第18話 告白キターーーッ!!

 ある日の放課後。


「うーん……」


 教室を出て廊下を進む真は、腕を組んで考え事をしていた。


「あの野菜炒め……」


 この前の香織の野菜炒め(大盛り)。


 教えた通りに作ったみたいだけど……。


 食材はカチカチ、味付けはバラバラ、油でベチャベチャ……。


 レシピ、ちゃんと渡したはずなんだけどな……。


 そんなことを考えながら、昇降口へとやってきた。


 とりあえず、この後スーパーで買い物を――


「あっ、あの……っ!」


 振り返ると、そこには一人の男子生徒が立っていた。


「?」


 周りを見渡したが、他に人の姿はない。


「えっと……もしかして、僕ですか?」


 ……。


 …………。


 ………………。


 同じ頃、穂波姉妹が昇降口にやってきた。


「この後暇だし、カラオケでも行かねぇ?」

「ごめんねぇ~、わたしこれから彼氏とデートだからっ♪」

「ふーん……デッ、デート……!?」

「エヘヘヘッ♪ だから、先に『一人だけ』で帰ってね~っ」

「ッ!!? いっ、いつの間に……!?」


 双子とはいえ、妹に先を越されたという事実に、ただただ愕然がくぜんとしてしまう。


梨奈りなも早く作りなよ~♪ はじめてのカ・レ・シ♥」

「よっ、余計なお世話だっ」

「アハハハハッ♪」

「ぐっ……ん? あれって」

「なになに~?」


 梨奈が指さした方向に顔を向けると、


「あっ、マコマコだぁ〜♡ でも、一緒にいるの誰だろう?」


 真と一緒に廊下を進む男子生徒が誰なのか、梨花りかは記憶を辿った。


 元々、女子高ということもあって、女子より男子の方が圧倒的に少ないから、誰なのかはすぐにわかると思ったけど。


 すると、隣の梨奈が腕を組んで唸っていた。


「うーん。隣のクラスだったような、じゃなかったような」

「じゃあ、おないってこと?」

「たぶん」

「へぇー。あたし全然知らな~いっw」

「……あんたは少しくらい人のことを覚えたらどうなの?」

「だって、めんどくさいんだもんっ。そんなことより、あの二人行っちゃうじゃん!」


 と言うなり、梨花は後ろからこっそり二人の後を追った。


「はぁ……」


 梨花の好奇心は相変わらずだが、気になるのは自分も同じだ。


 ニヤッと笑みを浮かべて、梨奈もその後を追った。




「プンプン匂いますなぁ〜」

「禁断の匂いが」


 二人は目を合わせると、息ぴったりな動きでコクリと頷いた。


 そして素早い動きで移動すると、近くの物陰に隠れた。


 人気のない校舎裏ですることなんて、告白か、それとも…――


「ドキドキッ♪」

「しーっ。静かにしないと向こうに聞こえるだろ?」

「はぁ~いっ♪」


 それから、目の前の成り行きを興味津々な目で見つめていると、男子生徒が真に向かって頭を下げて手を差し出した。


『こっ……告白キターーーッ!!』


 なにを言わずとも、二人の心の声は完全に揃っていた。


 穂波姉妹は今日も息ピッタリだった。




「いやぁ~まさか、マコマコがねぇ~♪」


 帰り道を楽しそうにスキップしながら進む梨花。


「まぁ、あんなに顔が小さくて、料理が得意なら、狙わない男はいないな」


 梨奈は言いながら指で数えていたのだが。どうやら、真の魅力を数えるのには、片手だけでは足りないらしい。


「これでモテないわけないもんな」

「だよね~」

 

 ただ問題なのが、それを本人が自覚していないということだろう。


「あっ、そういや、デートはどうしたんだ?」

「え、なにそれ?」

「はぁ?」

「うん?」


 ブゥゥゥ〜ッ。


「おっ。はいは~いっ」

 

 梨花はスカートのポケットからスマホを出した。


「誰だろうね~、あっ、香織かおりさんだ。もしも~し、どうしたの~?」

『今、どこーっ!?』

「え? アパートの目の前――…あれ? 切れちゃった」

「なんて言ってたの?」

「さぁ? 今どこにいるのか聞いて――」


 ――ガチャリ。


 バタバタバタ……ッ!!!!!


 突然、部屋から飛び出してきた香織は、息を切らしながら、梨花の肩をガシッと掴んだ。


「ハァ……ハァ……り、梨花ちゃん!!」

「ど、どうしたの……? 部屋に『G』でも出た……?」


 珍しくあの梨花が引いていた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」

「か、香織さん……?」

「まっ、真ちゃんが告白されたって、ホント……っ!!?」

「――あれ、梨奈先輩たちも今帰りですか?」


「「あ」」


 噂をすれば、そこには、この状況を知らない真(原因を作った張本人)が立っていた。


「? 僕の顔になにか…――」

「真ちゃーーーーーんっ!!!」

「わぁっ!? どうしたんですか……って、泣いてるじゃないですか!?」


 急に抱き着かれて真が呆然としていることに気づかないまま、香織はご近所に聞こえる勢いで大泣きしていたのだった。


「うええぇぇぇーーーんっ!!!!!」

「どういうことなんですか?」


 困惑した顔の真が二人に尋ねたが、


「「あははは……」」


 微妙な反応だけが返ってきたのだった。




「僕が告白されるところを見ていたーっ!?」


 場所をなぜか真の部屋に移し、事の経緯を説明した。


「「つい、好奇心が、ねっ?」」


「息ピッタリで言われても……。と、とにかく、管理人さんはもう泣かないでくださいっ」


 と言って、今も泣き続けている香織にハンカチを渡した。


「あっ、ありがと……ブュゥゥゥゥーッ!!!」


 思いっ切り鼻をかむと少し落ち着いたのか、泣くのは止まった。だが、


「と、ところで、こっ、ここ、告白は、どう……なったの……ッ!?」


 香織は前のめりになって尋ねた。


「……聞きたいんですか?」

「うんっ!!」

「……先輩たちは、もう全部知っているんですよね?」

「もちろんっ♪」

「まぁな……」

「はぁ……」

「真ちゃん……っ!!」

「はぁ、わかりましたっ。まぁ……単刀直入に言うと……」

「言うとッ!?」

「………………断りました」


 ――――――――――――――――――――――――。


「へっ、そうなの!?」

「はい……あまり恋愛に興味がないと言いますか……」


 一瞬の静寂の後、


「よっ、よかった……」


 強張っていたのか、肩の力を緩めた香織がローテーブルの上に突っ伏した。


「どうして、香織さんがホッとしてるの?」

「え? それはもちろんっ! えーっと……」


 言われてみれば、どうしてだろう……?


「ところで、どうして香織さんがそのことを知ってたんですか?」

「ふっふっふっ。わたしが教えたからだよ~♪」

「……だと思いました」

「え、いつの間に」

「梨奈がトイレに行っている間にねっ。どんな反応が見られるか気になったからさ〜」

「私……」

「? 香織さん?」

「…………っ。は、ハンカチ洗ってくるーっ!」


 そう言って、部屋を飛び出していたのだった。


「どうしたんだろう?」




「「こっ、これは……っ」」

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