第5話 どこの世界でも

虐めという物は、何処の世界にでもある物だ。

それが勇者の花嫁候補を集めた才色兼備の集団であっても、である。


◇◆◇◆◇◆◇


異世界に召喚され、聖愛魔導学園ラブマジシャンズアカデミーに通うようになってから3週間ほどたつ。

俺は相変わらずボッチ街道まっしぐらだ。

取り敢えず、理事長室での一件は特に噂になっていない。


今日は天気がいい。

なのでさっさと部屋に戻ってネット三昧ではなく、外でも散歩しようと思い立つ。


え?

なんでネットが出来るのかだって?


流石に元の世界に帰る事は出来ないが、世界に小さな穴をあけてスマホを持って来る事ぐらいなら、今の魔改造された俺なら楽勝だった。

更にその明けた穴から、wifiも引っ張って来ている。


ま、そんな事はどうでもいいだろう。


放課後、学園内をうろついて回っていると――


「調子に乗らない事ね」


学園の裏手にある大きな湖のほとり辺りで、そんな言葉が聞こえてきた。

きな臭いなと思い、俺は声の方へと向かう。


「虐めか……こんな場所でもあるのかよ」


黒髪で長髪の女生徒を、5人の女生徒が取り囲む姿が視界に入る。

囲まれている女の子は俯いており、虐めのリーダーと思しき金髪縦ロールがその頬を扇子の様な物で叩いた。

大した威力ではないので、まあ威嚇的な物だろう。


取り敢えず、俺はその集団に迷わず近づく。

虐めとか見てて胸糞悪いからな。

必要ならぶん殴って止めるまでだ。


「おい、何やってんだ?」


ある程度近づいた所で声をかけた。

俺に全く気付いていなかったのか、全員が驚いた顔で一斉に此方に振り向く。


「あなたは……ふん、何をしているかなんて私達の自由でしょ。一々拘らないでくれるかしら、勇者様」


金髪縦ロールが俺が誰だか気づき、馬鹿にしたように鼻で笑う。

イラっとしたので、取りあえずこいつはぶん殴ると決める。


「何をするかお前らは自由なのに、俺が自由にお前らに関わるのはダメってか?」


「ええ、そうよ。他の勇者様方ならいざ知らず、貴方の様な出来損ないにその権利はありませんわ」


縦ロールの言葉に、取り巻きっぽい女どもがクスクスと笑う。

こんな場所で集団で虐めをするだけあって、全員性格が腐っている様だ。


「そうか、じゃあしょうがない。どっちが本当の出来損ないか勝負だ」


取り敢えず、一気に間合いを詰めて油断しきっている金髪縦ロールの顔面に拳を叩き込む。


不意打ち?

相手から喧嘩を吹っ掛けて来たんだから、その時点でゴーファイトだろ?


