第10話⁂江梨子の思惑⁈⁂


 一緒に付き合ってくれるだけでも勿体無い、あの美しい江梨子から頼まれた北村は小百合を尾行し始めた。

 

 すると1週間位経ったある日、小百合と山根は手を繋いで駅前の映画館に消えた。

 

 映画が終わると2人は駅前からバスに乗って直ぐの、山根の住むマンションに消えた。 


 その話を聞いた江梨子は、やっぱり2人は付き合い出していたのだ!という怒りと     山根先輩を絶対渡すものか!ましてや最大のライバル小百合には絶対に渡したくないという思いが、沸々と沸き上がって来るのだった。


 そして…江梨子は、早速行動を開始する。


 こんな事くらいで、あの山根先輩を諦めきれる訳が無い!向こうがシフトを一緒に組まない様にしているのなら、こっちが山根君のシフトにシフトチェンジすればいいんだ?


 こうしてアルバイト仲間と代わって貰い、山根先輩と一緒の日にアルバイトに入った。

 先ずは山根を奪い返す手段として、今まで知り得た小百合の秘密を暴露する事。

 それでもあまり露骨にバラしては、自分自身の性格を疑われるので、徐々に徐々にやんわり秘密を暴露して行こうと考えている。


 古くから重要な役割を担っていたお寺さんは、昔から土地を多く所有する地主さんである場合が多い。


 

 過去の、この片田舎の祟りと恐れられたあの事件。


 あの色っぽい男を惑わす連隊付中佐村上の妻初枝が、行方不明になった事件は、あの当時この界隈では、凄い噂になった。

 ある日突如として祖母の家からそれも、何も持たず着の身着のまま……只、外の井戸水の付近に真っ赤に血の付いた羽織が見つかった。

 

 その血は初枝の血らしいが、今でもあの事件は、異様な出来事として語り草になって居る。


 だが、事件はそれだけに留まっていなかった。

 そういえば、まるで初枝を追うように戦争で片足を負傷した、あの片足の無い田村も、ある日を境に忽然とこの片田舎に現れなくなった。


 

 ◆▽◆ 

 実は…恐ろしい事が起こっていた。

 戦争で片足を負傷した、あの片足の無い田村が実は、この一帯の土地を多く所有する地主さんである、小百合の家が所有する土地から遺体で見付かった。

 と言っても、どうも亡くなって、もう10年近く経っているらしく、干乾びた骨だけなのだが?衣服の切れ端が見付かり、田村ではないかと思われている。



 何という恐ろしい事を———

 それは一体どういう事なのか?

 

 実は…巨大ス-パ-建築の為に地主である小百合の父から土地を借りる「借地契約」が結ばれてス-パ-が建設されようとしている。


 その建設に携わったのが、誰有ろう江梨子の父である近藤建設が手掛けていたのだが、あの時代はDNA鑑定などまだ出来ない時代。


 【日本警察ではDNA鑑定は89年に導入され、92年に本格運用を開始。

 技術の進歩に伴い、年間で22件だった件数は近年では、30万件にも上っている】

 

 その人骨が有った事を、両親が話しているのを聞いてしまった江梨子なのだ。

 その話の内容は実は…とんでもないものだった。


「オイ!多恵ス-パ-建設用地から人骨が見つかった。まさかあんな立派な和尚さん家族の中に人殺しが居るとは思えないが、どう思う?」


「そうね?……でも?………戦後に男を惑わす初枝とか言う女性が………和尚さんの説法を聞いた後、行方不明になったと……聞いたことが有るわ?だから…ひょっとして………?」

 

「そっそれは?……多分違うと思うけど?……それでも…どうも……片足の無い軍人さんも……行方知れずらしいんだ?……それも……西光寺の境内によく顔を出していたらしい?」


「不吉な話ね?………そして…人骨が……和尚さん所有の土地から見付かったって………怪しいわね?………でも?そんな事口走って逆鱗に触れたら台無しだから、口をつぐんでいた方が良さそうね?」


 それでは何故人骨と分かったのか?

 

 もう10年近く経っているので、雨水や獣たちにより所々歪にはなって居るものの、

 頭蓋骨らしきものが発見されていたので、早速従兄の医師に調べて貰った。

 【骨はカルシウムである。淡水である雨は酸性でカルシウムである骨を溶かす】


 その頃はDNA鑑定が確立されていなかったので、人物特定はできなかったが、従兄の調べで人骨である事だけは分かった。


 それでも…それを警察に突き出さなかったのには理由がある。

 まさかこの町一番の権力者である、ましてや和尚さん一家が、こんな人殺しに携わって居るなど誰が想像できようか?


 そして…変な事を口走って、有り得ない汚名を掛けられた事により逆鱗に触れて、建設中止などと言われたら大損害。

 ましてや、こんな立地条件の良い場所など早々ある訳ではない。

 土地を貸さないとでも言われたら、建設を発注して来た大手ス-パ-さん側も、お店を出店が出来なくなりス-パ-側との取引きも完全に絶たれてしまう。

 

 こうして人骨発見の事は警察には通報しなかった。


 ◆▽◆

 江梨子は、両親がこっそりと話していた、まだ確定した訳でも無い重要な秘密をじわじわと山根に暴露しようと考えている。

 

 そんな事でも言わない限り、あの魅力的な小百合から自分に振り向かせる事が出来ない。そこまで追い詰められての事なのだ。

 

 人を殺めた犯罪者ともなれば、居場所も変え名前も変えて、逃亡者として隠れ忍んで生きて行かねばならなくなる。


 そんな話を山根にすれば、仮にもそうかもしれない?と言う話でも皆逃げるだろう。


 幾ら小百合を愛してるからといっても、折角北陸の雄である国立一期校、金沢大学に入学出来て人生の勝ち組になれそうだと言うのに、今までの苦労は水の泡どころか、一緒に逃亡生活を強いられる羽目になるかも知れない。

 そんな女に付いて行く男など居る筈がない。


 江梨子は、それだけ小百合に危機感を感じて、自分の心に全く余裕がない。

 それだけ山根に夢中なのだ。


 あの雨の日に抱き寄せてくれた、微かにほっぺと身体は服の上からでは有ったが完全に密着していた。

 あの日の「ぬくもり」を、あの日感じた「この人は絶対に私の者」そんな思いをゼロにする事など絶対に出来ない江梨子なのだ。


 実は…片足の無い田村殺害には、思いも寄らない人物が関わっている。

 そして…あの妖艶な男を惑わせてやまない初枝はどうなったのか?

 もうとっくの昔に亡くなってしまっているのか?












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