第11話⁂江梨子の恐ろしい思惑!⁂



 江梨子は、北村から小百合と山根が、映画を見た後、山根の住むマンションに消えて3時間ぐらい滞在したのちに、自分の住むマンションに小百合が帰った事を聞いていた。

 ……って事は、もう2人は完全に肉体関係になってしまっているのか?

 

(3時間も山根先輩の部屋に、若い2人が一緒に居て何もないわけが無い。許せない!許せない!許せない!もし2人がもう男女の関係になって居るとしたら、あぁ~!嗚呼!そんなの絶対に許せない!)


 知らず知らずの内に涙がとめどなく溢れだす江梨子は、只々絶望感と敗北感が押し寄せて来て、その後からは憎しみが倍増して、一番大切な人を奪ったあのベビーフェイスの小百合の二面性を粉々にぶち壊してやりたくなった。


(こんなにも初心で、男の子と手も握った事も無い、会話すらしたことが無い、そんなあざと可愛い上目使いな、初心な何とも可愛い女の子を装って、次から次へと男をとろけさせてしまう魔性の女、今に見て居なさい。あの恐ろしい事件を全て暴露して、そのベビーフェイスを鬼の顔に変えて見せるワ————ッ!)

 

 

 ◆▽◆

 

 江梨子は小百合を誘って海水浴に出掛けた事を、つくづく後悔している。

 

 まさかほんの僅かな時間だから…そこら辺りにいるだろうと、慌てて帰って来たのに、まるで隙を狙ったようにいなくなった山根と小百合。


 ひょっとしたら最初から小百合と友達と聞いて、それで私に近づいて来たのかも知れない。

 そんな、うがった考え方までするようになっている江梨子なのだ。

 そして…よくよく考えるとやはり何か……怪しい。


 アルバイト先では同じ大学という事で、時たま話す事は有ったが、最初の内はこう言っちゃなんだが(何か人を寄せ付けないクールな人だな~?)と思ったものだ。


 それがある日を境にまるで人が変わったように、話しかけてくるようになった山根。

 それで江梨子は、山根が話しかけてくるようになったその切っ掛けを、懸命に模索している。

 そして…ある言葉に辿り着いた。


「私小百合ちゃんと中学生の頃から大の仲良しなの!」


 今までは話しかけても、聞こえなかったふりをして返事もしないクールな男だったのに「私小百合ちゃんと中学生の頃から大の仲良しなの!」と聞いてからの変わりようは確かに目を見張るものが有った。


 今まではシフトが一緒の時でもそそくさと帰っていたのに最近は、仕事終わりにワザと待っていてくれて駅まで一緒に帰ったり、雨の日には肩を抱き寄せて相合傘で帰ったりと急接近中で、完全に有頂天になって居た江梨子なのだが(一連の流れを考えると、これって完全にキープ女にされそうだったって事?)沸々と怒りが込み上げて来る江梨子。


 実は…山根は、小百合の事がタイプ以前に、ある思惑が有って近付いているのだ。

 それはのちのち分かって来る。


 それでも…どんな思惑が有っての事なのか分からないが、山根はテニスサークルが一緒だから、なにもこんな回りくどい事をしなくても、自然の流れで付き合いに発展出来るのでは?



 


 実は…以前テニスサークルのマネージャーで香苗という女子と、二進も三進も行かない状態に追い込まれて自殺未遂騒ぎになった事が有った。


 こんな話を聞くと、山根もとんでもない、すけこましと思ってしまうのだが、実態はどうなのだろうか?


 実は…どうも2歳年上のテニスサークルのマネージャー香苗が、入部して来た山根に親切にしていた事から、自然と付き合いに発展したらしいのだが、山根には家庭にに大きな問題があったらしく、親切な2歳年上のマネージャー香苗になら、たとえどんな恥ずかしい秘密でも話せるだろうと思い、とうとう1人で抱えきれずに悩みに悩んだ挙句、打ち明けた。


「絶対に誰にも話さないで!」


 そう言って家族の事も打ち明けていたのだが、どうもその秘密を大親友の女子部員Yに話したらしいのだ。


 それに怒り狂った山根が、絶交を言い渡し、捨てられてしまった香苗は自殺を図ったが、運の良い事に未遂に終わった。


 それでも…大親友に話した事が、何故山根の耳に入ったのか?