女は盛大に吹き飛び、ドバンと大きな音を立てて背後の湖に落下する。


一見強く殴り過ぎの様にも思えるが、そんな事はない。

殴る前にちゃんと相手の戦闘力は確認してある。

300万だ。


理事長室で俺を取り押さえようとした二人や、外の警備達は200万程だった。

そう考えると、金髪縦ロールはそこそこ強い方に分類される。

あの位じゃ死にはしないだろう。


「ベべべ!ベヒモス様!!」


何が起こったのか理解できなかったのだろう。

周囲の女生徒達は暫く固まっていたが、女の体が湖面に浮いてきた所で慌てて全員飛び込んで行く。

あ、虐められてた子は別な。


「様付けって事は、どっか良い所のお嬢様だった訳か」


他の女子は、その取り巻きって感じだな。

彼女達は、鼻が潰れて血をダラダラ流している金髪縦ロール――ベヒモスを、びしょ濡れになりながら引き上げてきた。


「ベヒモス様!今回復を――ぷげぇっ!?」


女生徒の一人が魔法を使って、寝かせたベヒモスのダメージを回復しようとする。

俺はそいつの顔面目掛け、蹴りを放つ。

当然回復などさせない。


因みに、今の蹴りはかなり弱めにしておいた。

女の戦闘力は100万もなかったからだ。

金髪縦ロールと同じレベルで攻撃していたら、確実に死んでただろうからな。


他の取り巻きも、だいたい100万前後だ。


「こんな……こんな真似をして……許されると思ってるの!!」


「誰に対して、何を許して貰うんだ?もしかして理事長か?なら問題ないぞ」


この学園のトップである理事長は俺の味方げぼくだからな。

何をしても許してくれるだろう。


ま、許してくれなくても気にはしないが。

あいつが死ぬだけだし。


「ふざけないで!ベヒモス様は王国4大家門、ゲンブー家の御令嬢なのよ!こんな真似をして!ただじゃすまないわよ!!」


4大家門か。

確か授業で名前が出てたな。

地水火風の属性を司る、この国――スタリオン王国建国からの名門だっけか。


さぞすごい権力を持ってるんだろうが、俺の知ったこっちゃねぇ。

何かあっても戦闘力10億なら切り抜けられるだろう。

なんせ、Aランク判定の勇者ですら2000万程度だった訳だしな。


ま、仮にどうにもならかったとしても行動を翻す気はないが。

相手の強弱なんて関係ない。

理不尽や悪意敵意には、相応の返礼で答えるのが俺の流儀だ。


まあそんな無茶な性格だからこそ、両親は俺にチート能力が行く事を願った訳だが。


「いくら勇者だろうとあんたはもう終わり――ぎゅぁっ!?」


ギャーギャー喚く女生徒の顎を、俺は爪先で蹴り上げる。

そしてそのまま踵落としを、顎が跳ね上がって上を向いている女の顔面目掛けて叩きつけた。

女生徒はそのまま地面に大の字に転がり、ぴくぴく体を痙攣させる。


「ひぃぃぃぃ!!」


俺に脅しはなしは通じず、そして一方的に蹂躙される。

それを理解した女生徒の一人が、恐怖から悲鳴を上げて逃げ出そうとする。


が――


「おいおい、どこ行くんだ?」


もちろん逃がす訳もない。

ちゃんとお仕置きしとかんとな。


俺は逃げ出そうとした女生徒の後頭部をがっちりと掴み、その動きを制する。


「痛い!放して!!」


「ああ、言われなくても直ぐに離すさ」


長々と掴んでいるつもりはない。

俺は暴れる女生徒の顔面を地面に叩きつけた。

良い夢見ろよ。


「さて、最後はお前だな」


「なんでこんな事を……私達が何をしたっていうの?」


女生徒がガタガタ震えながら聞いて来る。

自分達がぶん殴られた理由が分かっていない様だ。


「まず第一に、虐めが不快だから。見てて気分が悪い。第二に、ベヒモスって女に喧嘩を売られたから。以上だ。理解できたか?じゃあ覚悟しろよ」


「ひっ……ま、待って!私はベヒモス様に命令されてるだけなの!彼女には逆らえないから!本当は虐めなんてしたくなかったのよ!!勇者様に喧嘩を売る気だって、そんなのベヒモス様が勝手にやった事だし……だから!」


最後の女生徒が、涙ながらに訴えかけて来る。

4大家門のお嬢様には、立場的に逆らえないポジションなのだろう。

吹っ飛んだベヒモスを助けるため、迷わず湖に飛び込んだぐらいだしな。


「それは災難だったな」


「そう!災難なのよ!」


「じゃあこれから起こる事も、災難と思って諦めてくれ」


が、それはそれ。

これはこれ。

俺は女生徒の顔面に容赦なく蹴りをぶちかます。


「ぺぎゃあっ!」


まあだが、これは優しさでもある。

他の奴らが怪我してるのに彼女だけ無傷だった場合、周囲がどう思う事か。

そう考えると、仲間とそろっておねんねした方が良いに決まっている。


因みに、全員顔を攻撃して分からせた訳だが……


もちろん意図的だ。

女は顔面を攻撃されるのを嫌うからな。

女の心を折るには顔を狙うに限る。


まあこの世界には回復魔法があって傷は残らないので、元の世界程の効果はないだろうが。


「終了っと」


「……ありがとうございました。私はこれで」


虐められていた女生徒が俺に頭を下げる。

そして何事もなかった様に、その場を去って行った。


「随分とクールな奴だな」


助けてやった場合、大抵の奴は怯えて話にならない状態になる。

何せ目の前で、虐めてた奴を完膚なきまでにボコボコにする訳だからな。

虐められてる様な奴からすれば、俺も完全に恐怖の対象でしかないのだ。


「ほっといても、自分でどうにか出来たって感じだな……ま、どうでもいいか」


虐めの被害者を助けるというよりかは、単に見てて不快だったからという理由の方が強い。

だから本人が自力でどうにか出来たかどうかなど、俺にはどうでもいい事だ。


「さて、散歩続けるか」


ぶちのめした女生徒達に呪いをかけようかとも思ったが、止めておく。

理事長達の様に、俺に対して明確な悪意で攻撃してきた訳じゃないからな。

そこまでする必要はないだろう。


まあここから先、何かして来る様なら容赦しないが。

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