第40話 クリスマスコンテスト その3

 圭吾は茜と喫茶カメリアで話していた。前回は気をつかって他の店に誘った。今回もフラワーロードに行こうとしたのだが、茜は別に気にしないそうだ。

 スタッフの何人かが、意味深な表情をして接客してくる。


「ランチにしようかな、圭吾はどーする」

 目の前のウエイトレスが聞きたそうな表情を浮かべながら注文を聞いてくる。


「じゃあ、俺はAランチで」

「わたしもそれにしようかな」

「ご注文を繰り返します。ラブラブAランチ二つでよろしいでしょうか」

「こらぁ、深山みやま!!」

「先輩の彼氏なんでしょう。むっちゃ気になるんですけど」

「うるさい、彼氏じゃなくて友達だし。この前振られたばかりだし」

「えー、こんな可愛い女の子の茜を振るんですか」

「いや、そう言うわけじゃ」

「うるさい、早く仕事に戻れ」

「はあい、じゃあごゆっくり〜」

「こらー!」

 深山と呼ばれたウエイトレスはそのまま厨房に帰っていった。


「ごめん」

 茜は片目を瞑り両手を合わせてきた。


「まあ仕方ないだろ、興味津々な年頃なんだし」


 そんなことを言い合っていると、茜の後ろから見知った二人がやってきた。


「あっ、あれって琴音と鈴木?」

 別に隠す必要はないと思っていた。鈴木に茜と恋人と勘違いしてくれた方がやりやすい。それも含めてここで食事をしているのだが、実際に来てみて、運が良いのか悪いのか分からなかった。


 鈴木の一歩後ろから琴音が歩いてくる。


「ご一緒、していいかな」

「鈴木さんですか」

「この前、彼女にプレゼントを買っていた、山本くんだっけか。でこちらの彼女がプレゼントを贈った相手かな?」

「木村茜です。今日は琴音の応援に来ました」

 プレゼントの話を茜は知らないが、空気を読むところはさすが茜だ。

 

「あー、君が琴音の友達の木村さんか」

 四人掛けのテーブルの空いてる席に二人は座った。

 圭吾と鈴木、対面に茜と琴音と言う形になる。琴音がにっこりと微笑んだ。


「凄い人気になってますね。茜に聞いたけど流石は鈴木さんと白石さんだな、って思います」

「この場所は木村さんの紹介だと琴音から聞いてる。ありがとう、琴音も喜んでる」

「うん、茜。ありがとうね」

「優勝しちゃいそうな勢いですよね」

「いや、そんなに簡単ではないけどね。できれば優勝したいとは思ってるよ」

 深山と呼ばれたウエイトレスが注文したAセットを持ってきて、圭吾と茜の前に置いた。

 琴音が話しながらチラチラと圭吾の方に目配せしてくる。バレたらどうするんだと思った。いつもハラハラさせられる。


「お客様ご注文はいかがですか」

「じゃあ、僕も君たちと同じもので」

「わたしも」

「ご注文を繰り返します。Aランチをお二つでよろしいでしょうか」

「あぁ、それでお願いします」


「SNSでお似合いのカップルって話題になってますよ」

「ウエディングドレス姿は正直驚いたよ。木村さんがアドバイスをしてくれたとか。ありがとう」

「いえ、琴音ならそんなのなくても優勝できそうでしたけど、出来れば特別感あった方がいいと思いまして」

「僕も嬉しかった。琴音がこんなにも前向きになってくれて」

 意味を理解した琴音は明らかに不満の表情を見せる。また、ほっぺを膨らませた。

 鈴木とのウエディングドレス姿に一番不満を持っているのは琴音だったようだ。

 

 足がコツンと蹴られた。痛っ、足がどこから来てるのかは見ないでもわかる。琴音だ。

 いつも思うけれども見た目よりも相当やる事が幼いんだよな。今はご飯を食べ終わって、ジュースだけが置かれたテーブルに片肘かたひじに頭をのせて圭吾をじっと見つめていた。恋する乙女の表情に見える。最近会ってなかったから、そろそろ限界に達したのかもしれない。


 あまりにも分かりやすくて、鈴木に気づかれそうである。

「ちょっとお手洗いに行ってくるね」

「ごゆっくり」

 琴音が席を立った。大きく息を吐く、心臓に悪い。暫くしてLINEが鳴った。


(もう限界、そろそろバラして良くない?)

