第32話 魔力交換

「あーリアージュ王女、昨日の夜は迷惑かけたようだな。

 たびたびこちら側の不手際で申し訳ない。」


朝になって執務室に行くと、真っ先に陛下から謝られた。

昨日のってシャハル王子とジャニス王女のことよね。

ジルからは説明もないし、いったい何だったんだろう。


「迷惑って言いますか、何だったのかわからなかったのですけど。」


とりあえず何が起きたのか説明してほしいと思っていると、

陛下ではなくお義父様が答えてくれた。


「俺から説明するな~。まったくシャハルにもジャニスにも困ったもんだ。

 昨日の夜、ジルアークから前もって言われていてな。

 ジルの離宮の部屋の扉に罠を仕掛けると。

 おそらくジルアークかリアージュの部屋に夜這いに来るだろうと。

 その可能性もあると思って許可を出したんだが…。

 結果、どちらも来たってことだ。」


「え?お義父様、夜這いですか?本当に二人とも?」


「そうだ。シャハル王子にしてみれば、

 リアージュが王宮にいるから最後のチャンスと思ったんだろう。

 ジルアークがリアージュと結婚すれば、王太子になる可能性が高い。

 自分がリアージュと結婚できないのなら、ジルアークとも結婚できなくしてやる、

 そう思って夜這いをかけたそうだ。」


あきれた…そんな理由で私に夜這いしようとしていたなんて。

どこまでも最低な王子だ。


「ジャニス王女はジルがあきらめきれなくて、ですか?」


「ああ。恋人がいると言われても納得できなかったそうだ。

 ジルアークに媚薬飲ませてでも襲うつもりだったようだ。

 一晩過ごして、その責任をとってもらう形で結婚しようとしたんだろう。

 捕らえられた時は、夜着姿で媚薬の瓶と香を持っていたよ。

 魔術で姿を消して離宮まで行ったんだろうが、罠には魔術無効化もかけてあった。

 …その姿で衛兵たちに引きずられてくるとは思わなかったけど、ジルアーク?」


「媚薬は持っているだろうと思って近づきたくなかったし、

 ジャニスの夜着姿なんて見たくも無かった。

 衛兵たちが見たとしても仕方ないだろう?

 そんな恰好でうろついてたんだから。」


私には夜着姿だからって言ってガウン着させたうえで隠してたのに、

ジャニス王女はそのまま夜着姿で引きずって行かせたの?

未婚の王女なのに?衛兵たちに見られちゃっていいの?

思わず無言の圧力をかけてジルを見るけど、

俺には関係ありませんって顔で目をそらされた。

そんなにジャニス王女が嫌いだったんだ…。



「それで、どうするの?

 リアは王女扱いなんでしょ?

 他国の王女が寝ている部屋に押し入ろうとするってアウトだよね。

 ジャニスも媚薬を持ち込もうとしていた時点でダメでしょ。」


「そうだな…もう廃嫡するしかないか…。」


おそらく眠れなかったと思われる陛下が沈んだ声で答える。

目の下にはくっきりとクマが出来ていて、治療してあげたいくらいだ。

魔力交換のために魔力をためている最中なので、そんなことはできないのだけど。



「二人とも王位継承権をはく奪。シャハルは幽閉する。」



レミアス国と話し合いの結果、

シャハル王子はカミーラと一緒にレミアス国の離宮に幽閉されることになった。

私が嫁ぐ国に二人を置いておくと、万が一の時に危ないという判断だそうだ。

二人は長い時間をかけ、檻が付いた馬車で送られることになった。


最後に挨拶するか聞かれたが、いい結果にはならなさそうだったので断った。

幽閉後は子どもができないように処置されると聞いたので、

本当に関わることはもう無いと思う。


ジャニス王女は亡くなった王妃の生家である侯爵家が引き取ることになった。

元騎士団長として厳しくて有名なお祖父様がいるという。

今まで孫たちと関わる機会がなく、評判の悪さに胸を痛めていたそうだ。

今回事件を起こしたことで、責任をもって心根を鍛え直すと言っているとのこと。

身分も王女ではなく、侯爵家の養女となる。

今まで令嬢たちを見下すような言動が多かったジャニス王女が、

これから令嬢たちに受け入れられるかどうかはジャニス王女次第だろう。


あの王女が聞く耳を持つかどうか疑問だが、

もし本当に心根を入れ替えることができれば、侯爵令嬢として嫁ぐこともできる。

一人残っているサハル王子が寂しそうなので、できればやり直してほしい。



「この国に嫁ぐの、嫌になっていない?

 シャハルには追いかけられるし、ジャニスには罵倒される。

 もうこれからは学園も静かになると思うけど…。

 つらい思いばかりさせてごめん。」



別邸に戻って来て数日、ようやく魔力が全て回復した。

今なら私の意思一つで婚姻が完了できる。

それに気が付いているジルが少し離れた場所から、寝台の上で待つ私に問いかける。



「どうして寝台に入ってこないの?」



「近づくと抱きしめちゃうから…。自動的に身体が動いてしまうんだ。」


自動的だったんだ。それは知らなかった。

すごく自然に抱きしめられるし、そばにいるなぁと思っていた。

その答えがおかしくて、思わず笑ってしまう。


「来て?自動的に抱きしめて?」


そう言うと大人しく寝台にもぐりこんでくる。

それと同時に首の下に手が回され、腕枕状態でぎゅっと抱きしめられる。



「シャハル王子やジャニス王女のことは大変だったけど、

 ジルに嫁ぐのが嫌になったことは無いよ?」


「本当?」


「うん。」


額をくっつけながら話すと、すぐにキスされそうになって、首筋に抱き着いた。

キスしたいけど、まずはちゃんと話したい。

ジルはキスがよけられたとつぶやいてショックを受けている。

笑いそうになるけど、耳元でささやくように話を続けた。


「私が魔力を流したら、もう結婚したことになるんでしょ?

 そうしたらもう無かったことにはできないのよね?」


「そうだよ。だからリアが後悔しないと思ったら流して。」


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