第26話⁂ロボトミ—手術⁂



 三ツ矢は、洋介の戦死の報を聞き涙にくれたが、又直ぐに別の感情が押し寄せて来た。

『これでやっと独身に終止符を打てる。初枝さんも今は夫洋介の死を惜しんでそれ所では無いだろうが、辛抱強く見守り続ければ多分気持ちも俺になびいてくれるに違いない。イヤ絶対に傾いてくれる筈だ。あんな肉体関係を全く嫌いな男とは出来ないだろう?そう思いわざわざ金沢から忙しい仕事の合間を見繕って通い詰めたのに、「私は……三ツ矢さんなんか全然好きじゃない、もう家に来ないで❕大嫌い!」』


 カ———ッ!となった三ツ矢は、咄嗟に初枝が憎くなった。


 更には誰にも取られたくない思いが沸々と沸き上がって来て、思わず台所の包丁を取り出して、初枝の美しい女体である乳房と○部を傷付けた。


 女の一番大切な乳房と○部を傷付けるとは余りにも残酷な話だが、それだけ愛情が深いという事だ。


 初枝を醜い身体にして誰にも触らせたくない!

 そんな 深い思いから一番大切な女体の部分を傷付けたのだった


 慌てて隣人に通報して医者に往診に来てもらい一命は取り止めたが、大変な事になった。

 当然三ツ矢は警察に捕まった。


 初枝が普通ではないと聞いた片足の無い元軍人田村と、妻帯者の若いイケメン元軍人池田が、心配になり頻繫に初枝の元に訪れる様になった。


 ◆▽◆

 初枝の異変に気付いたのは、誰有ろう西光寺の和尚さん。

 

 夕方和尚さんが、西光寺本堂で夕方のお勤めであるお経を読んでいると、入り口付近で”ガタン”と音がして不審に思って振り返ると、何ともだらしない恰好をした到底正気とは思えない女性がふらふら~と入って来た。


 着物を着ているが、やっとの事何とか縛ってある風で、胸元が大きく開き、腰巻の紐もだらしなく結んであるせいか、今にも解けて大切な所が見えそうである。


 更には何か意味不明な言葉を囁いている。

「嗚呼私は……殺される………フッフッフ~………誰かが私の家を覗いている………アッハッハッハ~アッハッハッハ~」


「こんなご飯時に、初枝さんどうしたのですか?」


「ウッフッフッフ~和尚さん………私の家が変なのです?」


「変て………何が?」


「アッハッハッハ~」


 意味不明な事を言う初枝。

 一体どうしたと言うのか?


 どうも………あの三ツ矢に大切な乳房と○部を切り付けられた事により、気が触れてしまったようだ。


 それはそうだろう、いろんな諸々の事があり自分の我慢の容量を超えてしまい気が狂ってしまったのだ。『統合失調症』

 

 あいにく夕げの時間で誰にも見られなかったので良かったが、完全に常軌を逸した行動、完全に狂っている。


 こんな気の触れた遊女の様な格好をしていれば、町内の口うるさい叔母様達に何を言われるか分かったものではない。

 

 只でさえこの美しい初枝を目の敵にして、チョットした事でも噂をしようと待ち構えている叔母様達。


 たまたま、月一でお寺の境内にやって来る片足の無い田村が、運よくこの日の2日後にやって来たので、和尚さんは早速話した。


 それでも…こんな格好で昼夜なしに頻繫に出歩けば、どんな危険が潜んで居るかも知れない。

 どんな男衆の餌食になるとも限らない。

 そんな事を思い悩んでいる和尚さん。


 一方の片足の無い田村も心配になり、早速若い精悍なイケメン池田に相談した。

 そして…「初枝さんの今後をゆっくり考えたい」と和尚さんに伝えた。

 

 そこで和尚さんは、暫く寺のこじんまりとした茶室に住まわせたが、もうその時からこの気の狂った初枝を狙っていたのかも知れない。


 和尚さんも、誰もいない本堂でこの狂った美しい女を玩具にしようと手取り足取り指導して、体を触り和尚さんの方から唇💋を重ねたのかも知れない。

  

 全く卑しい生臭坊主とはこの事。

 

 こうして、やがて小百合の母佳代に、和尚さんと初枝の只ならぬラブシーンを目撃される事になる。

 佳代から噂を聞きつけた田村と池田は、初枝を自宅に連れ帰えり策を練っている。


 初枝の不様な気の触れた遊女の様な格好は、町内に知れ渡る事無く月日が過

ぎて行った。


 ◆▽◆


「初枝さんは1人では何も出来ないから、お手伝いさんを付けましょうか?」


「本当にこのまま放って置いたら男衆の玩具にされてしまう。大切な上司の最後の言葉『妻を頼む!』その意思を引き継がないと申し訳が立たない」

 

 早速2人は、初枝の為に、お手伝いさんを付けた。


 父親が校長職に有った事で多額のお金を相続していた事や、洋介の両親の遺産相続分、更には軍人恩給などが有りお金には困らない。

 こんな事情があり頻繫に田村と池田は、この魚津にやって来ていたのだ。


 お手伝いさんも付けて暫くは安泰だったが、この統合失調症と言う精神疾患は恐ろしい病気で、感情のコントロールができずに金づちを振りかざして襲ってきたり、刃物を振り回したりと危険極まりない。


