4 不意打ち

 花林のヘアピンが、ネット下から上がる。返った。


「……っナイスおねぇ!」


 花林がスピンさせたシャトルの動きに、上手く合わせた夢見さんの一打は、これまでのぎこちなさからは想像も出来ないくらい自然で繊細に感じた。


「こら葉菜見っ、棒立ぼったちしてる場合じゃないよつぎ行ってる!」

「おねぇがそれを言う!?」


 夢見さんが返したのもヘアピン。花林のヘアピンを打ち返すためにシャトルの飛距離が伸びたが、その分クロスで戻せば、浮かずにネットすれすれで落ちて帳尻が合った。

 しかも返ったのは、花林のいる逆側の右サイドラインぎりぎりである。


 これ……私がこのクロスネットを打つと、余裕があったとしてもアウトになってしまうんだよね。ちゃんと意識してラインを狙ってるのにどうしてなんだろう……?


 守備範囲的に茉鈴がフォローした。花林は下がる。

 茉鈴はコート中央、センターライン上空にロブを飛ばす。


「や!」


 ここは葉菜見さんが返す。スマッシュだ。


「茉鈴」


 花林がフォアハンドで拾ってもいいのだけれど、リターン後の可能性を考慮してなのか、ロブを上げてからすぐに、やや前よりに下がった茉鈴がバックハンドでレシーブをする。

 利き足を軸に、小さく左足を下げてステップすると、靴底が床に擦れてキュッと鳴った。


「ぐ!」


 茉鈴の早い反応で、次の攻撃も早くなる。けれど茉鈴の球にスピードがあるため打ちにくい。

 葉菜見さんは背中を反らせたラウンドの状態で、必死にシャトルに喰らい付く。

 そして弾道に押されてしまい、スマッシュを打てずにドロップで返した葉菜見さんのショットを茉鈴はすかさず叩いた。

 だが――、夢見さんがカットインしてきた。


「ふっ」


 夢見さんが拾う。

 立ち乗りになり、むちを激しく打つジョッキーのような格好で夢見さんはレシーブした。バックハンドで取る。

 でも顔を上げた夢見さんの目が見開いてはギュッと閉じた。


「イン。6‐0シックス・ラブ


 後衛で花林が放ったのは、ショートサービスライン付近にゆっくり沈むクロスカットだった。

 カットはスイングが早く、フォームだけでは見分けが難しい。強打が来ると身構えてしまった弥生高の二人は、見事に不意を突かれたのだった。


「すまんね?」


 そう弥生高の二人へ呟いた画面の中の自分を見ながら、スマッシュだけが点を取る方法ではないんよと、花林はソファーに寝そべったまま鼻を高くした。

 その隣りで茉鈴は大袈裟に拍手をして、まるで太鼓持ちのように流石さす花林! と崇めたけれど、今のプッシュ決められなかったのはないわ~と、花林から痛いところを突かれてしまうのだった。


 今のは夢見っちのファインプレーじゃんよと、花林に掴みかかる茉鈴の言葉には納得である。

 ……にしても、コートに立つかっこいい二人は何処へやら。彼女たちの面影が一切いっさい感じられないのですけれどー。


 像みたいに大きい声を出して、猫がじゃれ合っているみたいなケンカをする花林と茉鈴を横目に、私は再び画面のコートへ意識を向けた。


 それからの試合は、夢見さんの復活によって本来の持ち味であろう仲の良い姉妹らしい連係の取れたプレーが光り、とても見応えのあるものだった。

 もちろん全国レベルの花林と茉鈴は強くて、弥生高の二人は1セットも取れずに負けてしまったのだけれど。

 それで第2ダブルスの私と美鳥はというと、最初のセットを落とすも2‐1で何とか勝ち、そして凜々果はというと、さすが。ストレート勝ち。

 というわけで私たち睦高は、順調にベスト16へと駒を進めることが出来たのだった。

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