第9話⁂恋の行方⁈⁂


 



 山根は…その……心配そうな表情と豊満な胸元を目の前に、頭の中が混濁して小百合を助手席に強引に押し倒してキスをしてしまった。


「ヤッ止めて————ッ!こんな……こんな……こんなのは嫌よ!ワァ~~ンワァワァ~~ン」



 山根の頬を思い切り”ぺシ―ン”と叩き、オレンジに染まる夕闇の「千里浜なぎさドライブウェイ」を小百合は、泣きながら駆け出して行った。


 山根は、小百合に何とも卑劣な真似をしてしまったと後悔しきり、よくよく考えると、愛というよりあの豊満な肉体の小百合を目の前に、欲望が勝り行った行為だと気付き恥ずかしい思いで一杯なのだが、それより何より一人でこんな夕闇に放り出して、もしもの事が有ってはと心配で、慌てて小百合を追いかけた。


 辺りが薄暗くなって来た丁度19時過ぎという事もあって、キザなプレイボーイ風のサ―ファ-達がウヨウヨと海から上がって来ている。


 山根はさっきまでの欲望で支配された自分とは打って変わって(あの道行く遊び慣れたジゴロ風のケダモノ達から、何としても小百合ちゃんを守らなくては!)

そんな思いで一杯なのだ。


「小百合ちゃん危ないから~」


「もう傍に来ないで!ワァア~~~ンワァワァ~~ン」


 そしてとうとう捕まえる事が出来た山根は(獣と言われようが、怖い狼と言われようが、悪者扱いをされても何を言われても構わない、ともかくこんな夕闇の中、何が起こるか分からない、なんとしても守り通さねば!)そんな一念なのだ。


 やっと小百合を捕まえる事が出来た山根は、小百合が恐ろしい獣たちの餌食にならない様にギュッと強く抱きしめた。


「バカバカ離してよ~!離しってってば~!」


「危ないじゃないか~?こんな……暗闇で……」


 いつしか人影もまばらな暗がりに辿り着いた2人だったが、心配そうに見詰める山根は、泣きはらした小百合の涙を手で押さえて拭いてやった。


「バカ!バカ!」と泣きながらこぶしで山根を叩いてはみたものの、ギラギラ獲物を狙う卑しい眼差しに足元がひるむ思いだった小百合は、怖さと助けに来てくれた嬉しさで言葉とは裏腹に山根の胸の中に飛び込んでいる。


 どれだけ経っただろうか?見詰め合う2人と、オレンジからバイオレットに染まり行く何とも幻想的で美しい夕日の「千里浜なぎさドライブウェイ」で、2人のシルエットが重なり合い熱い口付けを交わした小百合と山根。



 ◆▽◆

 アルバイト先である「涼風」で顏を合わせる江梨子と山根なのだが、何か……最近山根が以前のような態度から一変して、シフトも一緒の日を避けているらしく一緒にならない。


 更には小百合の方も海水浴に行ったあの日「随分遅かったのね?」と尋ねてみても「……遠くまで2人で歩いていたので遅くなったのよ」その言葉の繰り返し。



 一方の江梨子と北村は長時間待たされて、海の家で焼きそばを食べたり飲み物を飲んだりして時間を潰していたが、それでも4時間弱も待たされて、とんだ海水浴日和となってビービ-不平不満を言っている。


 下心有り有りの北村では有ったが、全くもって相手にされていない。隙を見せない。そんな江梨子にイライラするのかと思いきや、全く別の感情が押し寄せて来るのだった。


 こんな自分には到底手の届かない美しい女の子を目の前に、自分の存在を、ほんの僅かでも良い、江梨子ちゃんの心の片隅に残したい思いで一杯なのだ。


 その為、折角やって来た海水浴を楽しくなかった1日にさせたくないので、必死に面白い事を言って場を盛り上げている。


 そんな涙ぐましい北村に対して、江梨子の頭の中は山根に対する熱い思いで一杯なのと、2人が急接近するのでは?と思う不安で押し潰されそうなのだ。


 こんないびつな関係の北村と江梨子なのだが、江梨子は何か……ひらめいた様子。

 一体何がひらめいたのか?


 実は…今まではどこに行くにも2人一緒だった江梨子と小百合だが、最近小百合が単独行動を取る事が増えている事に、不信を募らせている江梨子。

 更には山根とは、益々シフトがかみ合わなくなってきている。


 そこで全く興味のない北村では有ったが、小百合とも距離を置かれて山根とは、全くレストランで仕事が一緒になる事が無くなった江梨子は、いつもどんな時も気付くと自分の傍にいて、ヘラヘラ面白い事を言ってくれる北村を、案外利用価値が有るかもしれないと思い、とんでもない事を北村に頼んだ。


 それは最近小百合が単独行動が多いので、小百合を暫く見張って欲しいと言う注文を頼んだ。

 

 江梨子は小百合と山根が最近やけに自分に余所余所しいので、あの海水浴の日以降に北村に聞いたことがある。


「山根君て彼女いるの?」


「イヤ~?居ないと思うよ?」


 そこで海水浴の日に暗くなるまで帰らなかった2人の怪しい行動と、最近の2人の余所余所しい行動に何か有ってからでは遅過ぎると思い、完全に自分の奴隷と化した北村にだったら頼めると思い頼んだ。


 こうして小百合を尾行し始めた北村。

 すると1週間位経ったある日、金沢駅前にやって来た小百合は、金沢駅の待ち合わせ場所として有名な加賀人形郵太郎の前で暫く誰かを待っている。


 するとその時山根が現れて、2人は手を繋いで駅前の映画館に消えた。

 そこで慌てて北村もチケットを買って映画館に侵入した。


 あの頃は新御三家が絶大な人気を誇っていて、その中の一人が主役を張っている青春映画だった。

 映画が終わると2人は駅前からバスに乗って直ぐの、山根の住むマンションに消えていった。


 その話を聞いた江梨子は(やっぱり2人は付き合い出していたのだ!)という怒りと(山根先輩を絶対渡すものか!)ましてや最大のライバル小百合には絶対に渡したくないという思いが、沸々と沸き上がって来るのだった。


この恋の行方は思いも寄らない展開を………?



【「郵太郎」は1954(昭和29)年4月、日本国有鉄道金沢駅舎の落成を記念に設置された陶器製の人形。(昭和29)年から、ずっと金沢駅を見守ってきた重鎮であり、2015年3月9日に新幹線開業と共にリニューアルした郵太郎。北陸新幹線開業を機に脚光を浴びている。加賀人形をかたどった地域に密着しているキャラクター】













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