第38話 真ちゃんはママ

 次の日の朝。


「……んんっ」


 まことは目が覚めると、天井に向かって腕をグッと伸ばした。


 今まで一番と言えるくらい、体は絶好調だった。


 宙に浮いているような軽さだ。


 もしかすると、昨日、言いたいことを人に言えたからなのかもしれない。


 こんなことなら、もっと早く話していればよかった。


  そんなことを思いながら、枕元のスマホを見た。


 時刻は、六時前。


 どうやら、アラームが鳴る前に起きたらしい。


「……ふっ、よーしっ」


 ベッドから立ち上がると、洗面所へと向かった。


 それからいつものように顔を洗い、キッチンで朝食の準備を始めた。


「うーんっ」


 ご飯は炊いてあるから、お味噌汁を作るとしよう。


 後は……あっ。


 真は冷蔵庫から、タッパーに入った肉じゃがを出した。


 昨日、香織が作ってきた肉じゃがの残りだ。


 これは、レンジでチンして食べるとしよう。


 うんうんっ、これでメニューは決まったな。


(それにしても、この肉じゃが……美味しかったなぁ……)


 正直、今まで食べた管理人さんの料理の中で一番美味しかった。


 でも、やっぱり今度、料理教室を開こう。


 そう心に決めた、真であった――。


 それから朝食が完成し、ローテーブルの上に並べた。


 炊いたご飯、豆腐のお味噌汁、肉じゃが。


 最高の朝食と言っていいのではないだろうか。


「じゃあ……いただきますっ」


 最初に、味が染み込んだじゃがいもを口に入れると、


 ピロリンッ。


「ん?」


 一旦、箸を置いてスマホを見ると、琴美からだった。


『体調はどう? ちゃんとご飯食べた?』

『ちょうど今、食べ始めたところだよ。体調の方はいつもよりいい感じかな』

『そうなんだ、よかった……』

『琴美、今日は早起きだね?』


 すると、一枚の写真が送られてきた。


 そこには、きつね色のトースト、目玉焼きとカリカリのベーコン、コーンスープが写っていた。


『どぉ!? 我ながらよくできた方だと思うんだけど!!』


 確かに、どれも美味しそうだ。でも、


『野菜のやの字もないのは、どうしてなのかな~?』


 それからちょっと間が空くと、千切りキャベツとミニトマトのサラダだけの写真が送られてきた。


『うぅぅ……』

『よくできましたっ』


 それからいくつかやり取りをして、朝食を再開したのだった。




 玄関でトントンッとローファーで叩く音が鳴った。


 戸締りはちゃんとしたし、電気も消した。


「……いってきます」


 と言って扉を開けて外に出ると、玄関の鍵を閉めて階段を下りた。


「真ちゃんっ!」


  聞いた人を元気にする明るい声。


「おはようございます、管理人さん」

「えへへっ」


 この眩しい笑顔を見れば、誰でも自然と笑みを浮かべると、僕は思っている。


 すると、


「鈴川君っ」

「よっ」

「ふわぁ……おはよー……」

「マコマコっ♪」

「ふふっ、おはよう」


 いつものみんなが集まっていた。


「お、おはようございます。どうしたんですか?」

「今日はみんなで一緒に行こうと思って♪」

「梨花ちゃんが提案してくれたんだよ」

「え、梨花先輩が?」

「エッヘンっ♪」

「それより、早く行きましょう? 遅刻するわよ」

「それもそうだな。じゃあ行くぞーっ」

「蘭、ちょっと静かにしろよ……頭に響く……ふわぁぁぁ」

「お前はいい加減、目を覚ませっ!」

「あなたたち、朝からうるさいわよ。じゃあ、香織さん行ってくるわね」

「うんっ♪ みんな、いってらっしゃい!」


『いってきますっ』


 いつものやり取りをしながら、真たちは学校へと歩き出した。




 ドキッ……ドキッ……。


「ふぅ……」


 教室の扉の前で一度深呼吸をして、真は教室に入った。


 すると、


『………………』


 教室中から一斉に視線が向けられた。


「……っ。おっ、おはよう……」


 振り絞った声で言うと、この前、唯一話しかけてくれた女子生徒が近づいてきて、


「うんっ、おはようっ」

「……っ! 樋野ひのさん……だよね……?」

「! 私の名前……」

「この前はごめんね……。僕、人見知りだから、無視しちゃって……」

「そんなこと別にいいんだよ。それより、私の名前、憶えていてくれたんだね」


 真は、コクリと頷いた。


「じゃあ、仲直り? も兼ねて、お昼一緒に食べよ?♪」

「……っ!! うんっ!」


 と言った途端。


 ドタバタと真を囲うようにクラスメイトが集まった。


 次から次へと飛んでくる質問の嵐。


「近くで見たらヤバい! 超可愛いーっ!!」

「化粧品はなに使ってるのーっ!?」

「初めて見たとき、あたし見惚れちゃった~♪」


「えーっと……」


 びっくりしすぎて、目が点になる真。


「「「「「………………」」」」」


 その様子を、扉の隙間からこっそり見守っている間々水ガールズ。(香織は除く)


 真のことが心配で、こっそり後から付いて行っていたのだ。


「よかったね、マコマコっ♪」


 五人は顔を合わせて、笑みを浮かべたのだった。

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真ちゃんはママ過ぎるオトコの娘!? 白野さーど @hakuya3rd

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