第6話
「これで、20本目と」
僕は小さなガラスの容器に封をして、同じ容器が並ぶテーブルに置いた。両手を伸ばして背伸びをしたあと、テーブル横に置いてある仕切りのついた木箱を持ち、容器の横に置いた。一本一本を丁寧に確認しながら箱の中に入れていく。すべて入れ終えた僕は、ふうと一つため息をつき、窓の外を眺めながら、ふと数日前のことを思い出す。
僕達がジゴセググと対峙してから五日が経過した。にもかかわらず、ギルドの調査隊は未だにジゴセググの情報を得られていないことをブレンダさんは話してくれた。大型の禁竜が食事をした形跡を発見したらしいが、それがジゴセググのものかは不明らしく、それより不安になることをブレンダさんは言っていた。
「食事をした形跡の個所が少ないんです……。もう五日も経過しているのに……」
ギルドが発見した食事の形跡場所は一か所のみ。食事の量も、大型の草食獣を一体食べたのみらしい。そう、それは明らかな異常事態なのだ。
「それは、身ごもった禁竜の食事量じゃないですね」
「ええ、少なすぎます。身ごもっているのならば、もっと食べてもいいはずです。食事の回数も、妊娠時より少なすぎると聞いていますわ」
「という事は、僕達の考えの一つ目は否定されましたね……」
「やべえな……。マジで俺とナリオの予想が当たってるんじゃねえか」
ルーマの言葉を思い出す。僕たちの予想。ジゴセググはどこかから逃げている最中で、休息のためにニール平原に寄ったにすぎず、ジゴセググはすでにもうニール平原には存在せず別の場所に行ってしまった。もし本当に当たっていたとしたら、ジゴセググが逃げる原因となった生物が、ここガルイダの近くにいる可能性も出てくる。もしかしたらそれは第一級禁竜、もしかしたらそれ以上の存在であるかもしれない。
「いや、決めつけはよくないか」
あくまでもまだ、可能性の域を出ない。もしかしたらギルドの調査でジゴセググの痕跡が見つかるかもしれない。もしかしたら、ジゴセググが逃げる原因となった環境の変化が起きたにもかかわらず、ギルドからの報告がまだ上がっていないだけかもしれない。むしろその可能性の方が高いのだ。まだ悲観するような事態じゃない。
「さてと、これを商会へ持っていこう」
考えを切り替えた僕はそう言って、木箱を持ち上げたのだった。
昼下がり、ナネテブ・ワルの一階は騒がしいほどの賑わいを見せる店内の中、忙しそうに動き回るカーノさんと、ひっきりなしに料理を作っているドイトンさんの姿があった。僕は席に座る人々に木箱をぶつけないように避けながら、ドイトンさんのいるカウンターへ向かう。カウンターの空いている場所に木箱を置いて一休みをする僕にドイトンさんは気が付き、そして振り返って。
「どうした?」
「ああ、ドイトンさん。お疲れ様です。作ったポーションを商会に売りに行こうと思いまして」
「そうか。すまんな、構えなくて」
「いやいや、そんなことは。すごい人気ですね」
僕は改めて、店内にいる人の多さを見てそう言った。
「開店したばかりだからな。この辺りじゃ飯屋はないらしいから、なおさら昼時は混む」
つい先日のこと。開店の準備が整ったドイトンさんとカーノさんは、昨日の昼にお店をオープンした。お店の名前は、前店の名前のままナネテブ・ワルとした。ドイトンさんは小人の食器と言う名前が気に入ったらしく、カーノさんにいたっては。
「名前が可愛いじゃないー。だから採用」
とのこと。
今日でお店を開いて二日目だけど、お店の方はかなり繁盛している。昨日は昼と夜の両方で店内の椅子が全て埋まり、かつ人の波も途切れることがなかった。特に昨日の夜は混み具合が尋常じゃないほど多く、ドイトンさんから手伝いを頼まれ臨時のウェイターをしていた。
今は昨日ほどの混雑はないが、それでもかなりの賑わいを見せている。
「へえ、そうなんですね」
僕はドイトンさんにそう返すと。
「まあ、うれしい悲鳴という奴だ」
少し疲れを見せながらも無表情でドイトンさんは答えていた。
「ちなみにナリオ」
「何ですか?」
「商会に行くと言っていたが、忙しいのか?」
「え、まあぼちぼちですね。帰りにギルドにも寄ろうと思ってるので」
「それは、かなり時間が掛かるのか?」
「え?いやまあ、商会はポーションを鑑定して貰わなきゃいけませんし、ギルドはクランの書類が届いていれば、それなりに時間は掛かると思いますよ?」
「夜まで掛かるか?」
「はい?」
「カーノがな、昨日の疲労が抜けていないと言ってるんだ」
「はい。あ、待ってください。何かいやな予感が……」
「今日も手伝いを頼む」
「ええぇ……」
「もちろん給料は出す」
「いや、流石に僕も疲れが溜まると……」
「昨日の分よりも多めに出すぞ?」
「任せてください全力で夜までに帰ってきますから!」
レンガ作りの二階立ての頑丈な建物。大きな入り口では、数台の荷台車が荷下ろしをしている最中で、男女合わせて五人程で横に並び、手渡しを繰り返しながら荷台の木箱を店内に運んでいたり、逆に荷台へと木箱を運ぶ恰幅の良い男性がいたりと、かなりの賑わいを見せていた。僕は入り口で作業をする人達の邪魔にならないように避けながら。建物の入り口を目指して。
「失礼しまーす……」
そう小さく囁くように言いながら、入り口からお邪魔をする。建物の中も人が多く、商談を行なう人や荷物を運ぶ人など、働く人は皆、忙しそうである。僕は建物の中にある受付のカウンターに向かって歩き。
「すいませーん……」
「はいはいはいはい。お待ちくだされお待ちくだされ」
カウンターから、忙しそうな声が聞こえる。声がしてから数刻たって。
「はいはいどちら様で……。おお、ナリオ氏ですかな」
まるまると体格の良い体つきの男性、来ている商談の制服はぴちぴちに張っているが、動くには問題なさそう。横に長い楕円のような丸坊主の頭に丸眼鏡と大きな目、初対面時のインパクトがすごかったのを覚えている。
「こんにちは。ゲマイさん」
僕は商会の職員であるゲマイさんに向かって挨拶をすると。
「ええ、こんにちはこんにちは。本日はどうされましたかな?」
メガネをくいと上げ、ゲマイさんは半笑いで返してくれた。
「調合したポーションを買い取っていただこうと思いまして」
「おお、了解ですぞ。今すぐに部屋に案内しますからして」
分かりました。と僕が返事をする前に、ゲマイさんは素早い動きで一冊の本を手に持ったと思ったら、無駄な動きをせず受付カウンターから出てきて、僕の前へと現れた。
「ささ、向かいますかな!」
「早っ!えと、あ、はい……」
呆気にとられた僕は、ゲマイさんと一緒に別室へと移動をした。
