第27話⁂初枝失踪?殺害?⁂


 悪魔の手術とも言われるロボトミー手術を受けて、廃人同然となった初枝はこの後どうなって行くのか?

 また、山根は本当に初枝の子供なのだろうか?


 1975年のあの夏の日に、小百合と江梨子と山根と北村は4人で海水浴に行った。 


 北村と江梨子が高台の景色を見に行っている僅かな間に、山根と小百合はまるでそれを待っていたかのように居なくなっていた。


 下心有り有りの北村では有ったが、こんな自分には到底手の届かない美しい江梨子を目の前に、自分の存在をほんの僅かでも良い、江梨子の心の片隅に残したい思いで一杯なのだ。


 その為、折角やって来た海水浴を楽しくなかった1日にさせたくないので、必死に面白い事を言って場を盛り上げている。


 そんな涙ぐましい北村に対して、江梨子の頭の中は山根に対する熱い思いで一杯なのと、2人が急接近するのでは?と思う不安で押し潰されそうだ。


 こんないびつな関係の北村と江梨子なのだが、江梨子は何か……ひらめいた様子。

 一体何がひらめいたのか?


 実は…今まではどこに行くにも2人一緒だった江梨子と小百合だが、最近小百合が単独行動を取る事が増えている事に、不信を募らせている江梨子。

 更には山根とは、益々シフトがかみ合わなくなってきている。


 そこで全く興味のない北村では有ったが、小百合とも距離を置かれて山根とは、全くレストランで仕事が一緒になる事が無くなった江梨子は、いつもどんな時も気付くと自分の傍にいて、ヘラヘラ面白い事を言ってくれる北村を、案外利用価値が有るかもしれないと思い、とんでもない事を北村に頼んだ。


 それは最近小百合が単独行動が多いので、完全に自分の奴隷と化した北村にだったら頼めると思い、小百合を暫く見張って欲しいと言う注文を頼んだ。

 

 こうして小百合を尾行し始めた北村。

 すると1週間位経ったある日、金沢駅前にやって来た小百合は、金沢駅の待ち合わせ場所として有名な加賀人形郵太郎の前で暫く誰かを待っている。


 するとその時山根が現れて、2人は手を繋いで駅前の映画館に消えた。

 そこで慌てて北村もチケットを買って映画館に侵入した。


 映画が終わると2人は駅前からバスに乗って直ぐの、山根の住むマンションに消えていった。


 ◆▽◆


 愛する江梨子に頼まれ、北村が2人の跡をつけたあの日、山根と小百合は3時間も山根の部屋で何をしていたのか?


 部屋に入るなり誰はばかる事もなく熱い💋口付けを交わした後、山根が小百合を求めたが、小百合に拒否されてお預けとなって居た。

 山根も大切な女性と思ったのかそれ以上手出ししなかった。


 それでは2人は何をしていたのか?

 当時の1975年頃に出始めたばかりの家庭用ビデオテープで、過去の映像を見ている。

 

 そこには、1954年4月初旬の桜の見頃を迎えた、何とも美しい山々の桜が映し出されたかと思いきや、一気にカメラは逆方向の、何とも幻想的な魚津の蜃気楼を映し出している。

 

 海の上にもやがかかり一層の事、神秘的な何とも表現できない世界が広がって、薄っすら霧の掛かった中世の街並みらしきものが、屈折して海の上に浮き上がっている。


 そう思って見ていると40歳そこそこの妖艶で美しい女性が、可愛い赤ちゃんを抱えて微笑んでいる姿が映し出された。


 すると山根がとんでもない事を言った。


「この抱っこされている赤ちゃんは僕で、この女性は俺の母なんだ」 


 一体どういう事?

『クラブ🥀レミ』のママが正真正銘の母親なのでは? 


