第35話⁂小百合に近付いた山根友樹の理由⁂


『少し複雑化しているので、一連の初枝が魚津にやって来て失踪するまでの流れを、簡単に辿って行こう』

 

 

 戦争未亡人初枝が魚津に疎開して来た。だが、やがて終戦、夫洋介は戦死。

 すると……洋介の部下片足の無い田村と池田が、洋介の意思を引き継いで初枝の元に顏を出す様になる。だが、洋介の戦友三ツ矢も初枝の元にやって来るようになった。

 やがて、池田と三ツ矢が鉢合わせして初枝の奪い合いで嫉妬の炎を燃やす事になる。

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 初枝も池田に気持ちが傾いていたが、拒絶するも若い情熱には勝てず、池田と関係を持ってしまった。

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 一方の三ツ矢も、初枝を何としても自分のものにしたい。

 だが、意に反して三ツ矢の余りのしつこさに、とうとう初枝は本心をぶちまけた。

「私は……三ツ矢さんなんか全然好きじゃない、もう家に来ないで❕大嫌い!」

 そして…刃物で女の一番大切な乳房と○部を傷付けた。

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 だが、幸せの絶頂だったにも拘らず初枝は、池田に捨てられ、更には三ツ矢には女の一番大切な乳房と○部を傷付けられた初枝は、余りのショックで統合失調症の症状が出始め、田村と池田は初枝を一人にしておけない。女独り身ではどんな危険が及ぶとも限らない。そう思いお手伝いさんを付けた。

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 お手伝いさんも付けて暫くは安泰だったが、統合失調症の恐ろしい症状が出始め、耐えられなくなったお手伝いさんが、初枝の余りの行動にチョクチョク入れ代わる。

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 思い余った田村と池田は、当時“画期的な治療法”として脚光をあびていたロボトミー手術を受けさせた。

 だが、その直後、片足の無い田村に、初枝を捨てた事を咎められた池田は憤慨して、帰ろうとしたが引き止められ、思い切り強く手を押しのけた事が災いして、田村はバランスを崩して思いっきり頭を打ち付け、この世を去ってしまった。

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 お手伝いさんが見つかるまでの期間、和尚さんの計らいで初枝は寺の茶室に、度々お世話になって居た。

 その時に若い修行僧山根に強引に関係を持たされてしまった。

 やがて妊娠、『山根友樹』が誕生した。


 それでは初枝は『山根友樹』を出産した後、殺害されていないのであれば何処に消えたのか?

 

 実は…初枝は三ツ矢の強い要望で、三ツ矢の元に引き取られていた。


 それでも…?何がどうなって、三ツ矢が山根君『山根友樹』の父親となり、ましてや一番訳が分からないのが、レミママが何故『山根友樹』の母親にならなくてはいけなかったのか?


 修行僧山根と付き合っていたレミママは、初枝に愛する人を奪われたのだから、本来だったら、修行僧山根と初枝の間に出来た子供『山根友樹』が憎い筈なのに、恋敵の子供『山根友樹』の母親に何故ならなくてはいけなかったのか?


 そこには、思いも寄らない人間模様が隠されている。

 


 ◆▽◆

 

 それでは山根先輩『山根友樹』は、どんな狙いがあり巧みに小百合に気があるフリをして、近付いたのか?


 それは……父親である副住職山根の死が災いしている。

 初枝のお世話係を命じられていたにも拘らず、仏に帰依する僧侶が大切な檀家さんに手を出すとは、とんだ不届き者であるには違いないのだが、それでも…1人の僧侶である前に1人の生身の人間である事も事実なのだ。


 目の前に美しい女体を、これでもかとぶら下げられれば、正気ではいられない。

 和尚さんも初枝の詳しい症状を、分かっていなかったのかも知れない。

 身体を洗ってやったり着替えをさせたりしていれば……どうしても……


 


 父の元に引き取られた友樹は、広い道場の中で、父である副住職にそれはそれは愛され可愛がられて育った。

 その時にいつも、どんな時も、まだ見ぬ瞼の母初枝の事を聞かされていた。


 まだ幼かった友樹ではあるが、いかに素晴らしい女性であったのか、いかに父である副住職が母を愛していたのか、ヒシヒシと感じていたのだ。


 4歳までしか父と生活出来なかったが、死に逝く枕元で、父が発したあの言葉は幼いながらに、今でもしっかり頭に焼き付いている。


 それは修行僧として西光寺で修業を積んでいた時の事だ。

 ある日父が母初枝を風呂に入れようと茶室に向かうと、茶室から大きなうめき声が聞こえて来た。

『その時に目にしたあの異様な光景は今も忘れない』と言って嘆いていた父の言葉、それはどんなものだったのか?