商会。正式名所は商業者連合会といい、その名の通り商業をする者達が作った連合組織となっている。物資の公正なる供給と流通を行なう事を目的として、商業を行なう商人のほぼ全てが加盟をしている。ここには商品を自分の店で販売したい店商人や、商品を店で取り扱って欲しい職人が出入りを行なう。商会で商品の売買を行なう為には、必ず商会に登録しなければいけない。理由としては、商品の安全性の確保のためてあるが、しかしこれは売買する時に大きな利点を生むのである。
商会から商品を買い取る側の利点しては、取り扱う商品の安全性と実物の保証を確保出来ることにある。商品は全て商会へと集まり、そこで検査を受けてから商人へと供給されるため、まがい物を売りつけられる心配は無くなるのだ。そして店商人は消費者に安全と信頼があることを堂々と伝えられる。
逆に僕のように商会へ商品を売りに来る側は、売りたい商品に欠陥や間違いがないことの証明を貰えると言う利点がある。これは無名の売り手にとってはチャンスであり、自身が作成した商品を世に売り出せるきっかけにつながる。また、有名な売り手は商品の証明が自身の商品のクオリティの高さを表わすブランドにもなる。どちらにせよ売り手にとって『商会が買い取った』という事実は、自身の商品にこれ以上にない程の証明を受けた事になる。
「さあさあさあさあ。ナリオ氏は何を持ち込まれたのですかな?」
長方形のテーブルに六席の椅子のシンプルな部屋。照らす明かりも一般家庭で使われている魔法石と変わらない大きさ。家具はなく、唯一の装飾品赤い絨毯ぐらいな部屋に案内された僕は、対面に座るゲマイさんにそう聞かれ。
「あ、えと。ポーションを二十本です」
持ってきた木箱の中身をゲマイさんに見せた。
「ほうほうほう。ポーションを二十本ですかな」
「はい。十八本を買取り、二本を試験用でお願いします」
「おお、了解ですぞ。試験用はこちらで選ばしてもらいますが、構いませんかな?」
「はい、大丈夫です」
「そうしたら……。これと、これを選びますかな」
ゲマイさんは木箱の右角近くと真ん中にあるポーションを手に取り、自身の目の前に置いた。持ってきた本の目次を開き項目を確認したあと、目的のページを開き。
「さてナリオ氏。今から選定を行いますぞ。まず承認をしますからに。あなたが持ってきたポーションの等級と順位をお教え願いますかな?」
「はい。僕が持ってきたのは下級上位ポーションです」
「分かりましたぞ。それでは今から判定に移りますかな」
そう言ってゲマイさんは僕が作ったポーションを手に取り、開いた本の上にかけた。
選定。
商会が売り手から商品を買い取る際、商品の品質を確認を行う。選定は売り手が商品の品質を宣言し、商会が宣言された品質に釣り合うかどうかを見極めるのだ。品質が宣言よりも下回れば、そこで取引は終了。商品は払い下げとなる。品質と宣言の差が大きければ大きい程、売り手は商会に悪印象を持たれてしまう。最悪の場合、出入り禁止を通告される可能性もある程だ。逆に品質が宣言よりも上回った場合は、売り手の宣言通りの品質で買い取る事となる。仮に中級中位のポーションに対して、下級下位ポーションと宣言してしまうと、そのポーションの価値は下級下位ポーションとなってしまう。売り手にとって、宣言は商品の価値を決める重要なファクターなのだ。
本のページ、ポーション欄の下級上位の欄が垂らした部分からうっすらと光り、四角の隅にまで広がっていく。
「一本目は合格ですな」
綺麗な布で垂らしたポーションを拭きながら、ゲマイさんはそう言った。
「では続いて、二本目を確認しますぞ」
続けて、取り出したもう一つのポーションも、一本目同様に本へと一滴垂らした。本は先程と同様にうっすらと光り、隅まで広がる。
「二本目も合格ですな。では商会職員ゲマイが、ナリオ氏が持ち込んだポーション十八本を下級上位と承認いたしますぞ」
「ありがとうございます」
僕はそう言ってお辞儀をすると、ふう、と安堵のため息を着いた。
「やや?どうかしましたかな、ナリオ氏」
「え?ああ。ポーションが売れたことに安堵しまして」
「ややや、そんなことですかな。安心してくだされ。これだけの品なら、我々商会が買い取らないわけがありませんからな。しかしながら、うーん……」
顎に右手をあて、考え込むゲマイさん。
「ナリオ氏。こちらのポーションですが、もう一つ高いグレードでも良かったんじゃありませんかな?」
「え、そうですか?」
「魔素を見る限り、中級下位でも通用すると思われますぞ?」
「えっと、ちょっと見せてください」
僕はそう言って、右手で円を作り、ポーションを覗き込む。ポーションの魔素は青色で、自宅で確認したときと変わりない。
「うーん、どうでしょうか?僕も中級下位のグレード確認まではしてないですが、たぶん魔素がギリギリ足りないような気がします」
「そうですかな?中級下位でもいけると思いますがな。なればいま、確認しますかな?そうすれば我々も、中級下位ポーションとして買い取りますぞ」
「え、いやいや。大丈夫ですよ。もともと下級上位で売ることが目的でしたから」
「はあ、なんとまあ。ナリオ氏は欲が少ないですな」
首を橫に捻るゲマイさん。
「欲が少ないというか、ポーションを自分で売り出すのが初めてでして。売れただけでも嬉しいと言いますか」
「ほう。商会への持ち込みは初めてですかな?」
「恥ずかしながら……。今までギルドの調合室で働いていまして」
まあ、日雇いだけども。
「ほうほうほう、なるほどですぞ。確かに、ギルドで調合されたモノは商会がまとめて選定を行ないますからな。大丈夫なモノ、駄目なモノは我々が勝手に判別を行ないます故、ギルド調合士はその場に立ち会わないですしな」
「ええ。実は売れるかどうか少し不安だったんです。ああ、売れて良かった」
僕は再度、安堵のため息を吐いた。
「ナリオ氏は珍しい方ですな。不思議な方というか何というか」
不思議そうなモノを見たような表情で、ゲマイさんは僕にそう言った
「まあ、売り手の中には選定に不満を持つ方もおりますゆえ、今回のように何事もなく終わるのは私的には助かりますぞ」
「へえ、そうなんですか」
「ええ。この前なんか、選定が明らかに低いポーションを『上級で買い取れ』なんて言う売り手もおりましてな。もめにもめて大変だったらしいですぞ。まあ、担当は私ではなかったのですがな」
「それは、お気の毒に……」
僕もギルド職員時代には同じようなタイプの人の対応もしていたため、とても他人事のようには思えない。
「それに比べれば、ナリオ氏は我々に丁寧な対応をしてくれますからな。買い手としてはかなりの良客。ぜひともご贔屓にしていただけれはありがたいですぞ」
「あはは……。こちらこそ、よろしくお願いします。今後も作成したポーション等は持ち込む予定ですので」
「おお!了解ですぞ!ポーションはいくらあっても困ることはありませんからな!」
何より、とゲマイさんは続けた。
