと涙ながらに訴えて、俺が友樹を引き取る事を拒んでいた初枝に、友樹を預けて欲しい……そして…あんな呉服屋から逃げ出したいと言っていたじゃないか?この……この……お金で自分がやりたいと言っていた、小料理屋でもやって友樹を育てて欲しい」

 

 そう言って貯金通帳と印鑑をレミに渡した。

 その額は相当の金額だった。

 そして…誠に残念な事だが、山根は弱冠27歳でこの世を去った。

  

 こうして小料理屋を切り盛りして、やがてレミと言うクラブを経営する事になって行く。


 ◆▽◆

 友樹の育ての父はどうも大物政治家らしいのだが、レミママのパトロンで大物政治家とは誰なのか?


 

 そういえばレミママと大物政治家を両親と『山根友樹』は慕っていたが、何故そんなに慕っていたのか?


 それは……友樹は副住職山根に道場の中で散々遊んでもらっていたが、もう4歳の頃には病床に伏せっていた為、レミママが面倒を見てくれていた。


 勿論祖父母も険のある気位の高い祖父母ではあったが、唯一の孫を大切にしてくれたが、小さい頃の事も有り受け付けなくなっていた友樹は、レミを実質上のママだと思って育った。


 そこに…ある日、小料理屋を営むレミママのお店に顔を出した三ツ矢。

 その目的は只1つ、息子友樹を引き取る事だ。


 もうこの頃には、本当の親子のような情が湧いていたレミは、あんなにも初枝に渡してくれと、山根から頼まれていたにも拘らず、拒絶反応を示している。


『だが、自分の感情ばかり押し付けては、大切な将来のある友樹があまりにも可哀想』そう思い泣く泣く手を引いた。


 そこには破格のお金が動いていた。

 こうしてレミママは三ツ矢のパトロンとなり、巨額の融資を受けて『クラブ🥀レミ』をオ-プンさせた。

 

 

 だが、こんな大人の事情を他所に、完全に縁が切れた訳でもない友樹は、以前と同様にレミの家に顔を出してくれている。




 それでは三ツ矢の元に身を置く事になった友樹だが?何と家には誰もいない。

 確か?妻が居た筈だが、妻はどこに行ったのか?更に初枝の姿も無いが、何処に?

 

 実は…その当時初枝は精神病院に入院していた。

 それから製薬会社のお嬢様である妻との、離婚話が出ていて別居中だったのだ。



 それでも三ツ矢もどういう男?

 あれだけ初枝に散々「結婚してくれ!結婚してくれ!」と懇願していたにも拘らず、あの言葉は只々初枝をオモチャにするための出まかせだったのか?


 そんな真剣で誠意を前面に押し出しておきながら、その陰ではチャッカリ大手製薬会社のお嬢様である妻と結婚していたとは、全くとんでもない男。

 これでは初枝があまりにも可哀想ではないか?


 それでも…自分が初枝を狂わせてしまった申し訳なさから、精神病院に入所させて一生面倒みる事で、世間様の目をあざむけるし、反対に「何と慈悲深い人!」と思われ評価が上がると言うもの。

 そして…とんでもない事をしてしまった自分の罪を帳消しにしようと、また、只々   

 自分の自己満足の為に引き取っただけの事なのかも知れない?


 それとも……あれだけ初枝の身も心も傷つけておきながら、精神病院から退院して来たら愛人として囲うつもりなのか?

 


 いやいやそれは違う、初枝を昔から今も真剣に愛し尽くしている。


 だが、初枝が振り向いてくれないのと親戚の強引さに負けて仕方なく、やけくそで結婚していたのだが、本心は初枝しか見えていないのだ。

 それだけ初枝を深く愛しているという事なのだ。




 ◆▽◆

 製薬会社のお嬢様である妻と仕方なく結婚したが、結婚した時には、三ツ矢も晩婚の45歳だったので、相手のお嬢様も同様に晩婚の42歳。

 当然高齢ということもあり子宝にも恵まれず仕舞い。


 更には全く三ツ矢のタイプでは無い、小柄で小太りな女性なのでどれだけ嘆いた事か。


 美大卒の才女である事は素晴らしい事だが、幾ら才能が有るからと言っても、絵画はおいそれとは売れない。

 そのしわ寄せが、三ツ矢の地盤荒らしとなって出ている。

 これでは、三ツ矢もたまったものではない


 挙句の果てには政治家の地盤である地区での個展には、頭を悩ませている。

 致し方なく、訳の分からない絵画を高額で買わさせられる羽目になった支援者は堪ったものではない。

 支援者から苦情が、度々漏れ聞こえてくる始末。


 これでは本業の政治家活動に支障が出るのは必至。


 理由は1つではない、いろんな理由が積み重なり離婚に踏み切っていた。


















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