 何も知らない小百合は納得しているが………


「まぁ~!お綺麗なお母様ね!」

 


 

 過去の事ではあるが、実は…一時小百合の故郷魚津の片田舎の町中にとんでもない噂が流れて、大騒動になった事があった。

 

 どういう事かと言うと、小百合と山根が今見ているこの映像に映し出された赤ちゃんは、なんと小百合の父で和尚さんと、男を惑わす美しい初枝との間に出来た子供だ言う噂が、まことしやかに流れ出したのだ。


 人々の口さがない噂は、あれよあれよと広がり町中を飲み込んで行った。


「和尚さんの妻である佳代さんが、あの美しい初枝に夫を奪われ嫉妬に狂い、初枝を殺したらしい?」

 そんな噂で暫くは持ちきりだった。

 

 それもいつも気取った町一番の権力者の醜態に、面白おかしく騒ぎ立てられ更には、話は盛り上がり益々ヒートアップして行った。


「あんまりヨ。和尚さんも未亡人に手を出すなんて?」


「初枝さんは、一体どこに消えたのかしらね~?」


「やっぱり奥様が犯人かしらね~?」


「本当に可哀想に」


「あんな立派な和尚さんが?人って分からないものね。あの美しい初枝さんに手を出すなんて全く下世話な~?」


「でもいつも、自分達はあなた達とは違うと言った雰囲気だったけど?ざまあ見ろヨ!」

 

 

 何故こんな事になったのか?

 

 実は…話はこうなのだ。

 お手伝いさんが頻繫に辞めるので、人助けの為に、お寺の和尚さんの計らいで初枝は、お手伝いさんが見つかるまで時々お寺の茶室で生活していた。


 それは初枝が狂っているので、こんな女盛りの美しい女性を1人で置いて置けば危険、そう思っての事なのだ。


「こんな状態では危険。町の男衆の玩具には出来ん!」

 善意を振りかざして散々キレイ事を言っていたが、結局は自分が一番美味しい思いをしたのかも知れない。

  

 とんだ生臭坊主。

  

 その時に、狂ってしまった初枝に和尚さんが手を出したという事は、十分に考えられる。

 だが茶室なんかに寝泊まりさせたら、妻の佳代に直ぐバレるだろうに?

 

 いえいえ修行僧が何人も居るので、そこは何とでもなる。


 修行僧達が初枝の身の回りを、手伝っていたという事は十分に考えられる。

 もしそれが本当だったら、全く善意を笠に着た、とんでもない和尚さんだ。


 やはり噂通り、それを知ってしまった妻の佳代が初枝を殺害したのだろうか?

 だが、初枝の遺体などは見つかっていない。見付かったのは片足の無い軍人田村の骨だけだ。


 20年前の1954年のあの当時初枝は既に44歳、この後忽然と姿を消した事になる。

 

 もし山根が、初枝の子供だったとしたら、あの『クラブ🥀レミ』のママは一体何者?


 更にはあの初枝を傷付けた夫洋介の大親友三ツ矢が、実は祖父の地盤を引き継いで政治家になって居た。

 直系の子供達が戦死したのでお鉢が回って来たのだ。

 

 そこで、祖父の権力の下、又戦争直後という事も有って、あの事件はうやむやに片付けられ痴話げんかと言う事で、三ツ矢は罪には問われず無傷で済んでいた。


 そして…何と、あれだけ初枝を愛していた三ツ矢だったが、その三ツ矢の愛人が『クラブ🥀レミ』のママでハッキリは分からないが、山根は三ツ矢の実質上の子供という事になって居る。


「エエエエ————————ッ!一体どういう事?」


 これは何か引っかかる?


 もし和尚さんと初枝の間に山根が生れたとしたら、恋人関係の小百合と山根は異母兄弟という事になる。

 だが、三ツ矢と『クラブ🥀レミ』のママの間に出来た子供という事も考えられる。

 だが、そうあっさり三ツ矢も初枝を忘れられる訳が無い?

 何か秘密が?


 更には後ろ姿の、麦わら帽子を被ったワンピ—ス姿の女性と、若い男性が初枝と何かを話している様子が映し出されていた。


 この2人が初枝の失踪?殺害?に関与しているのだろうか?



 複雑に絡み合う人間模様。

 その事情は徐々に紐解かれて行く。


 









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