「最近、ガルイダ近くでは禁竜の出現が多いと聞きますからな。冒険者達には協会お墨付きのポーションを使っていただき、禁竜を退けていただかないと」
「禁竜が?ガルイダ近くで出たのですか?」
僕が驚いた表情をして、ゲマイさんに聞くと。
「ややや?ご存知ありませんでしたかな?まあ、私も今朝方、ルナカニア王国から来た便の運送士から聞いたので確かな情報ではありませんが。なんでも、ガルイダや近辺の町から第二級禁竜や第三級禁竜の目撃情報が多く上げられるらしいですぞ」
ふと。
僕らが対峙したジゴセググが、頭をよぎった。
「それって、被害は……?」
「それが、被害報告は全然上がってないらしいですぞ。目撃情報が百数件あるのに対して、被害報告は零ではないものの、数件程度らしいですな」
「え、あ、それは……変ですね」
「おお、ナリオ氏もそう思いますか。私も怪しい匂いをプンプン感じますぞ。しかもこれは、トラブルを含んだ匂いですな」
目撃情報が多数上がっている。
なのに被害報告は数件程しかない。
「禁竜はなぜ、人里近くに来ているんだ?」
食事のためなら、獲物を食べた痕跡があるはず。
定住のためなら、巣を作る痕跡があるはず。
それらの痕跡は全て竜害として、ギルドに被害報告が上がるはず。なのに、今回は百件を越える目撃情報に比べて被害報告が数件と少なすぎる。
「意味もなく姿を表すなんて考えられないし……」
「ええ。まず、あり得ないですな。縄張りの確認等であれば考えられなくはないですが、今回のケースは違う気がしますぞ」
「うーん。ジゴセググとかであればあり得ない理由ではないのは分かりますが、何か違和感を感じますね」
僕とゲマイさんは互いに頭を抱えて悩み、結論として。
「まあ、我々が考えても仕方のないことですな」
よく分からない、ということになった。
「お互い、禁竜には会わない様に気を付けるしかありませんぞ」
「まあ、そうですね。極力会いたくはないですが……」
「確かに。私は会ったら食われるのを覚悟しますぞ」
「いや、まずは頑張って逃げましょう」
ははは、と僕とゲマイさんは互いに笑った。
「あ、そういえば禁竜といえば」
笑っていたゲマイさんは、禁竜というワードから何かを思い出していた。
「ルナカニア王国近くで発見されたジークコアガの特殊な遺体の話は知ってますかな?」
「ジークコアガの、特殊な遺体、ですか?」
ええ、ええ。と首を縦に何度も降り、頷くゲマイさん。
「なんでも全身氷漬けにされたジークコアガが発見されたそうなんですぞ」
「え、氷漬け……。新種の禁竜が攻撃したから、とかですか?」
「いやいや、どうやら違うらしいですぞ。ジークコアガに目立った外傷はなく、どうやら魔法で凍らしたらしいですな」
「魔法でですか?」
「ええ、ええ。ジークコアガと戦っていた冒険者は『急に現れた女が魔法で凍らした』と言っておりますが」
「急に現れた女、ですか?冒険者同士のいざこざかな?」
「真相は分かりかねますが、おそらくはそうでしょうな。獲物の横取り等の冒険者暗黙のルールには逸脱するかもしれませぬ。しかしながら、氷漬けには驚きを隠せませぬぞ」
「確かに。ジークコアガを氷漬けですものね。すごい魔力量を持った冒険者ですよね」
「量もそうですが、魔法操作にも注目ですぞ」
「ああ、言われてみればそうですね」
ジゴセググ並みに大きな体をもつジークコアガを氷漬けにする魔力量にも驚きだが、その魔力量から放たれる魔法と魔法操作技術にも目を疑う。事実として氷漬けの遺体と目撃者がいるのだから、嘘ではないことは分かるが。
そもそも、魔法を放つ上で必要なことは、魔法を放つ魔力量と魔法を放つための魔法操作技術がいる。
例えば火を球状に替えて放つ魔法があるとして、第一に必要な事は自身の持つ魔力を火へと変換すること。魔力量が少なければ火は小さく、多ければ火は大きくなる。そして自身の魔力から変換した火を球状に形成する事を魔力操作と言い、こちらには魔力量はあまり関係なく、自身の魔力をいかに上手く動かすことが出来るかと言うこととなる。
ちなみに、ルーマはあまり魔法は上手ではない。と言うより、魔力量はあるが魔法操作が苦手らしい。本人も身体強化の魔法や初級の風魔法や火魔法しか使わないと言っていたし。一度、魔力操作を学んでみたらどうかと提案してみたのだが。
「無理。俺には合わねえし、剣で切ってた方が早い」
どうやら本当に苦手らしかった。
「まあ、世の中広いということですな」
ゲマイさんはニヤリと笑いながら、そう言った。
「さて、選定はこれで終了いたしますからに。下級上位ポーションの買い取り金は受付でお渡ししますぞ。あと商会職員への要望は、何かありますかな?」
「あ、空のポーション瓶があれば、受け取りたいです」
「承知しましたぞ。殺菌済みの瓶がありますから、買い取り金と一緒にお渡ししますからに。本数はどれくらいですかな?」
「二十本でお願いします」
「分かりましたぞ。それでは、受付へ向かいますかな」
ゲマイさんはそう言うと、勢いよく席を立ち僕の作ったポーションを木箱ごと持ち上げ、ドアへと向かう。僕はゲマイさんについていき、部屋のドアを出た。
ゲマイさんからポーションの買い取り金と洗浄済みのポーションの瓶が入った木箱を受け取った僕は、ガルイダのギルドへと足を運んだ。クラン設立のための書類をブレンダさんへ提出するのが目的ではあったが、先程商会でゲマイさんと話していた第二級、第三級禁竜がガルイダ近くで多く出没している件についても話を聞きたかい。何より僕らが対峙したジゴセググがどうなったかについてが、一番気になるところだ。
「失礼しまーす……」
商会同様に、そう小さく囁くように言いながら、入り口からお邪魔をする。ギルドでは人が数名ほど。武器を持ち強固な防具を身につけているので、たぶん全員が冒険者だろう。カウンターへ並ぶ彼らは皆、律儀に一列に並び順番を待っている。その順番の一番先、カウンターの奥で働くギルド員の姿を見ると、素早い動きで、しかしながら丁寧で親切に、息次ぐ暇も無く働いている女性の姿があった。
「ありゃ、ブレンダさん忙しそうだな……」
長蛇の列、と言うほどでもないが、この人数をさばくのにはかなりの時間が掛かるだろう。そう考えた僕は受付から一番遠い丸テーブルに荷物を置き、椅子に腰掛ける。僕の用事はクランの書類の確認だ。急ぐ用事ではないので、冒険者が皆用事が終わってからブレンダさんに声を掛けようかなんて考えていると。
「あれ、ナリオ?」
椅子の後ろから聞き覚えのある声が。振り返るとそこには。
「あ、ルーマ。お疲れ様」
大きな皮袋を右肩に背負ったルーマの姿があった。
「おう、お疲れさん。どしたよ、こんな所にいて?」
「クラン設立の書類の提出について間違いがあって、ブレンダさんにちょっとね。そっちは?」
