第31話⁂江梨子の家族の悲劇⁂


 

 

 江梨子の父富造は、会社発展の為に、親会社である日本有数の大山建設の親戚筋に当たる公家華族のお嬢様である妻と、無理矢理政略結婚をさせられた経緯がある。


 お嬢様というだけで、全くタイプではない冴えない妻に、どれだけ嘆いた事か、それでも一にも二にも会社発展の為と思い目を瞑って来た。

 

 一方の江梨子の母多恵は、富山市内に有る小さな小料理屋〈むらさき〉を、若干18歳ながらも母と2人で切り盛りしていた。


 近藤は多恵を見た瞬間、それこそ身体中稲妻が走り立って居られない程の衝動に駆られていた。

 そんな一分一秒たりとも忘れた事の無い、若く美しい多恵に思いも寄らない告白をされて嬉しさ半分、苦しさ半分どころか、真剣なだけ苦しみは倍増するばかり。


 それはどういう事かと言うと、妻は取引先の御令嬢で会社がここまで成長できたのもひとえに妻の実家の後ろ盾有っての事。

 近藤は死ぬか生きるかの、苦しい決断を迫られたのだが、結局糟糠の妻を捨て愛人多恵に走った。


 何度も連れ戻しに行くも受け入れてもらえず、ショックを受けた本妻が、思い余って豪邸で首つり自殺をしてしまった。


 あの日、江梨子を強姦した卑劣な幸助は、帰宅して母の余りにも残酷な最期の姿に身体中の血が逆流して、何処をどう歩いたか分からない程のショックを通り越して、只々夢遊病者のように母の実家である名古屋を目指した。


「これは……きっと夢だ。悪夢に違いない。きっと母はあんなに大好きだった里に帰っているに違いない⁈今の目の前の出来事は真実では絶対にない!」


 そう思い母の実家名古屋に向かった。


 そこで母の家族全員が、まるで正気を失い青ざめ、泣き崩れ嘆いている姿を目の当たりに、やっと現実に立ち返ることが出来た。

 

 だが、その怒りは鬼となり悪魔となり多恵に向けられた。

 そんな大切な母の命を奪った愛人多恵が許せなくて、一番非道な形でその仕返しをしようと考えた。


 それはズバリ復習の2文字。

 もう妹が可愛いそんな次元の問題ではない。

 いかに母を死に追いやった多恵を苦しめるかなのだ。


 そこで多恵の命より大切な、父を殺すか?妹を殺すか?

 ここで究極の結果は出た。

 自分にとってどっちを残しておきたいか?

 

 妹を最も非道な形で苦しめてやる事。


 あの優しかった兄の、今までに一度も見た事の無い異常性と狂気と本能剥き出しの欲望が、フラッシュバックして来て気が狂ったように奇声を発してしまう。


 自分の中の何かがバシンと弾けて、全てをぶち壊して、全くの別人に生まれ変わりたい、そんな願望に囚われる江梨子なのだ。


 こんな精神状態が続き、摂食障害を起こしてしまった江梨子は、食べては吐き食べては吐きの繰り返し、お腹が空くので小百合のお金を拝借して買い食いをしていたのだ。


 これはクレプトマニアと言って(盗症、盗癖)窃盗や万引きを辞められずに繰り返してしまう精神疾患。



 元々は蝶よ花よと愛され可愛がられて育ったご令嬢である江梨子には、この試練は余りにも酷過ぎて、自分の尺度を遥かに超えてしまった為、新たな症状PTSDの症状が見られ始めた。


 江梨子には何の罪もない事なのに、唯一の兄である、あんなにも可愛がってくれた優しさの塊でしかなかったあの優しい兄の変貌ぶりに、ショックを通り越し気でも触れたのかと思うような、今度はなんと、PTSD:【心的外傷後ストレス障害】の症状が出てしまった江梨子なのだ。


 『PTSD:【心的外傷=トラウマティックストレス】と呼び、心的外傷の結果、人の感情・思考・行動面に1ヶ月を超えて一定以上の症状が残った状態をPTSDと診断。

 衝撃的な出来事は、完璧に封じ込める事ができないため、何かのきっかけで突然思い出す事があり、もうあんな辛い体験したくない、常に緊張状態を強いられ、不眠や不安などが襲って、突然激しい感情の起伏を引き起こす事も有り、自分や周囲を責める』


