第30話⁂男の戦い!⁂
小百合の母佳代によって初枝が殺害されたともなれば、山根は復讐の為に小百合に近づいた事になる。
果たして山根は小百合を愛しているのか?
それとも……小百合を愛しているフリをしているだけなのか?
……そこには想像も付かない思惑が隠されている。
初枝殺害に最も近い存在それは……小百合の母佳代。
山根が初枝と親子だとしたら、その恨みは計り知れない。
愛もへったくれもない。憎しみだけで近付いた事になる
◆▽◆
それでは山根の母かも知れない初枝が、いかにして狂って、いかにして消えてしまったのか、もう少し掘り下げて順に紐解いて行こう。
連隊付中佐村上洋介の部下池田は、精悍で、さわやかな笑顔と健康的な肉体美、更には何とも整った彫刻ダビデ像の様な、端正な甘いマスクの若干20歳の若者だ。
連隊付中佐村上には散々お世話になったので、あれは確か……死に間際の、もう長くないと連絡を受けて、連隊付中佐村上の妻初枝と同じ富山出身という事も有り、村上の病室に呼び出された。
連隊付中佐村上は息絶える死の淵で、池田に「妻を頼む」やっとの事その言葉を残して命尽きた。
その最期の言葉を胸に同じ富山県出身という事も有って、家族が有りながらもワザワザ魚津までやって来たのだ。
池田は自分よりも15歳も年の離れた未亡人初枝の事など、最初は女として見ていなかった。
子供のいない夫婦で、妻だけが生き甲斐の様な、そんな大切な連隊付中佐の妻だからこそ戦後の慌ただしい中をワザワザ抜け出してやって来ていたのだ。
死に間際の、死の淵で懸命に発した最期の言葉「妻を頼む」その言葉が今もハッキリ耳に残っている。
だが、その予想を遥かに超えた余りにも大人の色香漂う美しさに、一瞬で魅了されてしまった池田。
それは初枝にしても同じで、精悍で、さわやかな笑顔と健康的な肉体美、更には何とも整った彫刻ダビデ像の様な端正な甘いマスクに、すっかり心を奪われてしまっていた。
そんな折に、2人の姿があちこちで確認されていた。
「あのやけに色っぽい未亡人初枝と若い男が山里で逢引きしていた」
「2人が寂れた寺の境内で手を握っていた」
「土手で見詰め合っていた」
口さがない噂はあっと言う間に、この片田舎に知れ渡ってしまった。
2人は余程注意はしていたつもりだが、如何せん目立つので一瞬で気付かれてしまった。
「それも15歳も年上の戦争未亡人が、自分の子供ほども年の離れた妻も子もある若者と、逢引きするとは不謹慎極まりない」
「どうせあの未亡人初枝が、初心な若者を女の色香でたらし込んだに違いない」
非難の矛先は一方的に初枝に向けられた。それは女たちの嫉妬が生み出したものなのだ。
2人が思い合っていた事はどうも事実のようだが、実際にそのような関係が本当に有ったのか?
実は…とんでもない事件が起きていた。
池田は嫉妬深い妻が居るので、自宅からトラックで30分ぐらいの初枝の家に、チョクチョク顔を出していたが長居をせずに帰っていた。
先祖代々米問屋を営んでいる池田の実家は、運搬のトラックが必要不可欠だ。
その為、トラックが無い時は、電車で2時間ぐらい掛かかる所を、田村に「女独り身で危険だ。頼む!」と言われているので、わざわざ電車でやって来ていた。
そして…用を済ませると、その日の内に家族の住む砺波に帰っていた。
だが、この時三ツ矢も頻繫にやって来ていたのだが、それでも三ツ矢の事は何故噂にならなかったのか?
それは……戦後の東京は復興まで時間が掛かっていたが、石川県は被害が少なかった。
その為、三ツ矢は政治家になる足掛かりとして、祖父の力添えで爆撃の少なかった石川県の銀行に勤務していた。
夜に外車でやって来て家に入り、その足で車に乗り込み帰っていたので、誰が来ていたのか分からなかったのだ。
只あの当時では余りにも高級車だったので一体誰が来ているのか?