「依頼完了の提出と新しい依頼を貰おうかと思ってな。丁度、帰ってきたところだよ。ほれ、この通り」
背負っていた革袋を僕に見せる。
「なにこれ?」
「依頼の確認のための剥ぎ取り素材。レサスが群れで畑荒らしてたらしくてよ。畑にいた奴、全て狩ってきた」
「それは、本当にお疲れ様……」
「そこまでじゃねえよ。ほんの十五匹ぐらいだ」
「いや、そこまでのモノでしょう」
僕がそう言うとルーマは、はっ、と鼻で笑って。
「分けねえよ。準備もしっかりとしていったし、何よりこいつがあるからな」
そう言って、ルーマは腰にぶら下げていた剣を左手でポンと叩くように触った。
「ああ、そうか。ジゴセググの素材で強化したんだっけ。調子はどう?」
「バッチリ、と言うにはまだまだだが、前に比べて数倍使いやすくなったぜ」
不満を入り交えた言葉とは裏腹に、ルーマは満足そうな笑顔を見せてそう言った。
青色の鱗で装飾された鍔に白色の柄。鞘に納められたうっすらと青色に輝く刀身。以前、ジゴセググと対峙し手に入れた尾をルーマは自身の剣の強化に使った。手に入れた尾の大半を刀身強化に当てる事で、刃の切れ味や強度が格段にアップし、余った部分で魔石と鍔の強化に当て、魔力の操作を行いやすくしたらしい。
「ま、前のが酷すぎたのもあるが。何はともあれ使いやすくはなったよ」
そうルーマは言うと、僕が座る席の隣に椅子を引いて座り、そして持っていた荷物をテーブルの上に投げるように置いた。
「それはよかった」
僕が笑顔でそう答えると。
「んで、そっちは?」
「え、何が?」
「商会に行ったんだろ?どうだったよ?」
「ああ。ぼちぼちかな。下級ポーション十八本で大体銀貨八枚分位だね」
「へえ。結構良い値で売れたんだな」
「うん。まあ、本来はここから材料費とか技術費とか引いたら、銀貨二枚が良いとこだけどね」
実際、日雇いで働いていた頃は本数計算するとそれくらいだし。
「ま、材料費なんてこないだのガング狩りでとってきたやつだから、費用なんてかかってねぇし。技術費はイコールでナリオの儲けだろ」
「まあ、そうだね。でももう、薬草のストックがないから取りに行かないと」
「また行くか、冒険!」
ウキウキしながら話すルーマに、僕は「うん」と小さく頷いて。
「近いウチにまた行きたいな。まあ、この前見たくジゴセググと対峙なんてイヤだけど……」
「あんなの稀だ、稀。冒険者が偶然出くわす話しは聞くが、初めての依頼で出くわす奴なんかそうそういねぇって。そう言う意味じゃ、ナリオは運が良いのか悪いのか」
「いや悪いでしょ、絶対に」
「そういうなって。おかげで銅級どもは助かったから、結果オーライだろ?」
「それを言ったら、まあそうだけど。でもしばらくは戦闘とは離れていたいよ……」
「安心しろよ。あんな経験、一生に何度もあるわけねえって」
「だと良いけど」
僕は力なく笑い、そしてふと思い出した。
「そういえばルーマ。最近ガルイダ近くで禁竜に関わる依頼って受けた?」
「あ?ああ、受けたぜ。昨日の昼はゾクオクノミボアが出たらしいからササッと狩ったし、一昨日の昼はゾクギルギリリスがため池近くに出たっつーからサクッと狩ったし」
「さっき商会で話を聞いたんだけど、最近、ガルイダ近くで第二級禁竜や第三級級禁竜が増えてるらしいんだって」
「マジかよ。あーでも……。まあ言われてみりゃ、ガルイダ近くで禁竜と戦いは多いわな」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「何らかの異常気象や第一級禁竜のせいで住みかを追われた奴らがガルイダ近くに来てんじゃねえかな?」
「ああ、なるほど」
商会で感じた不安。
対峙したジゴセググの予想。
いや、まだ確証はないはずだ。
僕は考えを振り払うように頭を数回振り。
「ねえ、ルーマ」
「あ?」
「禁竜がガルイダ近くに集まっているのと、ジゴセググがニール平原に来たことと関係があると思う?」
「分からん。情報が無さすぎる。出きれば関係ねぇと助かるが」
「はは……。だよね」
「ま、どちらにせよ」
苦笑いの僕を見て、ルーマが一言。
「きな臭ぇのは確かだ。しかも、かなりの厄介事だな。出きれば関わらないようにしてえが」
「金級冒険者には関わらないなんて無理な話じゃない?」
「元な。元金級冒険者だ。今は自由な銀級冒険者だぜ」
僕の発言に対して、ルーマは細かい訂正をする。やけにこだわるなぁ。
「ま、ヤバイときには力は貸すが、そりゃお互い様だろ?」
「え、どういうこと?」
「ナリオだって、ヤバイときはギルドから力を貸してくれ、なんて言われっかもよ?」
「いやぁ、流石にないでしょ」
「そうか?俺は可能性は大いにあると思うぜ」
ルーマが自信タップリに話すのに対して、僕は力なく笑いながら。
「臨時のギルド職員に解決出来る問題は、大半の人が解決出来る問題だよ」
自虐を込めて、そう否定した。
僕とルーマが話している内に、受付に並んでいた冒険者の列はどんどんと裁かれていき、気が付いた時にはブレンダさんは列の最後の一人の冒険者を対応していた。
「人はいなくなったし、とりあえず並ぶか」
「そうだね」
僕とルーマは席を立ちあがり、受付へと歩き出す。僕達がちょうど到着すると同時にブレンダさんは冒険者との話を終えていて。
「次の方ー!あ、ルーマさん。ナリオさんも」
「よう、ブレンダ」
「どうもです、ブレンダさん」
ナリオは右手を上げ、僕は軽く会釈をして、それぞれブレンダさんに挨拶をした。
「はい、お疲れ様です」
先ほど冒険者と対応していた時と同じ、さわやかな笑顔を僕たちに向けるブレンダさん。
「どうされました?」
「俺は依頼の報告と新たな依頼を受けに来た」
「僕は、クラン設立の書類について直したものを持ってきました」
「なるほど。そうしたら、まずはルーマさんから対応しますの」
うんうん、と二回うなずくブレンダさん。そんなブレンダさんに、ルーマはアレ?と一言。
「なんだよブレンダ。『ですの』は封印してたんじゃねえのか?」
「もうイシューにバラされてしまいましたし、いいかなと思いまして。それに慣れてる話し方のがスムーズにいきますし、ほかに人もいませんし」
「はあ。ま、何でもいいけど。これが証明の剥ぎ取り素材な」
ルーマはそう言って、皮袋をカウンターの上へ先ほどと同じく投げる様に置いた。
「ちょっとルーマさん、剥ぎ取り素材はもっと丁寧に扱わなきゃダメですの」
「あ、すまんすまん。つい癖で……」
しまった、という表情を浮かべて、ルーマは素直に謝った。
「悪かったよ。次から気を付ける」
「ふふっ、お願いしますの。それで確か、ルーマさんが受けてた依頼が……」
「レサス十頭の討伐だ。あいつらの片耳が入ってるから、確認してくれ。血はできる限り拭いてっけど、汚れたら悪ぃな。あと、レサスの毛皮も入ってるわ。それも査定してくれ」
