5 決定!

 けれどここからが、私たち……私と美鳥にとって厳しい戦いになっていく。

 次の対戦相手は――って、


「ちょっと凜々果!? 何とき飛ばしちゃってんの!?」


 手元のタブレットを使って自分の試合までシークバーの位置を動かした凜々果に、私は思わず待ったを掛けた。

 膝枕をしているから、見つめ合うのも至近距離になる。宝石のような凜々果の青い瞳の中に、変な表情の自分の顔が納まっていた。


「? あやみんちゃんたち負けたではないですの」

「う」

「また負ける試合を見るのは辛いですの」


 途中休憩を挟みつつディスカッションして、ベスト8の試合を全て観終わって今ここ。

 スクリーンに映るのは、晴れて4強入りを果たした過去の私たち。

 けれど凜々果が言うように私と美鳥のペアは試合に負けて、唯一、睦高で黒星を付けてしまったんだ。


 短期間だったとは言え、一応私も美鳥も強い三人と一緒に練習をしてきたから、中学の頃に比べると急成長は出来ているはずなんだけれど、そこはさすがにさ?

 今まで対戦した学校よりも格段に相手選手のレベルが上がっていて、どうにか県大へ行ける程度だった私たちでは全然歯が立たなかったんだよね……。


「う。で、でもっ、己を知るこそが勝利への第一歩ってよく言うじゃんっ。えいっ」

「? 一度ひひろいたことないれすの♡」


 なっ……。

 個人戦を除いて、百戦百勝の凜々果にそう言われてしまうと何も返せない。

 うう、バケモノ過ぎだよ悔しい~! って言うか、鼻をつままれて何で嬉しそうなのよこの子は!


「まぁええやん。ずっと見てるのも飽き……疲れるし、凜々果オジョーのこのゲームで最後にしようや」

「ちょっと花林? 今、飽きるって言おうとしたな!?」


 まぁでも確かにその通りではあるか。


 私は凜々果の鼻から指を放すと、エスケープエリア、さっきセバスに淹れてもらった紅茶を飲んでいた場所の背後にあるチェストへ視線を向けて、そこに置かれた西洋の絵画に描かれていそうな裸体の女神さまと思われる二人が両脇にデザインされた時計を見た。

 割り込んで来たセバスが邪魔で見えなくなったけれど、時間は確認出来た。


「ごめん。付き合わせた」

「「かまへんかまへん」」

「そうですよ。熱心なのは素晴らしいことですし、その気持ちは私もよく理解出来ますから」


 花林と茉鈴が目を線にして、手首をふにゃふにゃさせながら声を揃えた後、美鳥が優しく微笑んでそう言う。それから美鳥は「ふわぁぁ」と欠伸あくびをした。


「こほん。失礼」

「あはは、美鳥照れてる~可愛いなぁ。いいよ全然、疲れたねっ」


 私も欠伸と言うか伸びをした。

 腕だけじゃなくて、座りっぱなしだった足も伸ばしたくて膝の上を見ると、凜々果が静かに寝息を立てていた。

 大人しいと思ったら、そっか……。


「ありがとうね、凜々果。総体でも頼りにしているよ」


 みんなのお陰で団体戦は、ななななんと2位を取ることが出来た。一年生だけでこれは快挙でしょ。

 でもまだまだ通過点!

 明日から、夏の総体へ向けての強化合宿が始まる――!

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