噂する人もいた。
だが、夜だから人目に付きにくいのもあり、さして問題にはならなかった。
祖父も、もう高齢でリタイヤしている身の上。
英国大使館時代に、愛用していたメルセデスベンツを持ち帰っていたので、大切な唯一の跡継ぎに何か有ってはと、どこかに出掛ける時は心配して運転手付きで送り迎えをさせていた。
◆▽◆
12月に入ったある日、米屋を営む池田は、いつもの様に4時半に初枝の家を出た。
もうすぐ冬至と言う事も有り、辺りはすっかり薄暗くなり始めたが、途中で高級外車とすれ違った。
あの当時外車は本当に珍しい。
(こんな所に外車が来るなんて珍しい事だ、一体何の用が有ったのだろうか?)
急な坂を、もうかなり下って来た。
高台を見上げると、どうも初枝の家の方に向かった気がした。
それでもその日は疑問に思いながらも帰った。
そして…疑問に思った池田は早速、次に行った時に初枝に聞いた。
「つい最近この辺りで高級な外車を見たんだが?」
「嗚呼そうなのよ。三ツ矢さんと言う主人のお友達が、心配して頻繫に家に来て下さるのよ」
「あんな夕方にやって来るなんて?大丈夫ですか?」
「大丈夫よ……ただ……余りにも頻繫過ぎて……チョット迷惑しているのよ」
すると……まだ4時だと言うのに車の音が聞こえた。
「今日はやけに早いわね?きっと三ツ矢さんだと思うけど?」
するとやはり三ツ矢だった。
今日は仕事で富山にやって来たが、一目会いたくて仕事中にも拘らずやって来たのだ。
三ツ矢は入って来るなり、自分よりもかなり若いイケメンに、一気に表情を強張らせ如何にも迷惑そうに、ムッとした顔をしている。
(折角2人切りになりたいと思って遥々やって来たのに、とんだ邪魔が入ったものだ。そして何だ……このイイ男、到底叶わない!)
一方の池田も自分とは大違いの、高級外車を乗り回すこのブルジョア風の男に、何か惨めな……到底勝ち目がない気がして、この場から一刻も早く逃げ出したい気持ちになった。
2人の趣旨は、未亡人になった可哀想な初枝の手助けをする事なのだが、完全に本来の趣旨とは違い、只々初枝を自分のものにしたいという欲望に代わって来ている。
2人供(絶対にアイツにだけは初枝さんを渡したくない)そんな思いで一杯なのだ。
◆▽◆
三ツ矢はあのイケメン池田を見てからと言うもの、完全に平常心を失い、普通の精神状態ではない。
一方の池田にしても、上司の妻である魅力的な女性に留まっていた感情が、一気に現実味を帯びて、本心が露わになって来ている。
(こんな事をしていたら、あの獣に初枝さんを奪われてしまう。アアアアああ!何とかしなくては?)そんな危機感で一杯なのだ。
そして…とうとう抑えきれない若い情熱が勝り、周りが見えなくなり一線を超えてしまった。
「初枝さん僕は……僕は……初枝さんが好きです。誰にも渡したくない……絶対に」
「そそっそれはダメヨ!……だってあなたには奥さんと子供が……お願い……止めて…」
「いいのです。僕はあなただけでいい……あなただけで良いのです……他には何もいらない!」
「ああああ……嬉しい……信じて良いのね……好き.:*好き:・'°☆💋.:*:・'💛愛しているわ~」
「ぼっ僕もです……ああアア💕美しい:*:・'°☆」
だが、暫くして今度は三ツ矢がやって来た。
三ツ矢はあの若いイケメン池田を見てからと言うもの、完全に平常心を失い、危機感で普通の精神状態ではない。
その日は最初から、あのイケメンの事で頭がむしゃくしゃしている三ツ矢。
(親友洋介の死は受け入れがたいものが有ったが………それでも…これでやっと初枝さんを自分だけの者に出来るかも知れない?そう思っていたのも束の間、まさかあんなイケメンが、初枝さんの周りをうろついているなんて許せない!)
(初枝さんが夫の事を忘れる事が出来ないと言っていたが、実は…チャッカリあんな若い男が居たとは許せない!)
余りの危機感からやけくそになり、もうどうにでもなれと言う思いから、一気に初枝に飛び付いた。
「良いだろう初枝さん……俺は君しか……俺は君じゃなきゃダメなんだ!」
それなのに………それなのに………初枝は、とんでもない言葉を吐いた。
「私は……三ツ矢さんなんか全然好きじゃない、もう家に来ないで❕大嫌い!」
(この言葉は余りにも酷ではないか?僕の心を根こそぎ奪っておきながら、その言葉はあんまりだ!)