「了解ですの。それじゃあ中身を見ますね」
なれた手付きで皮袋を開け、中身を確認するブレンダさん。ふんふん、と頷き、いち、にー、と数えだした。
「うん。十五頭を確認いたしましたの。それでは、ガルイダギルド職員ブレンダが、ルーマさんの依頼達成を確認いたしましたの」
「あいよ」
「中にある毛皮五枚は全て換金いたしますの?」
「ああ、全部頼むわ」
「分かりました。そうしたら、まず依頼報酬が銀貨四枚になりますの。対価報酬は後日査定されますので、受け取りに着てほしいですの」
「分かった」
手元にある書類でルーマの依頼を確認したブレンダさんに、ルーマは短い返事で返した。
「そうしましたら、すぐにお金を用意しますの」
「いや、明日の追加報酬と合わせて渡してくれればいいわ」
「いいんですの?」
「おう。それよりもナリオの方を対応してくれや」
「分かりましたの。ではナリオさん、お待たせいたしました」
「すいません。ルーマもありがとう」
僕がお礼を言うと、ルーマは「おう」と再度短く返事をした。僕はショルダーバッグから数枚の書類を取り出し、ブレンダさんに見せて。
「この前お見せした書類で、指摘してもらった箇所の修正を行いました。確認をお願いします」
「分かりましたの。それでは、確認いたします」
ブレンダさんは書類を受け取り、目を通した。細かく目を動かし、一枚、また一枚をめくる。
「あれ?」
すると、五枚目の書類を確認していたブレンダさんは疑問の声を上げると同時に、首を横にひねった。
「ナリオさん、ここなんですが……」
疑問点を指差しながら、ブレンダさんは僕へと書類を見せる。
「クランのクラン長ですけど」
「はい」
「クラン長がイシューの名前になってますの」
「え?ええ、そうですよ。クラン長の名前欄にイシューさん。副長の名前欄に僕の名前で記入してます」
「……いいんですの?」
「はい?」
困惑と心配が入り交じった表情を浮かべるブレンダさんは、おそるおそる僕にそう言うと。
「だって、イシューですよ!あのテキトーでちゃらんぽらんで口から出る言葉はグランポポロの花の綿毛よりも軽いイシューですよ!」
ブレンダさんにボロクソに言われるイシューさんを苦笑いの僕と確かにと頷くルーマは反論せず聞いていた。てかルーマ、そこで頷かないで。同じクランの仲間なんだから、納得しないでよ。
「この書類のままじゃイシューにクラン長を任せる事になりますの!良いんですの、ナリオさん!」
「あ、あの……それで良いんですが……」
「正気ですか?」
「い、一応は大丈夫かと」
「いや、正気じゃないですの」
反語で返された。そしてブレンダさんの中では、僕は正気ではないらしい。
「本当に良いんですの?後悔しませんの?」
「だ、大丈夫ですよ……。ねえ、ルーマ?」
「ん?ああ、大丈夫だろ」
ルーマは僕の問いに簡潔に、と言うよりもあまり興味がなさそうにこたえた。
「ルーマさんまで!本当にいいんですの!」
「ブレンダが心配してんのは、ちゃらんぽらんなイシューにクラン長を任すことだろ?なら大丈夫だ、心配ねえよ。何かあっても、最後にゃナリオが何とかすっから」
「はい?」
「ナリオは副長にしてあっけど、金の管理や依頼の管理、方針とかクラン運営の実権握ってんのはナリオだろ」
「え、そうなんですの?」
「いや、そんなことは……」
僕がそう言うと、ルーマは眉間にシワを寄せながら。
「だってよ、イシューに金の管理任せるのはなぁ」
「それはかなり怖いんですの」
「かといって冒険者の依頼管理を任せるかというと」
「冒険者が死んじゃいますの」
「それじゃあクラン方針を決めてもらうかと言えば」
「明後日の方向に出発しちゃいますの」
「そういうこった。なんだブレンダ、よく分かってんじゃねえか」
「もちろん!何回イシューに嵌められたことだか……。ルーマさんも会って日が浅いのに、イシューの事をよく分かってますの」
「第一印象がきな臭かったからなー。今でも俺の中のイシューのイメージは『テキトー人間』だな」
「それは概ねあってますの」
テンポ良くイシューさんを罵倒するルーマとブレンダさんに対して、僕は「あはは……」と苦笑いを返すことしかできなかった。
「でもナリオさんが中心となるなら、安心ですの。それならクラン長の名前はこのままにしておきますね」
「あ、はい……」
「見たところ間違いはないですし、必要な書類も全てそろってます。これをルナカニア中央ギルドに送りまして審査が通れば、晴れてクラン〈知識の大樹〉ミーミルスールが設立になりますの!」
「ありがとうございます」
「おお!俺達のクランがついにできんのか!」
「審査が通ればだけどね。ああ、これだけでも疲れたよ……」
ブレンダさんから書類の合格を聞いて安堵したからか、僕は疲れた表情で笑うと。
「ははっ。お疲れ、相棒」
カラッと笑いながらそう言って、ルーマは僕の背中を軽く叩いた。
「ありがとう。ところでブレンダさん」
「何ですの?」
「審査って何を見るんですか?」
僕の問いに、ああ、とブレンダさんは頷き。
「ご説明いたしますの。クランが設立する目的に似合う実力があるかどうかを判断いたしますの。中央ギルドから選出された銀級冒険者と共に依頼達成ができれば、審査は合格になりますの」
「へえ」
ブレンダさんの説明を受けた僕は少しばかり不安な気持ちになってしまった。審査と聞くと、どうしても厳しそうなイメージをしてしまうし、どこか気持ちがしり込みしてしまう。
「依頼は中央ギルドから出されます。設立するクランの規模に応じて依頼は変わりますが、〈知識の大樹〉ミーミルスール程の規模なら、難しい依頼は来ないと思われますの」
「ちなみに俺も、クランの審査員として依頼に同行したことがあるぜ」
「え、そうなのルーマ。初耳だけど」
「銀級時代に三回位な。っても、今も銀級だけども。ま、審査ったって依頼完了出きれば大体合格だよ。審査員なんて大体なもんだ」
「ルーマが審査員のとき、かなり大雑把そう」
「俺は依頼完了すりゃクランの実力は問題ないって報告をしてたな」
「やっぱり……」
あっけらかんとしながら答えるルーマに、僕は困惑の表情で返すが。
「でもクラン審査員なんて、ルーマさんの言う通りそんなもんですの。なかなかしっかりとクランの中身を見る冒険者はいませんし」
横から入り込んだブレンダさんは、そう言ってルーマに同意する。
「審査員の冒険者にとってもクラン設立を不可とする場合に正当な理由が必要になりますから、不合格にするのは手間が掛かるだけで面倒くさいんですの」
「そゆこと。合格って言うだけなら理由は必要ないし、報告だけになるから楽なんだよ」
「だからめったなことがない限りは不合格にはなりませんの」
「へえ、なるほど」
二人の説明に、先程までの不安が少し解消された。
とはいえ。
