第17話 お昼休みは、みんなで一緒に

 とある日の昼休み。

 

 まこと・さくら・穂波ほなみ姉妹の四人は、屋上で昼食を囲んでいた。


 ちなみに、蘭と兎はまだ来ていない。


 ぐぅううう~~~。


 体が、空腹を満たせと言っているのだろう。


 真はレジ袋からサンドイッチと、紙パックのレモンティーを出した。


 購買を使うのは、今回が初めて。


 いつもは自分でお弁当を用意していたのだけど、梨奈りな先輩が毎回おすすめしてくれるパンがどうしても気になったため、食べてみることにしたのだ。


『これ食わなきゃ絶対損するっ!』


 と言われて気にならない人はいないはずだ。


「それ買ったんだな、美味いぞーっ。なんてったってこのあたしが言うんだから間違いないっ」


 と言って、梨奈は胸をポンっと叩いた。


「梨奈先輩が教えてくれたパンがどうしても気になって。でも、どうしてそんなに詳しいんですか?」

「ん? まあ簡単に言ったら、昔っからパンが好きだったから、かな」

「へぇー。あ、ちなみに、好きになったきっかけとかってあるんですか?」

「それは秘密っ」

「ええぇー」


 まぁ、それはまた今度聞くとして。


 じゃあ、まずはツナマヨサンドを一口……ぱくっ。


「う~んっ♪」


 玉ねぎのシャキシャの食感とマヨネーズのまろやかな味が合わさって……


「最強だろ?」

「最強です……っ」


 真と梨奈は固い握手を交わしたのだが。


(おぉ……)