「私の事は諦めて下さい」
「俺とあんな関係まで結んでおきながら、君だってまんざらじゃないからだろう?」
「もうしつこい人は嫌い。諦めて!私は三ツ矢さんとはそんな気はありません」
カ———ッ!となった三ツ矢は、咄嗟に初枝が憎くなった。「ましてや相手があんなに若くて、超イケメン絶対に取られたくない」
{いっその事初枝を殺して自分も一緒に死にたい}
そこまで追い詰められてしまい、思わず台所の包丁を取り出して、初枝の美しい女体である乳房と○部を傷付けた。
「ギャ————————————————ッ!」
初枝は痛みで、もがき苦しんでいる。
女の一番大切な乳房と○部を傷付けるとは余りにも酷い話だが、それだけ愛情が深いという事だ。
◆▽◆
実は…この話にはまだ裏がある。
…池田はあの時は本当に初枝しか見えなかった。
事実あの時は、本当に初枝を愛していたのだが、妻と子供に泣き叫ばれて、とうとう初枝を捨てたのだ。
初枝は、愛する夫の部下と不謹慎にも関係を結んでしまったが、それでも…池田を心から愛しての行為なのだ。
それなのに……妻と子供可愛さに、とうとう捨てられてしまった。
更には好きでも無い三ツ矢から、大切な乳房と○部を切り付けられ完全に気が触れてしまった。
それでは、片足の無い田村は何故突然現れなくなったのか?
実は…1ヶ月に1度初枝宅に顔を出しているのだが、あんな事が有った後なので、初枝が余りにも狂ったように泣くので問いただしてみた。
すると「池田と関係を結んだが、妻と子供可愛さに遊ばれ捨てられてしまった」
その話を聞いた田村は池田を呼び出し、こっ酷く説教をした。
それを面白く思わなかった池田は「僕の人生にまで足を突っ込むのはやめて下さい」
すると田村は強張った表情で「初枝さんがあんまりにも可哀想じゃないか!」
そう言って…池田の頬っぺたを思い切り叩いた。
頭に来た池田はブスッとして「どいて下さい!」そう言って出て行こうとした。
「待ちたまえ!」
肩を抱え引き留めた。
「やめて下さい」
男と女の事を、とやかく言われたくなかった池田は思い切り突き放した。
すると片足の無い田村は、立って居るのも大変なのに、バランスを崩して思い切り勢い良く倒れて、土間に頭を打ち付け帰らぬ人となった。
こうして田村は死んでしまった。
慌てた池田は田村宅から離れた、小百合の先祖の土地である、和尚さん所有の山林に埋めた。
◆▽◆
初枝が思い余り泣きながら話した一部始終、池田との情事を聞いて、更には我らの大恩人であり尊敬する大先輩、連隊付中佐の妻を弄んだと聞いた田村は平常心ではいられない。
早速、池田といつも初枝の事を話し合う自分の家に呼んだ。
田村は岐阜県高山市出身で、池田はあいにく親から引き継いだ米問屋を営んでいた事から、トラックでよく米問屋や米農家のある高山市まで仕入れに来ていた。
そんな理由から、田村宅での話し合いが持たれていた。
男と女の事を、とやかく言われたくなかった池田は思い切り突き放した。
すると片足の無い田村は、只でさえ立って居るのも大変なのに、思い切り突き放された事によって、バランスを崩して思い切り勢い良く倒れて、土間に頭を打ち付け帰らぬ人となった。
こうして何とも残念な事に田村は死んでしまった。
慌てた池田は田村宅から離れた小百合の先祖の土地である、和尚さん所有の人里離れた人気の少ない山林に埋めた。
それは……田村宅の近くに埋めたら、チョクチョク顔を出している自分が怪しまれるのを恐れての事である。
かと言って自分のテリトリー近くには、疑われるで絶対に埋めたくなかった池田は、田村にこっ酷く注意をされたので、仕方なく心配がてら初枝の家に行くことを決めた。
小百合の祖父が所有する山林に深夜に埋めて、暫く休憩してから初枝の家に向かった。
小百合の祖父は魚津に多くの山林や土地を所有していたが、余りにも広い祖父の土地なので、まさかそこが小百合の祖父の土地だとは知らずに埋めてしまった。
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