第25話⁂初枝と三ツ矢⁂



 初枝は折角夫である洋介と、全てを語り合い夫婦の契りを結ぶことが出来たが、誠に残念な事に夫洋介は敢え無く戦死。



 それでは夫の部下と名乗る片足の無い田村と、若く精悍でイケメンな池田は初枝とどんな関係性があったのか?

 

 実は…そこには、あの夫の先輩で友達の、夫より格下の大隊長三ツ矢が関わって来る。

 三ツ矢も洋介が生きている間は、初枝とは距離をおいてはいたが、戦死の一報を聞いてからと言うもの、戦後のドサクサに紛れて何かと初枝の疎開先に赴いている。



 初枝は1度は三ツ矢と夫を裏切るハレンチな行動を取ってしまったが、夫とやっと交わる事も出来、夫の腹の内を知ってしまった以上、今更三ツ矢と関係を持つ事など考えられない。


 祖母も戦争のドサクサの中、高齢で亡くなって、女一人のそれも美しい女盛りの初枝の家に、度々顔を出すなどあり得ない話、困り果てて居る初枝なのだ。


 それもこんな片田舎の、ご近所さんと何かと関りも深い町に度々現れるなど迷惑千万、どんな噂が立つかハラハラドキドキ。


「あの~心配してわざわざ足を運んで頂けるのは有り難いのですが、近所の目もありますので、これっきりにして下さい」


「ああああ!でも……?家も壊れています。僕が修繕しましょう」


 そう言って図々しく家に上がり込んでくる始末。

 あれやこれやと言って修繕してくれるのは有り難いが、金銭的に困っている訳でも無いのに、これでは人様から何を言われるか?


 皆さん戦争未亡人で苦労なさっている方も多いのに、ただでさえ目立つ初枝の元に頻繫に現れる男三ツ矢に早速よからぬ噂が?



「旦那さんを亡くしたばかりだと言うのに節操のない」


「お綺麗な方は良いわよね~」


「私達とは違うから」

 

 この様な感じで散々な言われよう。

 要は妬み。やっかみ。


それでもあの時代では珍しい車で夕方にやって来て、夜の内に帰っていたのでそんな噂は直ぐ立ち消えになった


 ◆▽◆

 最初のうちは本性を出さなかった三ツ矢では有ったが、とうとう本性を剝き出しにしてきた三ツ矢。


「初枝さん僕は……?僕は……?初枝さんの事を思うと………胸が苦しくなって………良いだろう?」

 そう言って迫って来たのだった。


 初枝にしたら全くタイプでもない三ツ矢にあの時は身をゆだねたが、何も男として魅力を感じたからではない。


 敢て何も思わないから出来たのかも知れない。


 何も思わないから……夫の目を覚まさせる為には、一番身近な男三ツ矢が最適、そう思い、夫が最も衝撃を受ける、この三ツ矢との行為を写真に納めて目を覚まさせようと思ったのだ。


 嫉妬させて、夫洋介をあんな如何わしい行為から引き戻すために、恥も外聞もかなぐり捨てて行った行為。


 それなのに三ツ矢の方は初枝に夢中になって、こんな富山くんだりに度々やって来て、とうとう本性剝き出しになって迫って来た。


「あの~?私は、まだ洋介を亡くして間が無いのでそんな気にはなれないの。ごめんなさいね」

「ぼっ僕は真剣なんだ。出来る事なら結婚したいと思っている。第一あんな関係を持つことが出来たって事は、俺の事を嫌いじゃないって事だよ。だからもう洋介の事は忘れて俺との人生を歩もうよ?」


