05 指名

 僕は普段通り出勤し、お茶を引く。店を変わるか、と店長に言われたのがいつだったっけ。別の好みのお客さんならいけるかも、って言うけど、それって多分、縛られたりするやつだと思う。

 ここんとこ、お母さんがいないからお金を取られない。

 久し振りに、お客さんに呼ばれる。

 誰だかわからない。僕はから。

 誰でも同じだ。見えなくてもいい。商品は、僕が人を見分ける力じゃなくて、僕の身体とかネコとしての態度だし、相手のしてほしそうなことをして交換にお金をもらうだけ。もらったお金の半分が僕の取り分で、それはお母さんのお金になる。

 でも、今はお母さんがいないからお金を取られない。




「ああ、君、ほんとにまだいるんだ」


 誰だっけ。前にも来たお客さん? 僕は人の顔がわからない。指名されたんだろうか。リピーターは珍しい。

 声にすこし、覚えがある。


「ずっとここにいるの? 家には?」


 そういえば、前に帰ったのはいつだったかな。


「まあ帰らないほうがいいかな。事故物件になったしね。ねえ、このニュース見た?」


 ベッドに横になって、お客さんは低い、低い声でしゃべる。

 そして僕に、こう聞いた。



「せっかく会えたから確認するけど、君はあれでよかった?」





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