第24話⁂夫婦⁂



 夫洋介は、1944年3月戦車連隊長として満州北部防衛の任に就いた。


 一時日本に帰国したが、更に1944年6月某日硫黄島への動員が下令されたが、この地で無念の死を遂げた。

 

 ◆◇◆

 それでは初枝が、三ツ矢に依頼したあのとんでもない写真は洋介に渡ったのか?


 ………実は渡っていた。


 

 三ツ矢と洋介は、お互い戦線から帰国した折りには、戦場の状態をいつもの行きつけの飲み屋で情報交換し合っていた。

 戦況を聞かされて一喜一憂する三ツ矢だったが、戦闘状況の話もひと段落ついた所でとんでもない話を始めた。


「あっあのさ~初枝さんの事だけど、お前の事で随分悩んでいたぞ~?お前が不感症で、結婚して7年にもなるというのに、今まで数えるくらいしか夫婦生活が無いので困っている。そして…それをどうしても治したい。そう言って……こんな………こんな………写真だが………俺だって大切な友達の奥さんと………こんな事絶対に出来ないって言ったんだ………だけどうしてもって言うので………こんな事になってしまった………でも?………俺はそんな気はサラサラなかったんだ………俺の大切な友達の奥さんにそんな事………だけど………奥さんがどうしてもって言うので………信じてくれ!」


 そして…差し出された封筒の中の写真を見た洋介は、何か……目に光るものが?……いったいどうしたと言うのか?………ビックリした様子ではあったが、気を取り直して三ツ矢をジ———ッと見て………暫くは、怖い鬼の形相で睨み付けていたが、急に笑い出した。


「ワッハッハーワッハッハー」


「オッオイどうしたんだよ?何がおかしいんだよ?」


 洋介は初枝が、洋介の部屋の戸棚の中の、あの恥ずかしい絶対に知られたくない秘密の写真を、見てしまったのだと確信した。


 そして…今この危険な関係を断たせる為には、余程の刺激を与えないと断つことが出来ない。そう思い、ワザと仕事のライバルであり友達の三ツ矢と、洋介の妻である初枝が肉体関係を持つことで、ライバル三ツ矢にだけは奪われたくない。負けてたまるか!そう思わせて、あのようなえげつない関係に終止符を打ち、自分の元に帰って来る事を望んでの事だと悟った。


 だが、洋介の心の奥底には、三ツ矢は……士官学校時代からよく知っている先輩だが、女子学生から一度たりとも浮いた話が上がった事の無い、冴えない三ツ矢先輩なんか論外と想い油断し、相手にしていない。




 そんな洋介では有ったが、写真を10数枚も見る内に、また違った感情が押し寄せて来た。

 {このまま放っておけば、独身の三ツ矢に妻初枝を奪われてしまう}


 最初の数枚はそれこそ{こんな冴えない男なんかと………何でこんな事までしなくてはならないの?}表情にも、如実にそんなイヤイヤ感が表れていた。


 だが、写真をめくっていく内に、初枝の表情が徐々に徐々に変わり始めて、完全に快楽だけしか見えない。この一瞬の為に生きている。そんな恍惚の表情に様変わりし始めて、洋介をあの岩田次官から引き離し、嫉妬させる事はとっくに忘れて、こんな満ち足りた欲望と快楽を感じる為に、私は……生まれてきた。この快楽の世界に浸り、永遠に溺れていたい。


 写真をめくっていく内に、益々色濃く表れる初枝の恍惚の表情に、情けなさを通り越して、後悔ばかりが先立ち涙が止まらない。


 そして…自分の中の1番大切な何かが、一瞬にして溶けて無くなる感覚に支配された。


 今までは、余りにも近くにあり過ぎて食べる気もしなかった妻。

 家に帰れば付き纏い、餌を欲しがる鬱陶しいグチな女だと軽蔑していたのに、いざ遠くに行ってしまうと、とんでもない事をしてしまった。


『逃がした魚は大きい』


 写真をめくる度に、自然と目から涙が溢れて来る洋介。


 一方の三ツ矢も、あの時は初枝に無理矢理誘われた形で関係を結んだが、最初に初枝を洋介から紹介された時から、密かに思い焦がれていた。


「美しい人だな~!」


 だが、友達の妻なので諦めてはいたが、例えそれが友達の病気を治す手段だったとしても、憧れのあんなにも美しい女性の女体をめでることが出来、更には夢にも思わなかったあんなにも美しい女性を、支配し食べ尽くすことが出来た喜びは、このまま死んでも思い残す事はない。


 例え疑似恋愛であったとしても、とても忘れられるものではない。日に日にあの日の女体が一層色濃く黄泉がえり、興奮が抑えられない三ツ矢なのだ。


 ◆▽◆


 家に着くなり洋介は、妻の頬っぺたを思い切り叩いてまくし立てた。


「お前、何だよあの写真は、ふしだらな~!寄りによって俺の先輩三ツ矢と何故あんな事をした?言ってみろ!」


「ワァ~~ン😭ワァ~~ン😭それは………それは………あなただってそうじゃないの、あんな汚らわし事、どうしても………どうしても………止めて欲しかったの、ウウウウッ(´;ω;`)ウゥゥ」


 すると洋介が、思い出すだけでも腹立たしい初枝の恍惚の表情に、抑えきれない興奮と嫉妬で、初枝をメチャクチャに壊したくなった。


 着物の裾に手を入れ、荒々しく帯を解いて、長襦袢も剝ぎ取り、豊満な乳房を乱暴につかみ揉みしだき、まだ明るいと言うのに真っ裸にして畳に押し倒して問うた。


「この淫乱女が、よくも三ツ矢にやらせたな~!………触らせたな~!………舐めさせたな~!」


 そして…壊れるくらいの勢いで、汚れをさらい出す勢いで、指を入れて恨みの分量乱暴にいじくり肉棒を突っ込んで愛し合った。


「あなた何を……何をするの`。*・゚゚ヤメテ…💖.+:。ヤメテクダサイアッああああああ💋~~もっと……もっと~💛嗚呼~」」


 2人のこれが初夜だった。


 ◆▽◆

「もうバレてしまったので仕方がない……俺は確かに……普通ではないセックスをしている………元々男好きで、お飾りだけの奥さんを亡くして、独り身の次官が嫉妬深くて困っているんだ。妻との関係を物凄く咎めるんだ。だから………だから………初枝を抱くことが出来なかった………でも……?それだっていつまでも続く事じゃ無い。もう少しの辛抱だ。いつか戦争も終わり、そして出世してしまえばこっちのもんさ………初枝を幸せにしたい。出世して愛する妻を頂点に登り詰めさせてやりたい……そんな思いもあり………たまたま次官の御眼鏡にかなって、最初は俺だって拒んだんだ。だけど上下関係は厳しいから、こんな関係になっただけの事だよ。初枝を忘れた訳じゃない」


「あなた……私は……出世なんて望まない。あなた………あなただけで良いのよ……だから………そんな関係は切って欲しい」


「こんな大変な時期にそんな事はない。今は戦争でそれどころではない。岩田次官とも離れ離れで戦闘モード一色だ。気にしなくていい。その内切れるさ」


 こうしてやっと夫婦の契りを結んだ2人だったが、洋介は戦死。





















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