第37話「スマホで代用」

 ギルドハウスにログインすると、マクスウェルがおとなしく円卓について周囲を見渡していた。やたらとキョロキョロしているばかりであまり動こうとしていない。


「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」


 おっとチャットが入ってきた。


「どしたー?」


「マクスちゃんですけどコンピュータが故障中らしいです。モバイルでログインしているので激しい動きは出来ないんですって」


 ああ、モバイルを使っているのか。一応モバイルデバイスでもケーブルを繋げばこのゲームはプレイ可能だ。とはいえ圧倒的な処理能力の差から、モバイルデバイスで敵味方入り乱れて戦うような戦闘は出来ない。待ちを見て歩く程度なら不自由はしない程度のスペックが最新のデバイスならある程度だ。


「マクスウェル、気の毒だったな」


 マクスウェルはギギギと不自然に振り向いて答える。動きの不自然さからデバイスのスペックが下がっていることがよく分かる。


「まったく敵わないわね……自然故障ほど面倒なものは無いわよ」


「マクスちゃん、呼びのマシンは持っていなかったんですか?」


「有るんだけどね……そっちはグラフィックデバイスがこのモバイルよりレベルが低いのよ」


「あー……グラフィック関係は高いもんなあ……」


「保証期間内だったのが幸いだったわ、新規で買ったらお給金の三分の一くらい飛ぶわよ」


 そこにフォーレが割って入った。


「マクスちゃんはハイスペックを求めすぎじゃないですか? グラフィックなんて最低設定で人間の目からしてカクカクしていない程度に滑らかならいいんですよ」


「フォーレちゃんはあんまりこだわらない派なの? 私は美麗なグラフィックを楽しんでるんだけど」


「脳内にデータを流している時点である程度は綺麗じゃないですか? それ以上を求めて、人間が見えないようなものを見えるような解像度にしてもしょうがないと思いますけど」


「可愛いものはより可愛く見たいのが人のサガってものでしょう? さすがに十八禁MODとかは入れてないけどね」


「そんなMOD入れてたらドン引きしますよ」


「このゲーム全年齢なんだから闇の深い話題をギルドハウスでするな」


 俺とフォーレのツッコミが入る。そう言うものの存在は知っているが大っぴらに話にするんじゃない。


「ま、とにかく交換対応になったから交換品が届く明日まではここでのんびりしてるわ」


「そうですか、マクスちゃんはお金持ってますね!」


 金の匂いがしたとたんにすり寄る妹。大方ガチャの外れ報酬でも分けて欲しいのだろう。


「私は給料をこのゲームに全振りしているだけよ。というかマジで他に使い道が無いのよ。仮想アルコールなら二日酔いも無いけど、マジモンのアルコール飲んだら次の日死ぬ思いをするわよ? デスマの合間にこの程度の楽しみは認めて欲しいものね」


「まあまあ、一杯マクスちゃんに奢ってあげますよ、たまには私の奢りで飲むのもいいでしょう?」


「フォーレちゃんにしては甘いわね……フフフ、いいわ、飲みましょう!」


 相変わらずのカクカクした動きでマクスウェルは酒を飲み出した。フレームレートが一人だけ低く、俺が滑らかな動きで事務処理をしている中、フォーレはまるで本物の液体を飲むようにビールを飲んでいた。ただマクスウェルだけが離散的な動きで目に見えてカクついていた。


「プハァ! なんか皆が滑らかに動くような気がするわね!」


 マクスウェルは酩酊感による錯覚でフレームレートの差を脳がカバーしている様子だった。翌日はフォーレにビールのお礼としてガチャで手に入った使い切りの景品をいくつか渡していた。結局、皆それなりに無難に終わり、ギルメンが欠けることもなく無事復旧したのだった。

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