第2話
「さて、定例会議を始めようか・・・」
天峰の低く、厳かな声が室内に響いた。
「まず、今回呼んだのは他でもない、自分たちのコロニーの外についてだ。」
「今まで学園の半径1キロメートル辺りを探索してきたが見つかったのはわずかな生存者だけだ。
おそらく今となってはプレイヤー以外での生存者は皆無だろう。」
「よって今日から三日後、大規模遠征を行うことにしようと思う。質問、異議はあるか?」
「ちょっと待った!! いったいどのメンバーでどの範囲を探索するつもりなんだ?」
まず初めに東山が口を開いた。
「そうだな、強い
「そして、肝心のメンバーだが、石火矢には必ず行ってもらいたいんだが・・・」
そう言って天峰は石火矢の方を見ている。
「構わないが他のメンバーはどうするんだ?」
石火矢は軽くため息をつきながら答えた。
「そうだな、行きたい奴いるか?」
まさかの志願制かよ・・・と思いながらも外の世界を旅してみたいという好奇心はあったので手を挙げることにした。
「おっ、千守も行くのか?」
なんだか天峰は嬉しそうだ。
「どうせお前は行かないんだろ?」俺は不満そうに答えた。
「当たり前だろ、俺はギルドマスター。何があってもここを離れるわけにはいかない。」
都合の良い言い訳だと思いつつも、頑張って自分の中で納得させた。
「東山、お前もどうだ?」
「お、俺?!いや、無理無理無理、絶対無理。なんで俺がそんな危険なことを。千守や石火矢ならどんな強い敵が来ても問題ないかもしれないが俺からしたらコロニーの外を出歩く時点で自殺行為だ!」
かなり嫌がっているようだが天峰がすかさずフォローを入れた。
「まだ遠くには生き残っている女の子たちがいるかもしれないぞ、その子たちを頑張って救出すれば・・・」
悪魔のささやきだ。
「全く、仕方がないな。行くことにしようと。」
切り替えが早い、いや、早すぎる。
「それじゃあ僕も行きます。」
「よし、分かった。じゃあ高城、頼んだぞ!」
「はい!」
その返事には年下という独特の初々しさとエネルギーが溢れていた。
「それじゃあ行くメンバーは石火矢、千守、東山、高城の四人に決定する。だいたいどの辺に行くかはその四人で決めてくれ。」
俺たち四人は了解し、細かいルートを決めようとしたとき、バタンと生徒会室の扉が開いた。
「突然すみません、看護係の黒石です!先程救助された女の子が目を覚ましたのですが、話したいことがあるとのことだそうです。」
「なるほど、わかった。この子を見つけたのは誰だ?」
「千守です。」
「じゃあ俺と千守はその子の所へ行こう、遠征に行かないやつはもう自由にしてくれ。」
そう言った天峰は俺を連れて保健室に向かった。
「お、俺も行っていい?」
ここで声をあげたのがまさかの東山だった。
しかし、瞬く間に周囲から『お前は絶対行くなよ』と釘を刺されてしまう始末だった。
保健室の一部屋には先程助けた女の子がいた。
今は疲れも少し取れているようだ。
「こんにちは、俺の名前は天峰隆太、そっちは千守崇、君の名前は?」
「ほ、本田春です・・・」
少し緊張しているのか少女は細々とした声で喋っている。
「そうか、春ちゃんっていうのか、ここはもう安全だから安心しな!」
そういって天峰は少女の肩をポンと叩いた。
「うん・・・だけど・・・パパやママは・・・」
「すまない、もう少し到着が早ければ救えていたかもしれない。」
そうだ、彼女に一番言わなければならないこと、どんな慰めの言葉よりも大事な一言を言うのを忘れていた。
天峰の言葉には冷たく感じるところもあるがその中にはしっかりとした誠意が込められていた。
「けど、お兄ちゃんが来てくれなかったら私も死ぬところだったから。」
彼女は優しかった。それは彼女本来の優しさなのか、両親の死が招いた結果なのか、果たして。
「こういうことを聞くのもあれなんだけどさ、君のパパやママを殺したのってさっき俺が倒したゴーレムかい?」
そう俺は尋ねた。
しかし、その返答は明らかに俺の予想の範疇を超えていた。
「違うよ・・・・・・化け物じゃない、人間だよ。」
頭の中で衝撃が駆け巡る。
あの天峰でさえ動揺を隠しきれていない。
「その人の格好は?」
「私ずっとクローゼットの中に隠れてたから詳しくはわからないけど、その人はナイフでママやパパを刺したんだよ。」
「おそらく大災害によって刑務所から逃れた犯罪者ってところか。」
それが天峰の出した結論。無論俺の物とも寸分たがわない。
「まあしかし、これで今回の遠征の目的が一つ増えたな。」
俺はコクリと頷く。
生存者を危険に晒すようなことは絶対に許してはいけない。
その後、その少女と他愛のない会話をし、コロニーを案内した。
最初は避難所のようだったこの場所は一種の村になっていた。
グラウンドは数多のテントに溢れており、市場が形成されていた。
なんだかんだ元からあった通貨も機能しているのだが、コロニーが形成されたときにコロニーの入り口でオンライン換金所が利用できるようになった。
これはもともとゲーム内にあったシステムで、モンスターを倒したときにドロップするアイテムやそれらを加工して得たアイテムを売るためのものだったが、今は換金だけでなく日用品などが購入できる仕様になっていた。
もちろんそこには人はおらず、ゲーム内にも存在したバーチャルアバターのギギ君が店長を務めていた。
ギギ君はアンドロイドで、しゃべるのは少しカタコトだがたまに良い情報を教えてくれるいいやつだ。
とにかく、市場や換金所などの案内を一通り終えたところで俺は彼女を黒石に託し、その場を後にした。
少し足早に生徒会室に戻ると、既に遠征に行くメンバー以外はどこかに行っており、自分を含めた四人だけが静かにたたずんでいた。
「三日後、どうする?」
石火矢が三人に問う。
「北に行く。あと、そこには生存者を殺す生存者がいるらしい。」
「生存者を殺す生存者?どういうことだ?」
石火矢は食い入るようにこちらを見ている。
「おそらく刑務所で服役中だった犯罪者が運よく生き残り、それだけでなく、他の人間を殺してるってことだよ・・・」
「おい、マジかよ!? そんなことって・・・」
東山も動揺を隠せていない。
「あのー、その人って殺すんですか?それとも捕まえますか?」
「ごめん高城、まだそこは決めてなくて・・・ けど・・・」
「けど?」
「対話ができれば捕まえる。そうでなければ殺そうと思う。」
「確かにな、それが最善手だろう。」
石火矢は納得したようだ。
「えー、俺たちついに人殺しまでするのかよ・・・」
「東山、今この国にはルールがない、なんでもしていいんだ。」
鋭い言葉の矢が東山をけん制した。
「わかってるわ、そんなこと・・・」
ふと窓の方を見た、まだ完全にとはいかないが空が暗くなってきている。
「そろそろ夜だし、解散する?」
そう俺が言って今日の定例会議は完全に終了した。
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