 それは実は…山根の母親はクラブのママなのだが、思いも寄らない大病を患っていた。

 その病名はB型肝炎で、感染経路は輸血や注射針バリの使い回しなど、更には性交渉でお客様に移されるなどの原因が考えられる。


 レミママは何とも運の悪い事に悪化して劇症肝炎一歩手前と言われて、生死の境を彷徨っている。

 そして…山根の父親はどうも大物政治家らしいのだが、ママは何と別のお客様からB型肝炎を移されたらしい。


 身持ちの硬いママでは有ったが、大物政治家という大きな後ろ盾、パトロンが有りながらも、そこは浮き沈みが激しい水商売、生き残る為、他の店を出し抜く為にも、悠長な事は言っては居られない。


 お店を守る為に最後の砦である女の武器で、お客様とセックスをしてしまう事もあるのだ。


 そして…そのお客様には「この事は絶対に誰にも言わないでね💛2人だけの秘密よ!」

 こう付け加えて、お客様を特別な存在であるかのような優越感に浸らせて、足蹴く通わせる常套手段を取っていた。



 こうして他店に負けたくないばかりに、女の細腕で仕事に専念するあまり、体調の変化に気付くのが遅れてしまったママは、性交渉で移る事もあるB型肝炎になってしまい、末期症状が現れて来てしまった。


 更には、ママは様態が思わしくないのに、一番頼りにしている大切な今まで足蹴くクラブに通ってくれていたパトロンであり、息子の父親でもあると言われている大物政治家にも捨てられてしまって、精神的にも追い詰められている。


 有力な後ろ盾を持つ富山県屈指の薬品会社のお嬢様である妻を、失う訳には行かない。

 恐妻家の大物政治家は、妻にバレたら困るので病院に見舞いに来るどころか、浮気の証拠を突き付けられて、あっけなく15年続いた愛人生活にピリオドを打たれてしまった。

 でもこの話はかなり間違っている。

 確かに山根が10歳の時にレミママが、B型肝炎になった事も事実で、山根が15歳の時にレミママは大物政治家に捨てられた事も事実なのだが、香苗が聞き間違えて友達Yに伝えてしまった。

 

 実は…話の核心部分を話すと余りにも恐ろしい現実があるので話せない。

 レミママは実は………もうこの世には?


 それだけレミママの事が頭から離れず、今尚どんな形でも良い、レミママの感傷に浸りたい。そんな思いでついついレミママの事を口走ってしまうのだ。

 


 ◆▽◆

 実は…山根から聞いた秘密を香苗は、口の堅い大親友Yにだけは話してしまった。

 それは、かなり間違って伝わった。

 もう亡くなっているのに、まだ若い母が死ぬかもしれない。天涯孤独の身ではあまりにも可哀想、そう思い、香苗1人では抱えきれずに相談したのだった。


 だが、山根は何も今現在の話とは一言も言っていない。もうずいぶん昔の話なのだが、それを勘違いして今現在の事だと思い、Yに話してしまった香苗。

 一体レミママにはどんな秘密が隠されているのか?



 ◆▽◆

 大親友Yは富山県にある大繫盛店の寿司屋「長兵衛」のお嬢さんで、父と娘2人暮らしなのだが、そんな事も有って親子の絆はかなり強固なのだ。


 普通だったらもう父を避けたい年齢ではあるが、この親子に(オヤジのパンツと一緒に洗濯したくない!オヤジ臭、臭い!)などという、うがった言葉は全く通用しない。どんな僅かな事でも包み隠さず話し合う親子なのだ。


 そんなある日、父に同じ富山最大の歓楽街である「桜木町」に有った、有名な「クラブ🥀レミ」のママの病状を話した。


「あのね?『クラブ🥀レミ』のママがB型肝炎を患って末期らしいよ?」


「エエエエ————————ッ!レミママは………とっくの昔に亡くなっているけど?アッそれから……『クラブ🥀レミ』はもうとっくに無いヨ!」


 実は…『クラブ🥀レミ』のママとは何を隠そう、1度だけ夢のような関係💛💋男女の関係が有ったのだ。


 そんなレミママの話が、今更なんで話題に上がったのか、それも訳の分からないB型肝炎で末期等とんでもない話。


 その話を以前『クラブ🥀レミ』で度々顔を合わせていた、そして『クラブ🥀レミ』に顏を出したついでに「長兵衛」にも度々食べに来てくれていた、今なお常連の大物政治家に、心配になり打ち明けた。


こうして大物政治家の父が余りにも突拍子の無い話に山根に注意した。


「レミママの話はしない方が良いヨ!」


 

 …世間は広いようで狭いとはよく言った物、こうして山根の耳に入り香苗は捨てられてしまった。







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