 小百合が祖母の顔を見に、魚津の海が一望できる高台の、人里離れた海辺にある辺鄙な場所だが、蜃気楼を拝める絶好の場所に建って居る老人ホーム「蜃気楼」に行った時の事。


 そこで見た江梨子に似た女の子はやはり江梨子だった

 人目に付かないこんな精神病院にわざわざ診察に、やって来ていたのだ。



 そして…あの日の江梨子ちゃんの変貌ぶりにはビックリした。

 

 あれだけおしとやかで、お上品な江梨子お嬢様が、何がどうしてあのような状態になったと言うのか?

 とても普通の状態には見えず、まるで別の存在が憑依したかのような変貌ぶり


(ああああ!分からない?あの江梨子ちゃんは何者?)


 学校では弱きを助け強きをくじくを、絵に書いたような優等生少女なのに、まるで人が変わったかのような言動。


「テメエラ————ッ!金をくすねて来いって言ってたじゃないか!何やってんだヨこのアマが————ッ!」


 それだけで済むかのと思いきや?

 江梨子ちゃんの指図で、数人が2人の女子に殴り掛かりボコンボコンにされている。


 一体何が江梨子ちゃんをあんな狂人じみた姿に変貌させているのか?

 絶対に何かある。そう確信した小百合。



 ◆▽◆ 

 実は…江梨子の家庭は想像も出来ない程の悲劇に見舞われていた。

 

 当然本妻さんの死、首つり自殺を図った事件は最も悲劇だったが、本妻の親が激怒して多恵に、娘の夫を奪って自殺に追い込んだ責任を取って慰謝料請求、更には「多恵を無一文で叩き出せ!」と言って来たのだ。


「命より大切な娘を殺した責任を取って慰謝料払え!江梨子を置いて今すぐに出ていけ!お前に渡す金は無い!裸一貫で出て行け!」


 それでも…幾ら娘可愛さでも、そこまで介入出来る訳も無いと思うのだが?


 だが、相手は親会社でも有った散々お世話になった親戚筋、夫富造も何も言えないのだ。

 娘の夫を奪い自殺に追い込んだ責任は大きい。

 その為、慰謝料請求が多恵に回って来たのだ。

 親の方としては、娘を殺された復讐として多恵を追い込み、同じ苦しみを味合わせたい復讐心で鬼になってしまっているのだ。


 その金額は法外なもので3000万円、現在のお金に換算すると1億3000万円ぐらいになる。

 そんなお金など富造と無理やり引き離され、払えるわけが無い。

 多恵は富造と娘の2人と無理やり引き離され、窮地に追い込まれて、どん底人生を余儀なくさせられた。


 小料理屋〈むらさき〉も「お酒相手はやめてくれ」と富造に言われたのでとっくの昔に止めていた。

 仕方なく生活のため働きに出た多恵だが、いつも誰かに付け狙われている感覚がする。


 生活のため、また親御さんに誠意を見せる為にも、仕送りするお金と、働き詰めの多恵。


 そんな苦しみの中、ある夜誰かが近づいて来る感覚にとらわれた多恵は、勢いよく駆け出した。

 すると人気のない場所に出た。

 いつもここは、よほど気を付けて歩いている場所だが、今日は何か付け狙われている感覚がして一目散に駆け出した。


(この雑木林の200mの距離が怖い!)慌てて掛けて行った。


 するとその時だ。

 黒い影が覆いつくし多恵は竹やぶに引きずり込まれた。


「キャ————————————ッ!」

 江梨子はもう二度と母に会えないのか?

 それと………?小百合が江梨子の家で見た水商売風の女は誰だったのか?


 更には小百合と江梨子と山根に北村の関係はどうなって行くのか?


 小百合の秘密父富造と母多恵の話をこっそり聞いていた。

『和尚さん所有の土地ス-パ-建設用地から人骨が見つかった。どうも家族に犯人 が?それと……初枝の死に小百合の母佳代の影が?』


 この一連の話を山根に・・・

 江梨子の手によって山根と小百合の関係は・・・


















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