第39話 クリスマスコンテスト その2

 130組、260名が体育館のような大きな部屋に集められていた。高校生カップルから40歳くらいのカップルまで様々な人がいた。

 ざっと見たところ、高校生くらいが3割、わたしのような大学生が5割。それ以上の人が2割くらいだ。

 カップリングコンテストと言うことでイチャイチャしている人も結構いる。記念受験ならぬ、記念参加しているカップルも多そうだった。


「がんばろうね」

「琴音のために頑張るよ」

 鈴木がデートから微妙に良い人に見えるので気が削がれる。ただ、浮気を暴露しないことには、わたしは結婚させられてしまう。それだけは絶対避けないとならない。


 主催者の人がやって来た。


「すみませんがホームページのURLにアクセスください」

 事前にもらっている参加者用のURLにアクセスする。本日のタイムスケジュールが書かれていた。13時までにインスタを撮影してこちらのURLに一枚の写真を載せて欲しいと言うことだった。結果は14時の時点で分かる。テレビ放映は18時からになっており、選ばれた10組以外はこの時点で解散してくださいと言っていた。

 選ばれた10組は17時にサンテレビ本社に集合する。18時からのテレビ放送に出演するためだ。テレビ枠は2時間だけれどインスタの撮影場面を流すため、実質は18時半から19時半の1時間。残り30分は優勝者のインタビューなどに振られていた。

 

「動画のURLを送りましたので見てください」

 イベント用のメールボックスにURLが配信される。動画を再生した。3分程度の短い動画だ。見たことのあるナレーターが禁止事項を説明する。喧嘩など暴力行為の禁止。撮影者への妨害行為の禁止。事前撮影の禁止。これらの行為は絶対行わないでくださいと言う説明もついていた。禁止事項をした場合、即失格扱いになるとのことだった。


 説明が終わると会場から出て自由にしていいとのことだった。撮影時間の11時になるとインスタに投稿の受付が開始される。


「どこで撮影しようか、琴音のお勧めある?」

「うん、今から行こうか」

 撮影場所は決まっていた。圭吾と茜で色々議論した結果だった。茜がホテル関係者だからこそ知っていた場所。わたしはホテルオークラ神戸に向かった。


「あれ、琴音ちゃん、ハーバーランドで撮影しないの?」

「うん、友達の茜がお勧めのスポット教えてくれたんだ」

 先程いた多くのカップルはハーバーランド内で撮影場所を探しているようだった。ここで撮影しても同じような写真になってしまう。

 撮影場所は、ハーバーランド周辺。モザイクまでが含まれる。観覧車に乗って撮影するというカップルも何人かいるようだが。観覧車内は締め切った空間で視界も悪く思ったように撮影できないとのアドバイスを受けていた。


 ホテルオークラ神戸の水の流れる噴水側の階段を上がり、ロビーに入る。


「あれ、琴音ちゃんの友達ってここでバイトしてるの?」

「うん、ここのウエイトレスをしてるのよ」

 ロビー前の喫茶カメリアを指差すと、微妙な顔をした。まあ、そうだよねここで逢引きをしてたのだ。焦るのも分かる。

 珍しく鈴木が所在なさそうに左右を見渡した。


「その娘、何か言ってた?」

「なんのこと?」

 右に首を傾げて知らないふりをした。


「いや、こっちの話。知らないならいいんだ」

 鈴木は口に指先をやり、カメリアの方を振り返り暫く考えていた。考えがまとまったのか。


「あー、いいんだ。行こうよ」

 と、ニッコリと笑った。

 カメリアで食事をしなかった鈴木はバレてないと思ったのだろう。顔色にハッキリと出ていた。鈴木はわたしよりも嘘が下手なのかもしれない。長年拒絶していたので、知らなかったがかなり分かりやすかった。


 琴音はロビーから一つ階段を降りMEZ階へと足を運んだ。MEZ階は一階とロビーのちょうど間の階になる。衣装サロンに入ると店員が近づいて来た。


「鈴木様、白石様でございますね」

「琴音、どういうこと?」

「まあまあ、いいからいいから」

「本日のご試着ありがとうございます」

 鈴木とわたしは着替えスペースに入った。鈴木はタキシード、わたしはウエディングドレスだ。この衣装替えにはかなり嫌抵抗があったのだが、優勝するためには仕方がない。

 ウエディングドレスは茜の提案だった。


 ウエディングドレスの着替えは一人では出来ない。専門のスタッフがついて着替えを手伝ってくれる。


「すごくお美しいのできっと最高のお写真が撮れると思いますよ」

 スタッフの女性は衣装を調整しながら笑顔で言ってくれた。ウエディングドレスを着るなら相手は圭吾が良かったよ。折角だから着替えが終わった後に写真を撮影してもらいLINEに上げた。


(うわ、無茶苦茶可愛いよ。こんなウエディング姿、モデルでもなかなかいないぞ)

(そうかな、お世辞でもありがと)