(いや、せっかくここまで来たんだ、もうちょっと頑張ろうよ)

(だって、圭吾。他人みたいなんだもん)

(鈴木の前だと仕方ないじゃないか)

(わかってるよ、わかってるけど、寂しい)

(もうちょっとだけ、頑張って)

(うぅ、最近鈴木とデートしたり、結婚式の真似事したり、それっておかしくない?)

(インスタで勝たないと、その後が繋がらないじゃないか。それに鈴木が辞めるといったらこのイベント自体出れなくなるし)

(知ってるよ。わかってるんだけど、変なんだよ。鈴木最近優しいし。腹たってるんだけど。仕返ししてやりたいと思ってるんだけど。そこまでしなくても良くない、と思ってしまう自分もいる)

(おいおい、ここに来てそれはないかと)

(わかってるよ、だから圭吾ともっとくっつきたい。なんで鈴木とデートなんだよ。ウエディングイベントなんだよ。わたしは圭吾だけの『モノ』なのに……)

(この埋め合わせは今日以降思いっきりするから)

(わかった。じゃあ明日からずっと一緒にいよう)

(いや、それは逆にまずいかと)

(まずくないかと)

(わかった、それよりは先にイベント)

(ごめん。今日のわたし駄々っ子だね)

(いいよ、このくらい俺は琴音の彼氏なんだから)

(ありがとう。言いたいこと言ったらちょっとだけ気持ち落ち着いた)


「発表、何時からだっけ」

 琴音が戻ってくると茜が腕時計を見ながら呟いた。


「そろそろじゃないかな。あっ、琴音おかえり」

「うん、ちょっと混んでたから遅くなっちやった」

 茜がスマホで発表のサイトを確認している。運営の発表は指定のサイトで行われると言うことだった。全員が固唾飲んで茜のスマホを見る。


「あっ、載ったよ」

 ランキングは下位から上位に向かって10組分だった。琴音の名前は下位にはない。五位、まだない。

四、三、二位、出て来ない。130組の重さを今にしてひしひしと感じた。結局、無理だったのか。


『一位 鈴木、白石ペア』


「琴音あったよ、良かったな」

「やったな、一位だぞ」

「うん、良かった良かった」

「みんな、ありがとう」

 良かった、流石は琴音だ。予選だけど一位に選ばれていた。そうだとは思っていたけれど、出場者の多さからすると不安になるのは当然だった。


「琴音、行こうか」

「へっ、どこへ?」

「ちょっとね、お話」

「わかった、じゃあ行くね」

 突然、鈴木が琴音と自分の2人分のお金を置いて退席した。後から琴音が追いかける格好になる。振り返りざま……。


「圭吾、また後で」

 手を振り鈴木に聞こえない小さな声で言った。


「行っちゃったね」

「だなあ」

「心配かな?」

「そりゃ、まあな」

 遠くの方に歩いていく鈴木と琴音の姿を見ながら言った。声が届かない距離まで来た時に茜が溜め込んでいた本音を言ってきた。


「あんた、ほんっとバカだよね」

「なんで」

「さっき、どさくさに紛れて『琴音』って言ったよね!」

 つい口から慣れた呼び方が出てしまった。やはり気付かれたのか。


「やばいよ、はっきり言って」

「気付いたかな、やはり……」

「その前の琴音の視線を考えると気づかない方がおかしいかもね」

「やはり茜も気づいてたのか」

 あの視線はやばかったよな。あれじゃあ恋に恋する乙女の表情だ。下手すればもう関係があると思われても何も不思議ではない。


「どっちの恋人か、あの瞬間分からなかったよ」

「追うよ! 何か言い訳考えといて」

「分かった」

 鈴木が琴音にさっき言った言葉に不安の色が含まれていた。さすがに勘づいたか。下の名前を呼び捨てで呼ぶ異性の友達もまあ少ないよな。しかも彼氏の前だとほぼないだろう。鈴木が棄権するなら、ここで暴露するしかないか。折角ここまで来たのにな。圭吾と茜は、琴音と鈴木の後を追った。


―――


どうなってしまうのでしょう。

まさか驚きの展開ですね。


このまま、イベントには出ないのか、それともなんかいい方法があるのか。


とりあえず圭吾と琴音の未来を頑張れと思ってくれるなら、星、フォロー、いいねよろしくお願いします。

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