第3話 もう遅い

理事長の言葉に、ごつめの二人が立ち上がって俺の元へとやって来る。


普通に考えたら、勇者ってのは超強い物だ。

だが俺のランクはEと出ている。

その事から、おっさん二人で取り押さえられると判断した様だ。


鑑定で確認してみると、二人の戦闘力は200万前後となっていた。

学園にいる他の勇者と比べるとあれだが、普通の人間としては相当強い方なんだろうな。

きっと。


まあ俺の500分の1以下だが。


「立て!」


男の一人が、俺の肩を掴んで無理やり立たそうとする。

だが当然、俺はその程度ではビクともしない。

500倍だし。


「なんだ!?動かん!?」


「5秒だけ時間をやる。それまでに離さないなら、地獄を見るぞ?」


「戯言を!おい!手伝え!」


「ああ」


もう一人の男も、俺の体に手をまわして来た。

だがそんな程度で500倍強い俺が動く訳もない。

蟻が巨象を持ち上げるようとする様なもんだ。


「ぐっ!こいつ!」


「5、4、3……」


全く微動だにしない俺に、男達は焦りを見せる。

俺はそんな様子なんて気にする事なく、カウントを進めて行く。


「2、1……」


「くそっ!立てと言っているだろうが!」


動かない俺に業を煮やしたのか、男の一人が殴りつけて来た。

俺はそれを片手で軽く受け止める。


まったく衝撃を感じない。

直撃しても、こりゃダメージ0だな。

500倍差はやはりデカい。


「0」


そしてカウント0と同時に、その拳を握りつぶしてやった。

べきょぐきょと不快な音が響き、拳は原型を留めない程ぐちゃぐちゃになってしまう。


結構軽めでやったんだが……


人間が蝶の羽を無造作につまむと、ボロボロになってしまうのと同じ様な感じだな。

力加減が難しい。


「ぎゃあああぁぁぁぁ!」


男はミンチになって血を吹き出す手を押さえ、その場に転がる。

俺は自分の体を掴んでいるもう一人の男の手を掴み、それも軽く握り潰してやった。


「ひぎゃあああああ!!」


そいつもその場に倒れる。

だから離せっつったのにな。


取り敢えず二人の手をミンチにしたお陰で、人を壊す際の力の加減は大体つかめたな。


「き、貴様!なんて真似を!!」


「そりゃ、俺の台詞だと思うんだけど?」


理事長が怒鳴るが、俺はやられたからやり返しただけだ。

いや、まだ全然やり返してはいないか。

この二人は所詮一部だし。


「今すぐ警備を寄越せ!」


理事長が内線?を使って警備を呼ぶ。

剣と魔法のある世界だが、こういった機器も普通にある。

俺の部屋には全自動の風呂もあるしな。


魔法と科学の融合。

こういうのを良い所取りって言うのだろう。


まあいろんな世界から勇者を召喚しているみたいだし、そういう発展をしていてもおかしくは無いか。


「結界」


俺は理事長室に結界を張る。

結界を張るのは初めてだが、上手く行った手応えはあった。

流石神様のくれたチートだけはある。


結界を張ったのは、外から人が入れない様にするためだ。


ここに来る奴等全員ぶちのめす事も造作ないとは思うが、呼び出された警備の人間は自分の仕事をしてるだけだからな。

そいつらに怪我をさせるのは好ましくない。

俺がぶちのめしたいのは、俺の事を嵌めようとした屑共だけだ。


「き、貴様何をした!?」


俺が結界を張った事に理事長は気付いた様だ。

確か賢者って呼ばれてるんだっけか。

この爺。


「余計な人間を巻き込む気はないからな。結界でここを閉鎖しただけだ」


「な……」


結界で閉鎖したという言葉に、理事長やそれ以外のやつらが絶句する。


「Eランクの勇者如きに、何故そんな真似が……」


「細かい事は気にすんなよ。まあそんな事より――」


俺はにっこりと笑顔で席から立ち上がる。

すると、理事長が素早く魔法を放ってきた。


理事長の戦闘力は400万程。

この中だと一番高い。

が、それでも俺の250分の1以下だ。


飛んで来た雷の魔法を、俺は片手で軽く叩く。

『ぱぁん』という大きな音と共に、魔法は破裂四散して消滅する。


「そんな……私のライトニングが片手で……」


「俺はやられた事は絶対にやり返す質だから、覚悟しろよ」


勝手に召喚しておいて、役に立ちそうにないから言いがかりをつけて終身刑まで言い渡してるんだ。

流石にそこまでふざけた事をされたら、殴って済ますなんて軽いお灸で終わらせるつもりはない。


少なくともトップである理事長には、それ相応の報復を受けて貰う。


「やめなさい!これ以上好き勝手はさせないわ!」


理事長の方へと行こうとすると、さっきの女性が俺の前に立ちはだかって来た。

他の奴らはビビッて動けないってのに、勇敢だなと感心する。

正義感の強い人物の様なので、この人はやはり直接かかわっていないのだと俺は確信する。


「こっちにやりたい放題やっておいて、自分達にはやり返すななんて通じねぇよ」


「何を言ってるの!貴方が勇者として相応しくない振る舞いを行うから!」


「あんたは女生徒から話を聞いたのか?俺が何かをしたかって?」


「私は聞いていないわ。でも、他の教員がたが言ってるんだから」


「つまり、自分で確認してないと?」


「それは……そうだけど」


俺の言葉に女性がひるむ。

指摘されて、少し後ろ暗い気持ちにでもなったのだろう。


「ひょっとして、この世界は言った者勝ちなのか。誰誰が言ったから、はい有罪。的な」


「そ、そんな訳ないでしょ!」


「でも今、それが俺の身に起こってる訳だが?証拠は発言だけ。理事長の指示で俺は生涯禁固。あんたの主張は信憑性皆無だぞ」


勝手に異世界から召喚ゆうかい

挙句罪をでっちあげて、人を牢獄にぶち込む。

俺にはここが法なんて存在しない、修羅の国と言われた方がよっぽど納得出来る。


「確かに、今回の事は軽率だったと認めるわ。ごめんなさい。今からちゃんと証拠を精査するから――」


「必要ないぞ?」


「え!?」


女性が自分の非を認めて謝って来るが、それは無意味な行動である。

何故なら……


報復はもう始まっているのだから。


「俺に力があったから、あんたは反省できた。だが、もし弱かったら?大した証拠もなく、俺は終身刑になってただろう。それを謝ったらなかった事になるなんて、本気で思ってるのか?」


「それは……」


証拠が不十分での刑の執行。

彼女もそれに賛同している。

人の一生を左右するような決断を適当にしておいて、今更話し合いなんて通る訳もない。

まあ俺を嵌める意図が無かった様だから、他の奴より軽めで行くが。


「責任はとってもらう。俺流でな」


「ぷぎゃっ!」


俺は拳を握り、女の顔面に叩き込んだ。

彼女は勢いよく吹っ飛び、地面に派手にひっくり返って気絶する。


その鼻はひしゃげて大量に血が垂れているが、死んではいない。

ちゃんと大怪我しない様には加減している。


「さて、次はアンタらの番だ」


俺は恐怖で固まっている奴らへの報復を始める。

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