第3話

三日後、ついに出発の時が訪れる。


遠征があるからだろうか、俺はいつもより1時間ほど早く目覚めてしまった。


俺は着替えてすぐにグラウンドに出た。

いつもは大量のテントと共にたくさんの人がいるのだが、まだみんな寝ているようだった。


そんな時、後ろから声をかけられた。


「おお、黒石か!」


「今日はいよいよ遠征の日だな、頑張れよ!!」


「あ、ありがとう・・・」


その声は少し活気に欠けていた。


「どうしたんだ?」


「まあ少し、緊張というかなんというか・・・」


「怖いのか?」


「どうだろうか、それは俺にもわからない・・・」

正直自分たちの実力なら大抵のベインなら倒せるのでそこまで遠征自体に不安は無いが、やはりいつも一緒だった仲間と離れるというのは少し寂しい。


「でも、千守や天峰たちはすごいやつだよ、たった7人で人で1000人以上の人々を守ったんだ。俺たちには到底できない・・・」


「そう言ってくれると嬉しいよ。」


その後、俺と黒石は他愛の無い会話を少しだけ交わしたあと、それぞれが与えられた役職を全うするため校舎に戻った。


俺は校舎に戻るとまだ寝ていた東山を叩き起こして石火矢、高城の二人と合流した。


どうやら他の三人も俺と同じで少し不安と緊張が入り混じった様子だった。


そして、出発までの時間があと少しというところで俺たちは校門へ向かった。


俺たちが校門の前に立った時、遠征に行かないギルドメンバーだけでなく、藤清学園の生徒や先生、近隣住民の方々といったコロニー総出での見送りがあった。


「もしかして、俺たちめっちゃ応援されてない?」

暖かい拍手や歓声の中、東山が俺に囁いた。


「そりゃそうだろ」と俺は返したがどうもここまで応援されると人間はさらに緊張してしまうらしい。


特に高城はずっと下を向いていた。

「応援されてるんだ、堂々とした方がいいぞ。」と石火矢がバックアップを入れる。


校門が開き、石火矢が「じゃあ行くとするか・・・」と皆に声をかけたことで俺たちは前へ歩みだした。



初めてベインに遭遇したのは出発してから約30分後。


そこからさらに1時間が経過したが大したやつは現れなかった。

どいつもこいつも基本的にワンパンだ。(どちらかというとそちらの方がうれしいのだが・・・)


