第33話 決断

「私が魔力を流したら、もう結婚したことになるんでしょ?

 そうしたらもう無かったことにはできないのよね?」


「そうだよ。だからリアが後悔しないと思ったら流して。」


「ジルは、後悔しない?」


私の言葉に驚いたように視線を合わされる。

思わず目をそらそうとして、両頬に手を添えられた。

すぐ近くにジルの目がある。眼鏡のない、私だけが見れる素顔のジル。

じっと目を合わせてくるから、そらして逃げたくなる。


「もしかして…怖がってる?リア?」


「…怖いの。ジルが後悔するんじゃないかって。」


ここまで来ても自信が無かった。

もし、一度でも、ちょっとでもジルが後悔するようなことがあれば、

私はもう立ち直れないと思った。


魔力暴走のせいでジルの魔力を受け取ってしまった。

意識がない死にかけた私を助けるために、

あまり考えないで魔力を流してくれたのだろう。


でも今は?誰も死にかけてない。

冷静になった時に、それでも私で良かったと思ってくれるんだろうか。

怖かった。ジルを自分のものにしてしまって、本当に良いんだろうかと。


「その怖い気持ちも、俺に全部くれないか?」


「え?」


「魔力って、感情も一緒に流れてくるんだ。

 俺はリアの気持ちも全部受け止めたい。

 良い感情だけじゃなくて、怖いとか不安だとか。

 そういうのも全部ひっくるめて、俺のものになってほしい。」


「…いいの?」


「うん。いいんだよ。」


抱き着いて、そのままくちびるを合わせる。

どこから流れて行くのかわからないくらい、全身で魔力を伝える。

好きだって思いも、今までのつらかった記憶も、これから一緒にいたい希望も。

全部全部流れて、どこまでも続いていくように流れて。

全てを受けとめてもらえたと思った時、魔力の流れが止まった。


「終わった?」


「終わったよ。リア、ありがとう。うれしい。」


「うん。こちらこそ、ありがとう。」


そのままもう一度キスしたら、もう止まらなかった。

婚姻するまではとジルが我慢してくれていたけれど、もう我慢はいらない。

キスしたくちびるは離さずに、夜着が脱がされて行く。

気が付いたらお互いに裸で、言葉は交わさなかったけど、

求められているのがわかってうなずいた。


もうすべてをジルのものにしてほしい。

強く抱きしめられ、ぎゅっと目を閉じた。






魔力交換したらしばらくは顔を見せられないって、こういうことだったんだ。

気が付いたら三日が過ぎていて、またミトに心配をかけてしまっていた。

一応ミトはリンとファンから説明を受けていたようだけど、

レミアス国とは違う習慣に信じられなかったようだ。



「まだ不安がある?」


「ううん、大丈夫。」


魔力交換したせいなのか、不安や怖さが薄れていた。

もしかしたら本当にジルが持って行ってくれたのかもしれない。

ジルが国王になるのか宰相になるのか、もうどちらでも良かった。

二人でいれば、何とかなると思えた。


ちょっとだけ心配そうなジルに微笑んで、自分から飛びつくように抱きしめた。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

クズ王子から婚約を盾に迫られ全力で逃げたら、その先には別な婚約の罠が待っていました? gacchi @gacchi_two

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