第14話⁂村上の異常行動⁈⁂




 肺結核で愛する夫をあっけなく失ってしまった初枝の落胆ぶりは、尋常なものでは無かった。


 いつまでも立ち直る事の出来ない娘初枝の事を心配して、父親が又しても良縁を紹介してくれた。


(再婚でもすれば気がまぎれるかも知れない?)

 それが戦争で亡くなったエリ―ト軍人村上だった。

 


 実は…今から90年程前の事ともなると、幾ら美人で成績優秀な初枝でも、再婚で傷物の初枝が、家柄も申し分のない独身エリ-ト軍人と再婚出来るなど、あり得ないことだったのだ。

 

 そんな願ってもない縁談話、そこにはとんでもない落とし穴が………???

 

 このエリ-ト軍人村上は上司から厳しく言われて、致し方なく初枝と結婚したのだが、それではもう結婚適齢期もとっくに過ぎた31歳のエリ-ト軍人が、何故結婚を躊躇するのか?

 

 実は…秘密にしている離れる事の出来ない、愛する相手が居るのだ。

 上司に勧められて致し方なく形式上の夫婦となっただけの事。


 結婚したは良いが、夫婦生活を送った第二次世界大戦勃発までの3年間、何を文句を言うでもない優しい夫なのだが、夫婦になったと言うのに半年たっても1年経っても全く初枝に、指1本触れようともしない。


 

 そこで初枝の方から、夜そ~っと村上の布団の中に入ってみた。


すると………


「……疲れているから今日は眠らせてくれ」

 

 そんな寂しい、わびしい、言葉が返って来た。



 ◆▽◆

 初枝は結婚して僅か半年で、肺結核を発症して寝たきりになってしまった前夫との間に、子供を授かる事も出来ず非常に残念な思いをしている。

 

「前夫の事をいつまでも嘆いていても良い結果は生み出せない。前夫の事は良い思い出として胸の奥にしまって、今度の夫との未来に掛けてみよう……そして…今度こそ何としても可愛い我が子をこの手に!」


 そんな複雑な思いを胸に、この結婚に踏み切ったのに、全く初枝に対して無関心な村上。 

(これでは何のために結婚したのか分からない?)

 

 そこで休日の午後7時に、決まって出掛ける村上の居場所をこっそりと付けて見た。

「二・二六事件の事で大変な事になって居る」

決まってそう言って出掛ける村上の言葉を信じ切ってはいたが………?


(それでも…妻となった私に指一本触れないってどういう事?そんなことを大切な休日にまで度々持ち越さなくても、平日の職場で解決できるでしょうが?)


 ちっとも構ってくれない村上に、不満タラタラでまさかとは思ったが、跡を付けて見た。


 折りしも時代は、クーデターを企んだ陸軍の皇道派(こうどうは)と呼ばれる勢力が、首相官邸や警視庁を襲って要人たちを次々と殺害していったクーデター未遂事件が1936年の2月26日に起きた半年後の事なので、致し方ない事態と言われてみればそれまでなのだが?


 こっそりと付け狙っていると村上は陸軍基地とは真逆の方向に向かった。

 すると一軒の居酒屋に入って行った。


 顔をスカ-フで隠して侵入すると、店内は割と広々としており中々見付ける事が出来なかった。

 すると2階に続く階段を発見、早速2階に上がると奥の方に村上を発見………。

 よく見ると、誰かと一緒に向かい合わせで座っている。


 (ああああああああ!何とも若くて美しい女性が向かい合わせで座っている。やっぱり女だったのね!)


 悔しさが込み上げて来る初枝なのだが、暫くすると今度は時間差で村上より年齢的に少し上の男性が、慌ててその若い女性の横の席に座った。


(な~んだ~?只の職場の同僚との飲み会なのかも知れない?………それなら何も「二・二六事件の事で大変な事になって居る」なんて言わないで職場の同僚との付き合いって言えばいいのに?)


 チョットだけ安心した初枝なのだが、それでもこの後、あの可愛い娘をこっそりお持ち帰りという事も、有るかもしれないと思い見張っていた。


 すると3人は、2時間ぐらい和気あいあい酒を酌み交わし店を出た。

 そして…夜の繫華街を通り過ぎて、やがて解散して、散り散りバラバラに別れた。

 これで一安心の初枝は安心して家路を急いだ。


 だが、この日もいつものように明け方まで帰らなかった。


(あの時居酒屋で確かに皆と別れたのだが、一体あの後どこに行ったのか?こんな……物騒なご時世、軍人たるもの、女の子と浮名を流す等以ての外、それで先輩と一緒なら職場の目もあざむけると思い、3人で会っていたに違いない?)


 一気に怒りが込み上げて来る初枝。

 (それでも…ハッキリした事は分からない?でも今度こそ絶対に浮気現場を突き止めてやる!)


 


 そして夫の村上は、初枝が付けていた事も知らず、また休日のある時間になると決まって出掛けて行った。

(今度こそは絶対に浮気現場を突き止めよう!)

 そう思い慌てて付けた。


 暫く付けていると、今日はこの前とは別の台東区の、こじんまりとした居酒屋に消えた村上。

 こんなこじんまりとした店では直ぐバレてしまうのと思い、夏場の8月なので、店内には入らず夕涼みがてら外で様子を伺っていた。


 すると今日は、以前居酒屋で見掛けた職場の先輩らしき男と2人切りで出て来て、仲良さそうに夜の街に消えていった。


 懸命に跡を付ける初枝、するとその時2人は、何とも風流な情緒あふれる旅館に消えていった。

「エエエエ————————?ッ!男同士で何するって言うのよ?」

 思わす声を出してしまった初枝。


 ………って事は村上はホモって事?

 これでは女性に手を出す訳が無い!


 一体本当の村上の姿はホモなのか?(男性同性愛者)

 それとも……バイセクシャルなのか?(男性女性両方に性的欲求を抱くセクシャリティの事)



 こうして初枝の異常行動の原因が徐々に判明する。

 

 当然男を魅了してやまない魅力が有るからなのだろうが、いくら何でも男性の出入りが激しすぎる。

 その裏には思いも寄らない原因が隠されている⁈ 


 それではもし山根が初枝の子供だとしたら一体父親は誰なのか?




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る