07 餘目

 どんなことでも、起こったらそれが現実だ。

 例えば、き物をはらってほしいと呼ばれる。

 いんちき霊能者と噂の女がいて、息子に何か憑いてると言う。

 その息子はもう生きてない。

 生きてる女の隣に息子の霊がいるだけだ。

 正座して。うつむいて。でも女には見えてない。女は息子が生きてると信じている。

 女の手元の茶封筒、その中の金からは息子の霊の痕跡が匂う。金の流れには人の、つまりは霊の執着がこびりつきやすく、どこからきた金かは直近のことなら割と分かる。

 女が息子から巻き上げた金だ。そして息子は死んだ。

 おれにできることはない。

 ないのだが――これがおれの余計なところで。何しろ、死んで母親に憑いた息子の霊がだったものだから。

 息子が生きてて何かに憑かれてると思い込んだ母親には嘘を言い、母親の執着のせいで離れられなくなっていた息子の霊を放した。

 おれたちが霊に対してやれるのは、こうしてどこか、別の所に移動してもらうことくらいだから。


 で、何日かしたら、時々使う店から「死んだはずのボーイの姿を見た」って話を聞いた。

 まあ、それがまた、おれの余計なところ。

 好奇心で、渋る店長に頼んで、死んだというボーイを指名してみたらね。


 来たんだよね。

 前におれが買った子。別の店だったから名前が違ってて。

 それは、あのいんちき霊能者に憑いてた息子。キリヤくんっていったかな、まあ名前は呼ばなかったけど。へたに声出して名前なんか呼んだらしてこの世に留まっちゃうからね。


「せっかく会えたから確認するけど、君はあれでよかった?」


 ネットニュースを見せたあとでそうくと、ぼんやりした様子で彼は答えた。



『あなたがしてくれることなら何でも嬉しいよ。

 いまの僕はあなたのものだから』



 ボーイの彼だけがそこにはいて、でもおれは彼の源氏名をもう覚えていなかった。

 声のあとには、折れ曲がった地元銀行の封筒が一枚。

 成仏したのかどうか知らないが、それきり彼らしい霊の話は聞かない。






〈了〉

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僕はあなたのものだから 鍋島小骨 @alphecca_

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