「私は……まだ……そんな気にはなれない」


「いいだろう……?もう一度だけあの時と同じ事……いいだろう?」


「止めて………ヤメテクダサイ……そんなこと………」


「………もう、ここに通い出して………どのくらい経つ?………こんなに通っているのに………いいじゃないか?」

 そういうと強引に初枝に抱き付いた。


「もうヤメテ下さい」

 払いのけて家の中を逃げ回る初枝。


 尚も付け回す三ツ矢。

 余りにもしつこいのでとうとう初枝は本心をぶちまけた。


「私は……三ツ矢さんなんか全然好きじゃない、もう家に来ないで❕大嫌い!」


 誰が見ても魅力溢れる初枝に、思いも寄らない形で肉体関係を迫られた三ツ矢は、あの時の夢のような時間を思い出すたびに、興奮して自慰行為にふけっていた。


 もう何十回と通い詰めやっと言えた言葉なのに、こっちもムラムラしながらもやっと吐いた言葉のお返しが、これではたまったものではない。


 もう45歳にもなると言うのに、未だ独身の三ツ矢は、商売女とも多分に肉体関係を結んだ事も有る。

 

 それもこれも初枝を抱いてからと言うもの、幸せな感情が押し寄せてくる反面、何か……心にぽっかり大きな穴があいたような………何とも言えないむなしさを感じている。

(抱いている時間は夢のような時間だったが、只々愛する夫洋介の不感症を治す為だけに、あの美しい女体を自分に惜しげもなくさらけ出しただけであって、自分を1人の男として見て行った行為ではない。あくまでも愛する洋介と心行くまで夫婦関係を続けて行くための、足掛かりでしかない自分の置かれた立場)

 そう思うと虚しくて!寂しくて!苦しくて仕方がない。

 それでも…そうとは分かっていながら、忘れられずにいる。


 そんな時に大親友洋介の死は、ショックでは有ったが、その後から何か……思いも寄らない感情が押し寄せて来る。


(親友洋介の死は受け入れがたいが………これでやっと初枝さんを自分だけの者に出来るかも知れない?)


 誠に不謹慎な話だが、なんとその思いは洋介の死を倍増する喜びに代わって行った。


(それなのに………それなのに………「私は……三ツ矢さんなんか全然好きじゃない、もう家に来ないで❕大嫌い!」この言葉は余りにも酷ではないか?僕の心を根こそぎ奪っておきながらその言葉はあんまりだ!)

 そう思いながらも、何か理由が有るかもしれないと思いまたしても聞いてみた。


「じゃ~?誰か気になる人でもいるのかい?」


「居ないわよ。まだ夫の事で一杯なのよ」


「じゃ~?君が夫の事が忘れられるまで俺待っているよ。良いだろう?」


 その時に初枝は妻帯者ではあるが、あの精悍なイケメン池田に気持ちが傾いていた。

 そんな人の夫を奪おうとは思わないが、只々「素敵な人だな~!」と言う内に秘めた思いだけである。


 そんな思いでいる初枝に「待っているよ!」と言われた初枝は迷惑でしかない。


「私の事は諦めて下さい」


「俺とあんな関係まで結んでおきながら、君だってまんざらじゃないからだろう?」


「もうしつこい人は嫌い。諦めて!私は三ツ矢さんとはそんな気はありません」


 カ———ッ!となった三ツ矢は、咄嗟に初枝が憎くなった。更には誰にも取られたくない思いが沸々と沸き上がって来て、思わず台所の包丁を取り出して、初枝の美しい女体である乳房と○部を傷付けた。


 

「ギャ————————————————ッ!」


 初枝は痛みでもがき苦しんでいる。

 女の一番大切な乳房と○部を傷付けるとは余りにも酷い話だが、それだけ愛情が深いという事だ。


(初枝を醜い身体にして誰にも触らせたくない!)

 そんな思いから一番大切な女体の部分を傷付けたのだった


 慌てて隣人に通報して医者に往診に来てもらい一命は取り止めたが、大変な事になった。

 当然三ツ矢は警察に捕まった。


 戦争直後たまには顔を出していた田村と池田では有ったが、こんな事件が起こり片足の無い元軍人田村と妻帯者の若いイケメン元軍人池田が頻繫に、初枝の元に訪れる事になる。


 そして…事件の幕が開く。

















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