 小百合の母佳代が、ロボトミー手術の影響で俳人のような状態の初枝を、何も分からないだろうと紐で縛り付けて、とんでもない事をしていた。


 無気力で抵抗しないのを良い事に、初枝の美し長い緑の黒髪を滅茶苦茶に切り刻み、更には、和尚である夫を誘惑していたあの日の恨みが、日に日に膨れ上がって取返しが付かないほどに膨れ上がり、夫が報恩講に出掛けたのを良い事に、今までの恨み辛みを晴らそうと忍び込んで来たのだった。


 最初は、『あの美しい黒髪を不様に醜く切って切り刻み、男達が寄り付かない見苦しい髪形にしてやれ!』ぐらいに思ってやって来たが、余りの美しい容姿に益々嫉妬の炎が燃え上がり、到底抑える手立てが無くなってしまった佳代なのだ。


 それは一体どういう事なのか?

 幾ら無気力になったからと言っても意識のある初枝に、いきなり刃物を差し向け、美しい緑の黒髪を切り刻んだら、拒否するに決まっている。


 そこで「初枝さんおぐしが乱れていますから、私が髪の毛を切りそろえましょう」

 そう言って鏡台に座らせ切って行った。


 だが、どんなに切り刻もうと元々の造形美が美しいので、到底太刀打ちできない。

 

 鏡に映し出された2人の顔は余りにも違いすぎる。醜女顔の私とは大違い。これでは和尚が初枝になびくのは当然!悔しい!


 そう思うと、自然と涙が知らず知らずに溢れ出て来た。


 それと同時に『こんな美しい女性に口づけをされたら、私の入る余地などどこにも無い!』そう思うと全身の血が激しく波打ち、逆流して、この嫉妬を到底抑えることが出来なくなってしまった。


 そして妄想は更に大きくなり『こんな美しい女性と、もう既に肉体関係を結んだかもしれない。イヤイヤ!もうとっくに肉体関係を結んでいるに違いない!』

 そう思うと悔しくて悔しくて、居ても立っても居られなくなった佳代は、とんでもない行動を取ってしまった。


 いくら何でも自分が罪を被りたくなかった佳代は、とんでもない事を思い付く。


 激しい嫉妬心から、あの三ツ矢が、初枝を傷付けた傷口をさらに深く切り裂いて、刃物で女の一番大切な乳房と○部を傷付け、夫が金輪際絶対に寄り付かない。寄り付きたくない顔と体にしてやろうと考えた。


 そして早速、初枝が嫌がるのも聞かず、口に手拭いを押し込み声が出せない様にして、紐でぐるぐる巻きに身体を縛って、夫が目を覆いたくなる醜い身体にしてやろうと、先ずは、刃物でこの形の良い乳房を三ツ矢が切った傷口に沿って深く奥までグッ刺していった。


 すると……初枝は余りの痛さに「グウウウウ————グワァ————————ッ!」耳の鼓膜が破れるほどの大声で悲鳴をあげた。


 それを聞いた山根は慌てて茶室に向かった。

すると何とも恐ろしい事に、傷口は裂けて大量の血が噴き出していた。


 咄嗟に佳代の手を掴んで必死に引き離し何とか初枝は助かったが、それでも…傷口は相当酷かった。

 こんな事件があり、噂を耳にした三ツ矢が放って置けないと考え、初枝を自分の元に連れ帰った。


 この事件で山根は佳代に深い恨みを抱いていた。

 更には和尚さんにも強い恨みがある。

 

 子供まで出来た2人を無理矢理引き裂いたから、こんな事件になった。

 

 その思いは想像を絶するものだった。


 それから……友樹にしても悲惨な思いをしている。

 普通だったら親子3人の当たり前の生活が出来たのに、父の死だって愛する母と引き裂かれ、離れ離れになり嘆き悲しみ肺結核に掛かり、死気が早まった可能性もある。

 それが証拠に、父の口からは何時も、どんな時も、母との思い出を聞かされていた。

 更には友樹は母初枝と引き離された事によって、あちこち、たらい回しにされた過去がある。


 その様な恨みに付け加え、和尚さんとの事も聞かされていた友樹は小百合に……近付いたのかも知れない?




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