審査は審査だし、色々と準備もしておかないと。
「とまあ、以上が書類提出後の流れになりますの。ナリオさんからは、他に質問はありますの?」
「いや、僕からは特には」
「そうしましたら、他に用事等はあります?」
「用事……。あ、ジゴセググについては何か進展はありましたか?」
ふと僕がした質問に、ブレンダは一瞬顔を曇らせて。
「すいません。中央ギルドも近くの支部からも、何も情報はありません」
「冒険者達からは目撃情報は上がってねえのか、ブレンダ?」
「それも特に。全力で調査はしているのですが……」
「ま、仕方ねえさ。こればっかしは誰が悪い訳じゃねぇし」
「申し訳ないですの……」
しゅんとなりへこむブレンダさんに、ルーマは「気にすんなって」と笑いながら励まし、僕も無言ながら数回頷いた。
「ちなみにブレンダさん。最近、ガルイダ近くで禁竜の被害があったとかは聞いてますか?」
「被害報告ですか。あまり聞かないですの……。あっても、例年通り魔物による畑や畜産への被害とかだけですね」
「それじゃあ禁竜の目撃情報はどうですか?」
「目撃情報……目撃情報……。ああ、冒険者さん達かからは第三級禁竜の目撃情報はよく聞きますね。私も冒険者さん達に出す目撃調査依頼が例年よりも多いとは感じます」
「中央ギルドからなんか情報とかは上がってねえか?ジゴセググ以外にも、禁竜関係の情報とか」
「いえ、今のところはなにも」
ブレンダさんの答えを聞いて、僕とルーマは目を合わせアイコンタクトをする。
ブレンダにはこれ以上聞くことはないだろ。
不安を煽る事も伝えるべきじゃないね。
僕は、ルーマが軽く首を横に降ったのを確認した後。
「ありがとうございます。何か分かったら、僕らにも話せる範囲で教えてください」
そう言って、質問を強制的に終わらした。
「分かりましたの!情報を手に入れたら、ナリオさんとルーマさんにも必ずお伝えいたしますの」
深々と頭を下げるブレンダさん。
「お願いします」
僕はブレンダさんと同じように深々と頭を下げ
「頼むわ」
ルーマは右手を顔の正面に持っていき、片手で空を仰いだ。
「あ、すいませんブレンダさん。もう一つ良いですか?」
「はい、何ですの?」
頭を上げたブレンダさんは、僕からの質問に頭を横にして首をひねった。
「今日、商会から話を聞いたんですが。何でもルナカニア王国近くで、ジークコアガを氷浸けにした女性がいたらしいと」
「なっ、マジかよ……」
目を見開き驚くルーマ。
「一人でやったのか、それ」
「商会職員のゲマイさんが聞いた話だと、そうらしいね」
「だとしたら、すげえ魔力量と魔法操作技術だな」
「僕もそう思う。中央ギルドから何か連絡はありませんか?」
「ええと、たしか……」
頭を傾け、手を頬にあてながら考え込むブレンダさん。
「いや、そんな報告はありませんの。確かに中央ギルドからジークコアガの目撃情報がルナカニア王国近くのナモン深森林でありましたが、すでに金級冒険者で対応して頂いてます」
「あ?」
「へえ、もう対応済みですか」
納得する僕とは対照的に、どこか気になる部分があったからか、ルーマは首を横にひねる。
「すまん、ちょっと良いか」
前のめりになって右手を小さく上げ、ルーマは会話に割り込む。
「中央ギルドからの連絡で、ジークコアガの種類はなんだ?乙種か?」
「いえ、確か甲種ですの」
「依頼をかけたのは何時だ?」
「えっと、連絡は五日前に着まして、その時は六日前から依頼を発注済みと書かれてましたから……」
「ざっと十日前か。甲種で十日前で現在対応中ねえ……」
「どうしたの、ルーマ?」
「いや、何でもねえ。悪い、話を戻してくれ」
「う、うん。分かった」
真剣な表情で考え込むルーマに凄みを感じつつ、僕はブレンダさんに対して。
「それじゃあ特に中央ギルドから情報がないと言うことですね」
「はい。ジークコアガに対しては、先程話した情報が全てですね。後はなにも知らないですの」
「なるほど、分かりました。何か情報が入りましたらジゴセググ同様に教えてください」
「承知いたしましたの」
「後は……、うん。僕はないかな。ルーマは?」
「あ、そうだ。ブレンダ、依頼くれ。出きればガルイダ近くで今日の夜までに終わりそうな依頼」
「だとすると……。ちょっと待ってくださいね」
ルーマからの注文を受け、書類を数枚めくり依頼を探すブレンダさん。五枚ほどめくった後、めくる手を止め書類に目を通すと。
「ヌーボウパ三頭の狩猟なんてどうですの?解体は行わず狩猟のみで大丈夫ですので」
依頼が書かれた紙を僕らへと見せる。
「どんな条件で狩りゃ良いんだ?」
「大人サイズであればオスメス問わない。一頭銀貨二枚で買い取る。などが条件ですね。あとは、狩猟には同行者がいますので、細かい指示はそちらから出るはずです」
「りょーかい。んじゃ、それを受けさせてくれ」
「分かりましたの。すぐに手続きいたしますから、少し待っててください」
見せた書類を回収し、依頼の手続きにはいるブレンダさん。ルーマは「あいよ」と返事をすると。
「で、ナリオはどうすんだ?」
「僕はナネテブ・ワルに戻ってウェイターの手伝いをしなくちゃいけなくて。今日の夜は日雇いが入ってます」
「マジかよ。昨日もやってなかったか?またやんのかよ?」
「カーノさんが大変らしくて……。あと、ドイトンさんから頼まれたら断りづらかったのもある」
「あ、なるほど。ドイトンには世話になってるからなぁ……。断りづれぇっちゃづれぇけどよ……。まあ、頑張れ」
「まあ、疲れないほどにしたいけど……。給料も出るし、夜だけだから。なんとか乗り切るよ。ルーマは、夜に戻る予定?」
「もちろん。もう少ししたらデカイ依頼を貰うが、今日明日は楽するぜ」
首を左右にゆっくりと振り、首をならすルーマ。
「そうしたら、ルーマが帰ってきたら今後の予定を立てない?」
「冒険か!いいなぁ、おい!」
「まあ、みたいなものかな。僕もフィールドワークしたいし、それに……」
僕はチラと、作業中のブレンダさんを見て。
「……ガルイダ近くの状態を見てみたいからさ」
言葉を選びながら、ルーマに返す。
僕の意図を読み取ったルーマは、「……ああ」と短く返事をして
「なるほどな。それじゃあ、近いうちに出ねえとな」
「だね。今日は、その相談をしようか。食事がてらにでも」
「分かったぜ!それじゃあ、ナリオの仕事が終わってから話す感じだな。まあ昨日の様子じゃ、今日もナネテブ・ワルは混むだろうがな」
「ははは、ルーマ。……僕もそう思うよ」
「おおぃ、こっち注文いいか!」
「すぐにお伺います!」
「酒の追加がしたいんだが!」
「かしこまりました!少々お待ちください!」
「さっき頼んだ料理まだー?」
「申し訳ございません!確認して参ります!」
「すいませーん、お会計をお願いしまーす」
