第4話 呪い

理事長をぶん殴る。

死なない程度に手加減しつつ。

何度も何度も。


そして半死半生になった所で回復魔法を使い、一瞬で全快させる。


そして再び殴って半殺しに。


「ひぃぃ……もう許してくれぇ。何でも言う事を聞きますから……もう二度と、貴方様に逆らいませんのでぇ……」


3回ぐらい繰り返した所で、理事長が泣きを入れてくる。

最初は「私に手を出せば、ただでは済まない事になるぞ!」とか言っていたが、たった3回で意見を変えやがった。

根性のない奴だ。


「口先だけの言葉を俺が信じるとでも?お前らは嘘で俺に罪を着せようとしたんだぞ?」


誘拐に、冤罪を押し付けての終身刑。

正直、やられた事を考えたら殺してもお釣りがくるレベルだ。


「う……うぅ、許してください」


とは言え、流石に殺すと面倒な事になるのは目に見えていた。

だからと言って、これで解放は流石にやった事に対して罰が軽すぎる。


……確か、神から貰った能力の中に呪いがあったよな。


俺は自分の中にある可能性。

チート能力を、意識を自分に集中して確認する。


よし、ある。

それも便利なのが。


「じゃあ今からあんたに誓約の呪いをかけるから、心の底から俺に誓え。因みに、口先だけだと直ぐに分るからな」


「わ、分かりました……」


俺は理事長の怪我を魔法で回復してやる。

使った回復魔法には、ボロボロになった服なんかの身に着けている物を修復する効果が含まれているので、其方も綺麗に元通りだ。


「何があろうと俺には逆らわず、敵対しない。これを破ったら、お前は地獄の苦しみで藻掻き死ぬ。誓約するか?」


俺は理事長に呪いをかけた。

この呪いの効果は、約束を破ったら苦しんで死ぬという至ってシンプルな物だ。

その効果は強力で、一度掛かれば俺以外が解除するのは難しい。


まあ強力な分、無条件でかける事は出来ないが……


制限として、呪いの完成には心の底から相手に行動の順守を誓わせる必要があった。


「命を失うなんて……」


理事長があからさまに嫌がる。

命を理不尽に握られるのが嫌な様だ。

やりたい放題やっておいて、全くふざけた奴である。


「じゃあ、今ここで死ぬか?」


リスクの軽減というメリットがあるからこそ、殺さず呪いで勘弁してやろうというのだ。

なのに命を懸ける絶対の約束が出来ないというのなら、この爺を生かしておく理由が俺にはない。


「わ……分かりました。誓約します」


理事長が誓った瞬間、かけた呪いが弾かれた。

どうやら守る気はない様だ。

きっと「何らかの方法で呪いを解いてやる」って考えていたに違いない。


腹が立ったので、顔面をぶん殴ってやる。


「ぶげっ!?」


吹っ飛んだ奴の襟首を掴み、片手で持ち上げる。


「嘘を吐くなんていい度胸だ。余程死にたいらしいな……」


「ひ、ひぃぃぃぃ……誓います!誓いますから!どうか許してください!!」


「俺は三度もチャンスをやる程甘くない。次に嘘を言ったら、その時点で殺す。いいな」


「はいぃぃぃぃ……」


泣きわめく理事長に、再度呪いをかけた。

今度はちゃんと心の底から誓った様で、無事効果が発動する。


「さて、次はお前らだが……」


理事長が終わったので、部屋の隅で固まっている連中の方を見た。

ガタガタと体を震えさせており、中には失禁している奴もいる。


まあ主犯じゃないし、こいつらには呪いだけでいいか。

理事長をボコってある程度すっきりしたしな。


「おい。呪いを受けるのと死ぬの。どっちがいい?」


「死にたくありません。呪いで……」


「の、呪いで……」


「俺も……」


全員一致で呪いに決まる。

理事長がしこたま酷い目に合っていたのを、こいつらは目の当たりにしている訳だからな。

脅し効果としては抜群である。


しかしこの呪いは便利だ。

以前は相手の意志を徹底的にへし折る方向でボコボコにする必要があったが、これならサクッと終わる。

裏切られる心配もないし。


俺は気絶してる女以外に制約の呪いをかけ、腕を握りつぶした奴らを回復をしてやる。


「あの女が目を覚ましたら、誤解だったから話し合いで解決したって事にしとけ」


他の奴らにそう命じて、俺は倒れている女のダメージを回復した。

彼女は悪意が無かったので、呪いは勘弁しておいてやる。

別に俺は他人を支配したい訳じゃないからな。


「言うまでもないとは思うけど、此処であった事は一切口外するなよ」


暴力で理事長達を制圧したなんて噂が流れたら、学園の生徒達をビビらせるだけだからな。


いや、待てよ。

強いアピールした方がモテるかも。


……モテたくて強いアピールとか、超カッコ悪いよな。

辞めとこう。


「じゃあ2度と俺に余計な干渉してくるなよ」


そう告げ、俺は結界による封印を解いて理事長室から出た。

ドアの外に警備員が大量に詰めかけており、一瞬取り囲まれるが、理事長の「ちょっとした警備訓練」の一言で彼らは解散する。

その際彼らは文句ひとつ言わなかったので、理事長の権限はかなり強い様だ。


……まあでっち上げの理由とはいえ、勇者に終身刑言い渡す位だからな。


そう考えると、やはり殺さなかったのは正解だったと言える。

もし始末していたら、絶対面倒な事になっていただろう。

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