(お世辞なわけないだろ)

 顔が火照るのを感じる。


「お友達ですか?」

 楽しそうにやりとりをしてたのを見てスタッフが微笑みながら言ってきた。


「まあ、そんな感じですね」

 曖昧に答える。流石に彼氏ですなんて言えるわけがないし。


 着替え室から出たわたしを鈴木が出迎える。


「無茶苦茶、綺麗だよ、うん」

「ありがとう」

 鈴木に言われても嬉しくはないのだが、一応答えておく。


「結婚式もここでしようか」

 鈴木が思ってもいない発言をする。そうか、確かに自然な流れだな、と気づく。


「うーん、まだデートもこの前しただけだし」

「だよな、それにしても驚いたよ」

「なにが?」

「優勝したらの話覚えてるだろ」

 思わず空を仰いだ。そう言えばそんな約束してたっけ。その前に終わる話だったので、正直なところ完全に忘れていた。


「実はここのホテルの最上階を予約してるんだ」

「えっ、えええっ」

 あまりの突然の告白にもの凄く驚いた。と言うか浮気相手と行ったホテルを予約するなんてあり得なくないか。


「ダメだったかな?」

 やばいやばい思わず素の表情がでた。愛想笑いを浮かべながら。


「うううん、嬉しいよ」

 視線を外して恥ずかしそうに言う。顔を合わせたらバレる。ここは態度で誤魔化そうと思った。


 女性スタッフと一緒にエレベーターで35階に上がる。ウエディングドレスのヒールが高くスカート丈が長いので足元に注意をした。

 基本、ウエディングドレスは男性との身長差を埋めるために高めのヒールを履く。鈴木は身長175センチ。160センチのわたしだと5センチの底上げが必要だ。


 結婚式場が35階にあった。本日は試着のため神父がいるわけではない。ちょうど祭壇から向こうがガラス窓になっていて、海が一望できる。茜が推していた理由がわかった。ここで結婚式のインスタを撮影すればかなりの確率で差を開けられる。


「ここで撮影しようか」

 ちょうど海が一望できて、教会だと分かる最良のスポットに立ち、鈴木を呼んだ。


 鈴木がわたしの身体に手をまわす。出来ればあまり近づきたくはないけれど、優勝しなければ、後の会見に持っていけない。折角準備をしたのだ。ここで失敗したら何をしているのかわからない。


 女性スタッフが、わたしのスマホで撮影してくれる。圭吾とのペアスマホは機能面がイマイチだが、こっちはデジカメ顔負けの高性能と言われる最新機種だ。スマホでの撮影で充分だと思ったので利便性も考えてこれで撮影をお願いした。


「はい、じゃあ撮影しますよ」

 教会の祭壇の前で抱き合う二人。そこから見渡すオーシャンビュー。撮影された写真を見て、鈴木も良くこんなところに気づいたな、と言っていた。

 

 撮影が終わればすぐに着替えた。クリーム色のリボンの付いたワンピースだ。冬用なので少し生地が分厚い。ここに黒のジャケットを合わせて着ていた。

 別にこの服も充分可愛いとは思うけど、特別感があった方がインスタ映えしそうだ。


 早速、インスタに上げてみた。予想通りSNSでの人気が高い。まだインスタに上げられている写真は半分くらいだが、話題の中心になっていた。


(誰、この娘、芸能人にいたっけ)

(聞いたことないけど、無茶苦茶可愛くない)

(うわ、彼氏羨ましすぎるだろ)

(あんたじゃ無理じゃない。彼氏も相当イケメンじゃん)

(うるせえな、俺の顔見たことあるのかよ)

 

 SNSを見てるとLINEの到着音が鳴った。ペアスマホを出してみる。


(やっぱり凄いな)

(でしょう)

(彼氏イケメンだってさ)

(わたし別にイケメン好きじゃないし)

(でも、何も知らなければ、これだけの男に戦いを挑まないぞ)

(大丈夫、わたしにとっては圭吾がこの世の誰よりも好き)

(それ言われると、凄い嬉しい。ありがとう)

(いえいえ、こちらこそ。どういたしまして)


「なあ」

 思わず現実を忘れてた。危ない危ない。

 ペアスマホを鞄に隠して、笑顔を返す。


「これからどうする。夜まで時間あるし」

「うーん」

 わたしはこのまま、ここにいたいけどなあ。特に鈴木と行きたい場所はないけど、お腹が空いてきたので、一階でランチでもしようかと伝えた。


「了解しました。お姫様」

「えっ」

 虚をつかれた。ニッコリとした笑顔が絵に描いたように様になってた。


―――

読んでくれてありがとうございます。


琴音ちゃんの移り気には、圭吾も大変ですね。基本的に鈴木の顔が嫌いなわけでもないです。ここら辺微妙なライバル関係ができてしまわないか不安ですね。


圭吾頑張れと思ってくれたら、星、ブックマーク、いいねいただけると喜びます。


今後ともよろしくお願いします。

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