「はい、只今!カーノさんお願いします!」
「わ、分かったわナリオちゃん!まかせて!」
十三回目の鐘がガルイダの町に鳴り響き、月が空を昇る頃。僕はドイトンさんとの約束通り、ナネテブ・ワルの臨時ウェイターとして。
「お待たせいたしました!麦酒二つに果実酒です!」
死ぬ気で働いていた。
「ドイトンさん先程注文された料理はできてますか?」
「今出す」
「クナイドリの胡椒焼きとヌーボウパのステーキ……大丈夫です!」
「ナリオちゃん!頼まれてた麦酒の補給は終わったわ!」
「ありがとうございます!ついでに二つ程、作って貰えますか?僕はその間に料理を運びますから」
「分かったわー!」
カウンターに置かれた料理をトレーへ乗せ、先程、料理の採択があったテーブルへと持っていく。
「お待たせしました!」
移動したさきで、料理をテーブルへと移す。お客様からは「きたきた」と待ちわびていた声が聞こえた。配膳後、僕は会釈をしてカウンターへと戻る。
カラン、と。
カウンターへ戻る途中で、ナネテブ・ワルの扉が開く音が聞こえた。振り向いて、いらっしゃいませ!と元気よく挨拶をすると。
「よ、ナリオ。案の定、忙しそうだな」
「あ、ルーマ。いらっしゃい」
「おう。ちなみにこいつらも来たぜ」
体を横にずらし、ルーマは左親指で自身の後ろを指す。
「どうもっす」
「来たぜ、ナリオさん!」
「こんばんは」
「こんばんは!なんか、忙しそうですね!」
ルーマの後ろから、ウバルさん、ディンさん、ルフーナさん、キャディさんの姿があった。
「皆さん!いらっしゃいませ!」
「偶然、ギルドで会ってよ。暇そうだから連れてきたわ」
「暇って……。それは流石に失礼じゃ……」
「いや、俺達も依頼が終わってちょうど飯屋を探してたんすよ」
僕の言葉に、ウバルさんは笑いながら返す。
「どこで食べようかって皆で話してたら、ルーマさんに会いまして。ルーマさんからオススメの料理屋があるからと聞いたんで、そこで食べようと言うことになったんです」
「しかも、あの日に食った味が食えるって聞いたから、即決定したよな」
「うん!美味しかったなー、あのウサギ肉」
うっとりするキャディさんとワクワクしているディンさん。ルフーナさんは「二人とも落ち着いて」となだめるも。
「実は僕も楽しみだけど」
そう言って、小さく笑うルフーナさん。
「ま、俺もだけど。でもナリオさん、みた感じ激混みっすけど……。俺達座れます?」
「あ、大丈夫ですよ。今ちょうど、テーブルが一つ空きましたから。すぐ片付けますから、席で待っててください」
不安そうなウバルさんに僕は笑顔でそう言って、皆をテーブルへと案内した。
「あー、食った食った!」
「俺も!もう腹一杯!いや、あと少し食えるかな……?」
「ちょっとディン、食べ過ぎだから!あ。でも、あたしもスイーツならもう少し食べられそう……」
「ディン、止めとこう。明日も依頼があるし、お腹は八分目が丁度だよ」
「あははっ!ディンってばルフーナに怒られてる!」
「キャディも止めとこうね。スイーツは食べたでしょ?」
「えー、もう一品位……」
「ダメだから」
「ぶー。ルフーナのイジワル。でも、美味しかった!」
「確かに。ナリオさんの言う通り、クナイドリにあのスパイスは合うな」
「うん。本当に美味しかったね」
椅子に全体重を預け、天井を見上げるウバルさん。まだまだ食べられそうなディンさんとキャディさんはルフーナさんに止められるが、皆、満足そうだった。
「あ、僕はルーマ達のテーブルを片付けてきます」
「ナリオ」
カウンターにいた僕はドイトンさんにそう言うと、ドイトンさんは僕を呼び止めて。
「お前の夕飯だ」
カウンターに料理が盛られた皿を置いた。
「お前も今日はもう良いぞ。客も少ないし、後は俺達でやっておく」
「え、良いんですか?」
「ああ」
「旦那の言う通りよー」
ちらと声のする方へ向くと、テーブルの上を片付け終えてカウンターへと戻ってきたカーノさんの姿が。
「こっちはだいぶ楽になったし、ルーマちゃん達とご飯を食べておいで」
「あ、ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えて」
僕二人にそう言ってカウンターの料理を受け取り、ルーマ達が座るテーブルへと向かった。
「お。やっと来たか」
テーブルに着くと、ルーマが僕に気がついて手招きをして。
「隣にどうよ?」
「それじゃあ誘われるかな」
「どーぞどーぞ。っても、俺らは待てずに先に食っちまったけどな」
「あはは、大丈夫だよ」
そう言って、ルーマの隣に座った。
「さて、いただきます」
両手を合わせ、料理をに盛られた小さいステーキにフォークを刺す。口の中にいれると、ジューシーな肉汁と美味しいソースしが絡み合って。
「あ、美味しい」
絶品の味だった。
「やっぱり頼もうかな……」
僕が食べる姿を見ていたディンさんは、そう呟くと。
「ディン、食べ過ぎだって」
「まあまあ。良いじゃないか、ルフーナ。皆で一品頼もう」
「兄さんまで……。まあ、今日ぐらいはいいか」
ウバルさんの言葉に、渋々納得するルフーナさん。
「あ、じゃあ私もスイーツ頼みたい!」
「あいよ。俺、ちょっくらカウンターに注文してくるわ」
キャディさんのリクエストも受け、追加二品の注文のため、ウバルさんは席を立つ。
「お前ら、金はあんのか?言っとくが、俺もナリオも余計な出費は払えねぇぞ?」
「それは大丈夫!ね、ルフーナ」
「まあ依頼報酬分があるから、まだ懐は暖かいけど」
あははと笑うキャディさんとディンさん、そして苦笑いのルフーナさん。どうやら、パーティーの財布はルフーナさんが管理しているようだ。
「でも、明日からは節制するからね」
「あーい」
「分かったー」
「本当に分かってるのかな……」
軽い返事の二人に、苦笑いをしながら眉間にしわを寄せるルフーナさん。
「なんか苦労してんな、ルフーナ」
「……まあ正直、お金の管理は難しいですね」
「まあなぁ。俺も苦手だし」
「あ、ルーマさんが苦手なの分かるわ。財布の中とか常に空なイメージ」
「ね。なんかすぐに使っちゃいそうだし」
「二人とも、失礼すぎるよ……」
「あはは。まあ、実際はイメージとは真逆なんですけどね」
「「え、逆?」」
「俺は金を使わずため込むんだよ。て言うか、使い方が下手すぎて上手く使えないんだ。正直、何に使って良いか分からん」
ディンさんとキャディさんは、ズボラなイメージをルーマにしているが、実際は逆だ。ルーマは無駄使いをせず、趣味にお金を使うこともなければ、豪華な食事を取る事もない。と言うよりも本人に贅沢にするという発想がないらしい。
「趣味らしい趣味もねえし、欲しいもの冒険者業に関わるモノしかねえしな」
「え、美味しいモノとかを食べるとかは?」
「ナネテブ・ワルで十分美味いだろ」