そして、俺たちはずっと前に進んでいるわけだが、新たなコロニーはおろか、生存者すら見当たらない。


とうとう高城が「何も見当たらないですね、歩きっぱなしもしんどいですし、どこかで休憩しませんか?ちょうどそこに公園(だった場所)がありますし。」と言い放った。


さらに・・・

「え、俺たちこんなに応援されてんのに何も見つけられなかったらヤバくないか?」と東山に至っては遠征自体の危険性より成果の方を心配する始末である。


そんなこんなで俺たちの中でそろそろ何か発見が無いとマズイという空気が充満してきたその時、俺たちはあるものを発見した。


それを見て一同は驚愕する。


「パンツだ・・・」


そう、まさかまさか、住宅街のど真ん中で女性もののパンツが落ちているのだ・・・


「おいおい、こんな都合の良い展開があっていいのかよ・・・」

俺が心の中の叫びを口に出したとき、目の前には変態がいた。


「おい東山!それ、拾うなよ・・・」


「そうですよ、東山先輩!!先輩はただのロリコンで変態ではないと思ってましたけど、もしかして先輩は変態ロリコンなんですか!」


石火矢と高城が静止させようと試みるがそれでも”変態”は止まらない。


しかし、純白のそれは一人の変態を虜にするには十分な効果があった。


「悪いな、これが男の宿命ってやつなんだ・・・」

そう言って彼はそれを手に取り匂いを嗅ぎ始める。


東山以外の三人が彼の衝撃的な行動に唖然とする中、三人うちのひとり、石火矢があることに気づく。


「東山伏せろ!!!!」


「えっ?!」


彼がそう声を発した時には既に遅かった、かと思われたが高城が機敏に反応し、東山を押し倒した。


そのコンマ数秒後、ドゴゴゴゴゴ・・・・とまるで地震でも起こったかのような轟音と共に眩い光の光線が俺たちの眼前を通り過ぎた。


振り返った時には俺たちの後方にあった建物はその轟音と共に焼き尽くされていた。


「な、何があったんだよ、石火矢・・・」


「説明は後だ!!お前ら全員電装ガーメント纏っとけ!!」


「お、おう。≪電装展開ガーメント・オン≫」


一同が電装ガーメントを纏った後、俺は石火矢に何が起こったのかを聞いた。


「狙撃だよ、東山のやつ、うまい具合に引っ掛かりやがって・・・まあ敵を『視た』から今から片付けに行く。取りこぼさないようにアシスト頼む!」


「『視た』のか、流石だな・・・」


まあな、と石火矢が言うと、彼は駆けた。


正確に速さを測ったことは無いが、電装ガーメントを展開している俺でもこれを目で追うのは無理だ。


そう、これが彼の強みの一つ。

スキル≪韋駄天スカンダ・ヘブン≫。


視認した対象の元へ爆速で駆ける。

シンプルだが最強のスキルの一角と言ってもふさわしい。


ただ、唯一の弱点は対象がいないと発動しないという点。

例えば100メートル先にいる敵に向かっていく場合は発動するがそこに誰もいなければ発動しない。

つまり、基本的に攻めの手としては使えるが、回避、逃亡には使えないのだ。


まあそれでも近接戦闘ではかなり使えるには事実だ。


そして、当の石火矢はというと・・・


家の屋根の屋根の上を駆けていた。


「いた、コイツだ・・・」


そう言って俺はやつの背後を取るように旋回する。


やつは俺が向かってきたことに気づいてはいるが、恐らく見失っているのだろう、辺りを見回しているだけだ。


そして俺は背後を取り、鞘に手をかける。


対象まであと10メートルといったところで俺は鞘から刀身を出した。


あとは仕留めるだけ・・・


そして、俺はやつに斬りかかった。


キンッという鈍い音で俺はそれが失敗に終わったことを理解した


「クソ、失敗か・・・しかもよりによって女の子かよ・・・」


「あら、君強いね、あなた・・・けど奇襲は趣味が悪いんじゃない?」


声の主は白銀の髪をなびかせながら、白い弓矢を持っていた。

そして、その碧い眼差しとあまりにも綺麗に整えられた容姿は彼女の純粋さを物語っていた。


「てっきりレベル100前後の中堅クラスかと思ってたけど、実際はレベル200前後の実力者ってところかな?」


「それはあんたもだろ、というかなんで俺たちを襲った?」


「”死神の会グリム・リーパー”のメンバーが何とぼけたことを言ってるの?」


「”死神の会グリム・リーパー”???何だよそれ?!」


「しらを切るつもり?大人しくしてたら殺さないでおくつもりだったけどもういい、やっぱり殺すね!」


いや、あんなデカい技撃っといて殺すつもりがなかったなんてよく言えたなと思った時には既に彼女は弦を引いていた。


俺はとっさに飛んできた矢を躱したが矢は一発では終わらない。


気を抜けば一瞬で串刺しになるくらいの矢が俺めがけて飛んできた。


恐ろしく速い連射速度。恐らく1秒間に3発以上撃っている。間合いを詰めることができない。


アレを使うか・・・


空斬りカラギリ≫!!!


俺の空中での斬撃が彼女を襲う。

さがしかし、弓矢の威力が少しばかり高いため相殺されてしまった。


唯一俺が会得している遠距離攻撃スキルが通用していない・・・


千守や東山、高崎たちの到着を待つしかないか。


クソ、これだから遠距離系の攻撃使ってくる敵は苦手なんだよな・・・


そう思い、俺は逃げの一手に賭けた。


「あら、さっきから逃げてばっかりでろくに攻撃してこないじゃない、ついに戦意喪失しちゃったのかしら?」


あいつの挑発に乗っちゃいけない、ムキになっ正々堂々戦ったら俺は死ぬ。

心の中でそう自分に言い聞かせる。


その後、俺は彼女の攻撃を延々と避け続けるのだった。


一方その頃、千守たちも人間との会敵を余儀なくされていた。

「なあ、お前らって”銀の盟約シルバーコンパクト”の連中だよな?」


しかも人間が敵だと?

一体何が起きてるんだ??


とにかく俺は泉のように湧き出てくる疑問を無視してコイツとの戦闘をうまく乗り切らなきゃいけない。


そのためには東山、高城との連携が必須だ。


そして俺はそのための策を全力で導き出そうとしていた。

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エンデイル・リオン 鯉王 @koiousama

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