 更には「奴隷!死ね!お前がいると邪魔だ!役立たず!」と暴言を吐かれ、夜は布団で眠ることも許さない。


 また、幻覚・幻聴などの身体的な症状が起きる。


 幻聴が起こると、虐げられていると言ってイライラして眠らない

 幻覚が起こる場合は、窓から誰かが覗いている。常に誰かに監視されている。

と言って暴れる。

 また一気に意識低下がみられ死んだように眠り続ける。


 余りの酷い現状化、お手伝いさんが入れ代わり立ち代わり辞めていく。


 とうとう田村と池田は精神病院に入所させようと思ったのだが、敗戦化の日本では確たる精神病院もまだそうそうある訳ではない。


 そこで当時“画期的な治療法”として脚光をあびていたロボトミー手術に着目した。


 1938年(昭和13年)ロボトミー 新潟大学で開始。

 1947(昭和22年)ロボトミー東京大学医学部で開始。

 1950(昭和25年)にはロボトミー最盛期を迎える。


 1950年とうとう初枝はロボトミー手術を受けた。


 だがこのロボトミー手術は、後年悪魔のロボトミー手術と呼ばれて大きな社会問題となった。

 その結果後遺症によって、廃人同然のようになってしまった人々を、多数生み出した。


 実は…それは初枝も同じ事。

 脳の中でも 重要な部分” を手探りでいじくり回すのだから当然。

 

 緊張,興奮などの症状が軽減したが,人格変化・知能低下を起こし、無気力,意欲の欠如,集中力低下,全般的な感情反応の低下などの症状も多く現れた。


 話す事も外に出歩く事も亡くなった初枝は、お手伝いさん達にとっては扱い安くなったが、廃人同然となった。


 ◆▽◆

 故ケネディ大統領の実の妹 “ローズ・マリー・ケネディ”の術後の様子が明らかになった。


 少女時代、精神的に不安定だった彼女は、政治家だった父ジョセフが、23 才 の時にこっそりとロボトミー手術を受けさせた。


 その後の彼女はというと、幼児性が顕著に表れ、話す内容が支離滅裂で、尿失禁するようになったり…いつまでももボ~ッと壁を見つめたり、到底成功とはいえない廃人同然となった。


 兄の “ジョン・F・ケネディ” の大統領就任がきっかけとなって知られる存在となった。

 それは……まるで恥ずかしいものでも隠す様に、ケネディ家から隠されていた彼女だったが、その存在が明らかとなった。


 皮肉なもので、ケネディ兄弟の中で “自然死” を迎えられたのは彼女が初めてだった。


 ケネディ家に相次いで怒る不幸、人々はそれを「呪い」と呼ぶ。何故か、不幸の連鎖が止まらない一族。

 不審死が続き、そのうち最も有名なのはジョンとロバートで、二人はそれぞれ1963年と1968年に銃で暗殺された。ジョンJrは1999年に妻と義姉と共に飛行機事故で死亡した。



 ◆▽◆

 古代から中世までは、精神疾患は体内に存在する「悪い物質」が原因していると考えられ、それを排出する目的で、瀉血や浣腸などを施されていた。



時代が進むと、水責めや旋回椅子といった治療法が考案されました。これらはショック療法の一種で、患者を湖に突き落としたり、椅子に座らせ高速回転させたりすることで一時的に症状を抑えていたようです。もちろん当時の医師は真剣そのものだったのでしょうが、今にして思えば一種の拷問のようにも感じられますね……。


 更には、ショック療法の一種で、患者を湖に突き落としたり、椅子に座らせ高速回転させたりして一時的に症状を抑えていた。当時の医師にすれば真剣だったらしいが、何とも意味のない一種の拷問のようにも感じられる……。


 科学技術の発達とともに、精神疾患の治療法も変化する。


「マラリア発熱療法」。

 患者をわざと病気に感染させ、高熱で精神症状を治すという荒療治。

 梅毒性精神疾患への処置として有名だった。

 現在ではこの治療は根拠に乏しいとされている。



 ◆▽◆

 ロボトミー手術が流行した2つの理由

 なぜロボトミー手術がアメリカで流行したのか? その理由は2つある。1つは、手術の効果が目に見えてはっきりと現れたからだ。


 もう1つは、アメリカの精神病患者の爆発的な増加が関係している

 1945年に第二次世界大戦が終わると、心的外傷を負った兵士が何千人も帰国した。

 その治療法として、ロボトミー手術が選ばれた。


ロボトミー手術は長期入院も必要ない。その手軽さと確かな効果から絶大な支持を得た。


 だが実は、ロボトミー手術には重大な副作用があった。

 それは、患者から「感情」を密かに奪ってしまうという恐ろしいもの。

 人間の感情や意志を司る前頭葉を切り離すことで、患者は心を失い、まるでロボットのようになった。


【施術当時の精神医学界では“画期的な治療法”として脚光をあびており、アメリカ合衆国や日本を中心に、多くの医師によって積極的にこの手術が行われた。この手術を発明したポルトガルの神経科医は1949年にノーベル賞を受賞している。1970年代の初めまでに、米国では2万件以上ものロボトミー手術が行われた。治療を受けた患者は扱いやすくなったが、感情を失い廃人同然となったりして通常の生活が送れなくなった者もいた。ロボトミー手術の問題が広がるとともに、1950年代に向精神薬が発明され、手術は行われなくなる】






 




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