 長くて細い指とスベスベの肌。


 オトコの娘、あなどれない。


「…………」

「? 先輩?」

「あああぁ~っ!! 梨奈っ、マコマコと手繋いでるーっ!」

「いいだろ別に、手を繋ぐくらい」

「そっちがその気なら…――――ギュ~~~ッ♪」

「梨花先輩っ!?」

「負けないんだからっ!」

「別に勝負してないだろ……まったく」


 困った顔でこの状況を眺めているが、真からしてみれば『助けてください』の一言だった。


「……ん?」


 真は、ふと梨奈の隣に座っているさくらを見た。


 さくらは、購買で買ったイチゴとみかんのフルーツサンドを嬉しそうに口へと運ぼうとしていたのだけど。


「……な、なに?」


 真が見ていることに気づいて、その手を止めた。


「そのフルーツサンド、美味しそうですね」

「え、う、うんっ。一番のお気に入りなんだ……っ」


 返事をするその顔は真っ赤だった。


 食べるところを見られていたことが恥ずかしかったのだろう。


「もしかして、まずいこと聞いちゃいました?」

「!? そ、そんなことない……っ!」


 そう言って、ブンブンと首を強く横に振った。


 そのせいか、プルプルしながら首を押さえていた。


「ならいいんですけど……」


 一ヶ月近く経ってわかったことと言えば、姫川先輩は、甘いもの好きで恥ずかしがりやで…………ボインっ、ドドンっ! と、いろいろなところがデカいということくらいか。


「そういえば、この前、梨奈先輩が紹介してくれましたよね」

「ん? ああぁ、ここのはフルーツとホイップクリームの相性が抜群だから。まさに王道って感じ」

「梨奈さん……」


 さくらは、徐に梨奈の手を両手で握った。


「そうですよねっ! 王道だからこそ出せる味ですよねっ!!」

「お、おぅ……」


 面食らったように、梨奈は微妙に後退あとずさる。


 姫川先輩は好きなものの話になると、少し早口になる……っと。


 忘れないように脳内のメモに書き込んでいると、


わりぃ、遅れたーっ」


 ガチャリと扉を開けて美風みかぜ先輩がやってきた。


「ランラン遅~いっ」

「ミーティングだったんだよ、部活の」


 と言って、梨花の横に座ると、袋から明太フランスなどパン四つとパックのジュースを取り出した。


 蘭先輩曰く、食堂で一人暮らしの生徒用の朝食セットを食べ、テイクアウト用のお弁当を二つ買って早弁したらしい。


 それでもお腹が空くということで、購買で買ってきたようだ。


 自炊が大の苦手の蘭にとって、食堂、購買、カップラーメンはまさに救世主なのである。


「買い過ぎじゃな~い? 太るよー?w」

「別にいいだろこれくらいっ。そう言うお前は……って、なんだそれ?」


 梨花の太ももの上には、タッパーにパンパンに詰められた千切りキャベツと木のスプーンがあった。小袋のドレッシングも忘れずに。


「キャベツだよ?」

「……あたしが聞きたいのは、なんで昼飯が千切りのキャベツだけなんだってことだよ」

「ダイエットのためだよ?」

「……その、『なに当たり前のことを聞いてくるんだ、この子は?』って顔、止めてくんねぇ?」

「顔って、どの顔ーっ?」

「……メイクでガチガチの、その顔しかねぇだろー!!」

「ふゅ~ふゅっ、ふゅ~」

「誤魔化そうとしても無駄だからなっ?」


 美風先輩と梨花先輩は、なんだかんだ言って仲がいい……っと。


「あ、梨花先輩、ダイエットするんですか?」

「うんっ、そだよ~♪」

「どうせ続く訳ないから、ほっとけ」

「続けるも~んっ」

「どうだか?」

「やればできるっ! エへへへっ♪」


 ちなみに、このダイエットはこの日で幕を閉じることを、彼女はまだ知らない。


 そんな梨花はというと、微笑みながらキャベツにドレッシングをかけて、手を合わせた。


「いっただきまーすっ」

「昼飯がキャベツだけって、お前ウサギかよw」

「――私がなにかしら?」


 ギクッ。


 ぎこちない動きで振り返ると、扉の前に兎が立っていた。


「ひぃ……っ!?」


 蘭はジト目の兎と目が合い、思わず声を上げてしまった。


「アハハハッw 『ひぃ……っ!?』だって、超ウケる~w」


 お返しとばかりに、お腹を押さえて爆笑する梨花。


「ぐっ……」


 蘭は負けず嫌いなのであった。


「はぁ。あなたたち、その元気はいつもどこから出てるのかしら?」


 と言って、兎の視線が梨花の胸へと向けられた。


「どうやら、元気の源はあそこのようね。…………チッ」


 今一瞬、舌打ちの音が聞こえたような……。


 そんな兎は、二人から離れるようにさくらの隣に座った。


「さくらの隣は落ち着くわ。安心感があって……向こうとは大違いよ」

「聞こえてるよーっ」

「聞こえてますよーっ」

「まぁいいわ。あら、鼻先にクリームが付いているわよ」

「……っ!?」


 さくらはティッシュで慌てて拭き取ると、


「あっ、ありがとうございましゅ……っ!!!」


 余程恥ずかしかったのか、噛んでしまったようだ。


「うぅ……っ」


 それも相まって、さらにボッと頬を赤く染めた。


「大丈夫ですか?」

「いつものことだから、心配しなくてもいいわ」


 そう言って、兎は自分の顔が隠れるほどの……大きなおにぎりを取り出した。


「もしかして、手作りですか?」

「ええ、そうよ。貯金も兼ねて自炊をね」

「へぇー」


 あの小さな手であの大きなおにぎりを握っていると思うと、なんというかとても微笑ましい。


「なにかしら? 言っておくけど、あなたのお願いだとしても、これはあげないわよ?」

「えっと、そのおにぎりって中になにが入ってるんですか?」

「梅干し、昆布、鰹節……」


 うんうんっ。


「玉子焼きにウインナー……」


 うん?


「ハンバーグ、から揚げ……まぁ、こんな感じよ」


 うんん? 後半からなにか急転回したような……。


「ボ、ボリュームたっぷりですね……」

「今日はこれしか食べないから、そう思って当然でしょうね」

「え、一食だけなんですか?」

「夕方から新しいイベントが始まるから、出遅れないためにね」

「イベントって、ゲームの?」

「それ以外になにがあるのかしら?」

「あ、ありませんよね……あははは……」


 ぱくっ……ぱくっ……。


 なんだろう、小動物みたいで……可愛い。


 兎がおにぎりを食べる一口は、あまりに小さかった。本人に言ったら怒られそうだから、口には出さないでおこう。


「私はリスでもなければ、ハムスターでもないわよ?」


 ギクッ。


 鬼野きのうさぎは、勘が鋭い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る