「本とか雑費とかには使わないんですか?」
「家具や服とかは買うが、必要最低限だな。本も気に入った奴しか買わないし、つーかあまり読まん」
「それじゃあ、ウバルやディン見たいにエッチなお姉さんのいるお店に行くとかは?」
「でめえキャディ!」
「何しに行くんだ、そんなとこ?」
「え、あ……。ほ、ほら!たまにはそういう所で、気分転換というか……」
「まあ、話を聞いて貰ったり、楽しくお酒を飲んだりするとかですかね。キレイな女性に話を聞いて貰えると嬉しいもんらしいですよ」
「話ならナリオが聞いてくれるぞ?」
「いや、そうじゃなくて……」
ルーマの質問に、困る表情をするルフーナさん。そんなルフーナさんを、キャディさんは少し不機嫌そうな目で見ながら。
「てか、なんでルフーナそんなこと知ってるの……!もしかして、行ったことあるとか!」
「え、無いよ?」
「じゃ、じゃあ何でそんなに詳し……!」
「あいよー。お待たせしたっすね」
キャディさんの言葉を遮るように、ウバルさんは両手にお皿に持ったお皿をテーブルに置いた。
「ほれ、こっちがパルイモとキナカリドリのフライ。んでこっちがフルーツ盛り合わせ。おまけでリリムゴの実をつけて貰ったぜ」
「あ、ありがとう兄さ……」
「ちょっとウバル!ルフーナが何でこんなに詳しいのよ!」
「あ、何の話だよ?」
「あんたやディンがエッチなお店に連れてったんじゃないの!」
「ちょ、バカ!声がでけえ!」
「うん、本当に声量落として!あと行ったこと無いから!兄さんやディンに話を聞いただけだから!」
キャディさんの発言に慌てふためくディンさんとルフーナさん。ウバルさんは眉間にしわを寄せて。
「本当に何の話だよ……」
「あ、えと。ルーマのお金の使い方から、何故かこういう話になってしまいまして……」
「はあ、ナルホドっす……。え、どういうこと?」
ウバルさんは聞き返してきたが、僕には上手く説明できる気がしない。ディンさんやルフーナさんは下手なことを言わないように無言を貫いているし、ルーマは目線をそらして知らぬ顔で麦酒を飲むし。と言うか、下手なことを言えばこっちに飛び火しかねない圧をキャディさんから感じるのはなぜだろう。
「ほ、ほら!兄さんがこの前、ディンと飲みに行った店のことだよ」
沈黙を破ったのはルフーナさん。緊張感のある声で、ウバルさんにそう言うと。
「ええ……。あ、はいはいはい!何だルフーナ、行きたいのか!」
いつも通り明るく答えるウバルさん。
「い、いや……。僕は別に……」
「なんだなんだ。お前も男と言うことか!はっはっは!ま、お前もいい歳だし、今度ディンと一緒に行ってみよ……あ?どうした、キャディ?怖い顔して」
「……ねえ、ウバル…………」
「何だよ?」
「風魔法でそぎ落とされたいなら、どの部位が良いの?」
「え!あ!そ、そぎっ……!」
「ちなみにディンもウバルと同じ部位をそぎ落とすから」
「何で俺まで!」
「ルフーナは後でお説教ね。こういう変な店に行っちゃいけないんだからね」
「え、あ、うん……」
「ちょっと待て!」
「なんでルフーナだけ……!」
「言い訳しない。ルフーナに変な知識を与えた罰だから」
怒り狂うキャディさんに対して、ウバルさんとディンさんは「そんな……」と声をすぼめながらうな垂れる。僕はルーマと目を合わし、苦い顔をしながら首を振るうルーマを見て。
「そ、そういえば。今日皆さんが受けた依頼って何だったんですか?」
急な会話の方向転換を行なった。
「え、今日ですか?確かゾクガガスを狩ったりとかですね。だよね、ルフーナ?」
「えっ!あ、うん。そうだね」
「ゾクガガス……たしか獣竜種の大きな口が特徴的な……」
「あ、そうそう。久々に戦いましたよー」
「え、そうなんですか?てっきりこの辺には良く出るのかと……」
「ビビラの谷ではよく見かけるけど、この辺じゃ珍しいですよー。てか、ガルイダの近くで戦ったのは初めてかも」
「ビビラの谷?」
「ニール平原から南東にある場所です。山が削られてできた谷間で、そこにはガガスも多くいますね」
「へえ、ガルイダ近くは珍しいねぇ……」
明るく答えるキャディさんに対して、ルーマは表情に影を落とした。
「後は目撃調査依頼を一件ですね。まあ、痕跡も少なく本体も見つからなかったので、報酬は少ないですが」
「やっぱり本体は見つからなかったんですね……」
「はい。ん、やっぱり?」
「あ、いや。えーと……」
ルフーナさんは首をかしげて、僕の言葉に疑問を持った。僕が慌てながら言葉を選んでいると。
「ちなみに、ギルドはなんか言ったか?」
「いや、特には。何かあったんですか?」
「いや。少ない痕跡で依頼達成できるなら、明日、俺も受けようかなと思ってよ」
ニヤリと笑うルーマ。
「えー、そんな理由すか?」
「まあ、ルーマさんだから」
「うん。ルーマさんなら、そう言う理由で受けそう」
「皆、さっきから失礼すぎない?」
ルーマの笑いに吊られるように四人は笑った。助かった、ルーマが上手く誤魔化してくれて。
僕が苦笑いでルーマに目を合わせると、ニヤリ顔のまま、二回ほど右手で空を仰いだ。
「さあ、ちゃっちゃと食え銅級ども。ナリオも食っちまえよ。明日も仕事はあるんだ、さっさと食ってぱっぱと寝ようぜ」
ルーマはそう言うと、大きなアクビを一つした。そうだね、と僕は同意をして、ステーキを口に運ぶ。
「きゃぁぁあぁぁぁぁああ!」
瞬間、女性の叫び声がナネテブ・ワルの入り口辺りから聞こえた。
「この声、カーノか?どうした!」
辺りを見渡すと、カーノさんの姿はない。となると、玄関辺りか?
「あ、あなた!来て!ナリオちゃんとルーマちゃんも!早く!」
外から聞こえたカーノさんの言葉に反応し、椅子を蹴り倒して入り口へ走り出すルーマ。僕も後を追うように走り出す。
「どうした、カーノ!」
「一体何が……!」
僕らがナネテブ・ワルの入り口から出ると、腰を抜かして座り込むカーノさんの姿があり。
「あ、あれ!あそこの!あれ!」
必死に指をさし、僕らに何かを伝えようとしていた。
カーノさんの指が指さす方向へ目を向けると。
小柄の女性が、大の字にうつ伏せで倒れていた。
「あっ!」
「なっ!」
僕とルーマは、倒れた女性に急いで近づいて。
「大丈夫ですか!」
肩を揺さぶり声をかけるが、女性からの反応はない。
「くそっ、暴漢かなんかに襲われたか!」
ルーマは辺りを見渡すが、怪しい影はない。
「ナリオ、俺は辺りを見てくるからお前は……!」
「う、うう……」
「待ってルーマ!この人意識ある!大丈夫ですか!」
「う、は……」
「は……!」
女性は微かな意識の中、僕に気がついて、一言。
「は、腹、減ったのだ……」
「………………はい?」
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