第29話⁂思惑⁉⁂



 

 夫の死、更には諸々の事で悩んでいる初枝の心の内も分らず、三ツ矢の初枝に対する思いが強すぎて、あんな恐ろしい事件は起きたが?当の本人三ツ矢は初枝の現状を知っているのだろうか?


 実は…あの後、三ツ矢にもいろんな出来事がありそれ所では無かった。


 三ツ矢の両親は関東大震災で亡くなっていたが、あいにく家は被害が少なかったらしい。

 戦争で天涯孤独となったが、親の残してくれた豪邸と遺産があり生活には困らなかったが、思わぬ難題が降りかかって来た。

 それは……祖父の地盤を引き継ぎ政治家になるという事だ。


 

(まあそれにしてもあの時は、とんでもない事をしでかしてしまった)

 初枝の余りの言葉に完全にキレ、大切な乳房と○部を傷付けてしまったが、あいにく軽傷だったため痴話げんかと言う形で処分された。


 そこには祖父の絶大なる力が有っての事。

 祖父は政財界では誰もが恐れる剛腕で知られた男。

 その為三ツ矢はおとがめなし。

 

 誠に残念な話ではあるが、直系の親族が戦死した為、全く政治家になる気はなかった三ツ矢だが、お鉢が回って来た。


 全く興味はなかったが、祖父の強い後押しで致し方なく政治の道を志す事になった三ツ矢。


 そこで早速政治家を志そうと思ったが、政治家になる為にはいろいろな事を学ばなくてはいけない。

 そんな時に高齢の祖父は、病床から三ツ矢を見守り教え導いて、そして…やがて政治家に上り詰めて行った。


 初枝の事は風の便りには聞いていたが、忙しくてそれどころではない。


(こんな俺が今更どんな顔で初枝の前に顔を出すことが出来よう?)

 

 そんな時に、到底頭の上がらない散々お世話になった、つい先だって他界したばかりの祖父の遺言で、富山県屈指の薬品会社のお嬢様である妻を、親戚筋から有無も言わせぬ形で強引に推し進められ結婚した。


 それでは『クラブ🥀レミ』のママとは、どこで知り合ったのか?


 実は…1954年4月初旬の桜の見頃を迎えた、何とも美しい山々の桜が映し出されていたあのビデオに映っていた2人、女性と男性更にはレミママも実はその場所に居たのだ。

 後ろ姿の麦わら帽子を被ったワンピ—ス姿の女性と、若い男性が初枝と何かを話している様子が映し出されていたが、この2人と三ツ矢は深い関係がある。


 だが、不気味な事に、そこから少し離れた場所で怪訝な顔で睨み付け監視?しているようなそぶりを見せるレミママ。


 これは一体どういう事なのか?

 この関係はもう少し後で判明する。


 ◆▽◆

 それでは今度は、友達小百合と江梨子の両方が恋焦がれている『加賀王子』こと山根君であり、レミママの息子で初枝の息子とも言われている、謎多き『山根友樹』の事を掘り下げていこう。

 

 江梨子は小百合を迎えに来た時に、テニスサークルで山根先輩を見てから密かに恋焦がれている。

 一方の小百合も、最初に山根先輩を見た時から惹かれている。


 早速、江梨子の方は運の良い事に、アルバイト先のレストラン「涼風」が偶然にも一緒だった事から親しくなっていく。

 

 折角同じ大学なので親しくなろうと話しかけても、今までは聞こえなかったふりをして返事もしないクールな男だったのに「私小百合ちゃんと中学生の頃から大の仲良しなの!」と聞いてからの変わりようは確かに目を疑うものが有ったが、この変わりようは何?


 今まではシフトが一緒の時でもそそくさと帰っていたのに、最近は仕事終わりにワザと待っていてくれて駅まで一緒に帰ったり、雨の日には肩を抱き寄せて相合傘で帰ったりと急接近中で、完全に有頂天になって居た江梨子なのだが、結局小百合の事をあれこれ聞き出したいばかり。


(結局小百合が目的なのかもしれない)釈然としない江梨子。


 それが証拠に「私小百合ちゃんと中学生の頃から大の仲良しなの!」と聞いてから直ぐの事だ。


「小百合ちゃんも誘って海に行かないかい?」


 第一あの海の家に行った事だって何か思惑が有っての事かもしれない。


 ほんの僅かな時間だから…そこら辺りにいるだろうと、慌てて帰って来たのに、まるで隙を狙ったようにいなくなった山根と小百合。


 ひょっとしたら最初から小百合と友達と聞いて、それで私に近づいて来たのかも知れない。

 そんな、うがった考え方までするようになっている江梨子なのだが……?

 

 実は…山根は、小百合の事がタイプ以前に、ある思惑が有って近付いている。

 山根は実際には、人を寄せ付けないクールなヤツと学生たちから思われているが、ある日を境にまるで人が変わったように、話しかけてくるようになった山根。

 

 それは……20年前の初枝が、忽然と姿を消した事が災いしている。

 山根は初枝と親子であるかも知れないが、深い繋がりが有る事だけは事実なのだ。

 親子であるかどうかは、まだハッキリしないが……?


 あの時初枝は気が触れてしまい、和尚さんに散々お世話にはなって居たが、小百合の母からは相当酷い目に合っている。

 ひょっとして殺害されていたとしたら、犯罪に最も近いのは小百合の母佳代と言っても過言ではない。

 

 佳代は夫である和尚さんと初枝の、激しいラブシ―ンの一部始終を見ている。

 また、そればかりではない。夜遅く初枝の寝床に顔を出している事を、和尚さんも僧侶たちも隠しているが、隠し立てしてもとっくに気付いている佳代。


 嫉妬に狂った佳代は、あの初枝と夫の激しいラブシ―ンを思い出すとカ——ッ!となって頭が真っ白になり気が狂いそうになる。


 それなので……怪しい行動を和尚さんや僧侶たちで必死に隠しているが、いつも目を光らせ昼夜を問わっず夢遊病者のように抜け出し「夫があの美しい初枝と何か有ってからでは遅すぎる」と、抜け出し灯籠の影からこっそりと茶室の様子を伺っていたのだ。


 そんなある夜に、和尚さんが初枝の寝ている寺の茶室に入って行った。

(こんな夜中に…これは……これは……怪しい?)


 するとやはり暫くして、妙な声が聞こえて来た。

 その声は何か……虫の鳴き声にも聞こえるし……何とも不思議な……?

 それとも?……何か……?快楽の絶頂である喘ぎ声にも聞こえた。


 それは……佳代の思い過ぎという事も十分に考えられるが、嫉妬に狂った女は何でも悪いように考える。


 それだけ自分に余裕が無いのだ。

 ましてや初枝が狂っている事など、この時点では、知る由もない。


(只の田舎のおばさんと、この界隈きっての美人では勝ち目がない)

 そう思うと身体中の血が激流して、抑えることが出来ない佳代なのだ。


 それでも…例え初枝が殺害されていなくても、殺害に匹敵する何か恐ろしい何かがあったからこそ初枝は、消息不明になって居るのだ。


 もし山根が初枝と親子だとしたら、その恨みは計り知れない。

 小百合を愛しているフリをしているが…そこには想像も付かない思惑が隠されている。


 全く山根もいくら何でも、純粋な小百合の思いを踏みにじっては、あまりにも可哀想過ぎる。

一体どうなって行くのか?















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