第38話「メアリーASMRに味を占める」

「ギルマス! 今週のギルドクエストアイテムですけど共有倉庫に入れておきますね!」


「ああ、助かるよマクスウェ……メアリー!?」


 声の主はメアリーだった。こんな事をする奴ではないと思っていたのだが……メアリーは自分のウイークリークエストすらこなせるか怪しいやつだったはずだ。


「どうしたんだメアリー? いつからギルドクエストをこなせるようになったんだ?」


「あぁ……ええっと……優しい皆様が渡してくれるんですよ」


 言いにくそうに言うメアリー、何か人に言えないようなことをしているのじゃないだろうか?


「メアリーちゃん、しょうがないにゃあとか言っちゃうクチですか?」


「こら! フォーレ! 言葉が過ぎるぞ!」


 下手をすればセクハラになりかねない発言をする妹を叱る。しかしメアリーが無償でアイテムをもらっているわけではないだろうし、気になることは気になる。


「あの、ギルマス、一つお聞きしたいんですけど……このゲームってASMRの提供は禁止されてましたっけ?」


「は?」


 いや……何を言っているんだコイツは? まさかクエストアイテムの出所って……」


「耳かきやささやき程度なら禁止されていないが……あんまり褒められた事じゃないな」


「そうなんですか……棒立ちしている人がささやいてくれたらアイテムをくれるというので子守歌を歌ったら報酬をもらえたのですけど……いけないことでしたか?」


「確かにプレイスタイルは自由だ、しかしそういう稼ぎ方を俺は勧めないかな……そういうことをする奴として名前が流れて押し寄せるかもしれないぞ」


 ネトゲにも十八禁ど真ん中ストレートのゲームはある。そういったゲームでやるのは当然と言っていいのだが、全年齢対象のノンリアルファンタジーオンラインでそういった行為をするのは多少のリスクが伴う。例えば厄介勢に目をつけられるなどだ。


「フレンドリストにその人、登録しちゃったんですけど……ギルマスぅ! どうすればいいですか? いけない事なんて思わなかったんですよぅ!」


「フレンドリストに入れただけの関係なんだろ? まだ間に合うから拒否リストに突っ込んでおけ。多分向こうもそういう塩対応には慣れてるだろうしそれ以上の接触はないはずだ」


 そう俺が言うと、メアリーはフレンドリストのウインドウを開く、内容は俺からは見えないが操作をして一人をもう一つ開いている拒否リストに登録していた。これで後腐れなく終わるはずだ。


「おかしいと思ったんですよ……ささやくだけで結構な金額をくれましたし、貴重なアイテムも分けてくれましたもん……そういうことだったんですね……」


「ネトゲにはそういう悪い人間があふれているから気をつけろよ。基本的に善意だけでこのゲームは動いてないからな」


 性善説は信じたいが、それが現実になっているかは別の話だ。匿名で出会うネトゲなど性悪説で接していくしかない。


「これでもう私は大丈夫ですかね?」


「メアリーちゃん、ちょっと待っててもらえますか?」


 フォーレはそう言うと答えを聞かずログアウトした。そして十分くらいして再びログインをしてきた。


「大丈夫っぽいですね。メアリーちゃんのIDや名前で検索をかけてみましたけどヒットしませんでした。これ以上グレーゾーンに手を出さなければ大丈夫だと思いますよ」


「ありがと、フォーレちゃん」


「私もギルドは平和の方が良いですからね」


 そう言ってフォーレは話を切り上げ、無事トラブルに発展することはなかった。俺も翌日朝にコンピュータを起動してメアリーの情報を検索してみたが、まったくヒットすることがなかったのでギルドは無事に運用出来そうだった。

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