第31話 あきらめない人

あきらめたのか抵抗もせずに歩いていくカミーラに、もうかける言葉は無かった。

あれほど嫌われていたけど、出会った当初は仲よくしようと思っていた。

妹ができるってうれしかったのに、どこで間違ってしまったんだろう。


「…あまり深く考えないで。

 どうしても仲良くなれないことだってある。

 全ての人に好かれようなんて思っても無理なんだから。」


慰めてくれるジルの言葉に頷きたいけれど、どうしても頷きたくなかった。

ただジルの胸に顔をうずめて、泣かないようにしていた。



「シャハル、お前はどうする?」


カミーラを捕まえた後、衛兵たちがシャハル王子が私室にいるところを発見した。

夜会も終わりに近づき、陛下とお義父様が退出してきている。

謁見室にいき、カミーラの処遇について話し合うことになった。

私はシャハル王子とは顔を合わせないように、少し離れたところで会話を聞いていた。


シャハル王子はカミーラのあの性格は知らなかったようで、

魔力の多さを期待して結婚する気になったらしい。

カミーラが石榴姫の孫ではなく養女で、魔力量が伯爵家相当だということ、

王太子じゃなければいらないと言っていることを聞いて、床に座り込んでしまった。



「…そんな。じゃあ、俺はもう魔力を増やせないのか?」


ぼそぼそとつぶやくような小さな声だったが、静かな謁見室内に響いた。

双子として生まれ、最初から魔力が半分しかなかったシャハル王子。

そのことについてはシャハル王子のせいではない。

魔力過多症で苦しんでいるサハル王子とはまた違う意味で苦しんできたのだろう。

カミーラを選んだことについても、魔力が目的でなかったらよかったのかもしれない。


だけど、その前に私を襲ったことも考えれば、自業自得ともいえる。

私とのことが無ければカミーラを娶る前に陛下に相談できただろうから。



「明日にはカミーラはレミアスに送られる。

 婚姻関係を続けるのは困難だと思うが、ついていきたければ止めない。

 このままカルヴァイン国にいても他の者と結婚することもできないしな。

 明日の朝にまた聞くから、私室にこもって考えなさい。」


答えが出ないシャハル王子に、陛下が猶予をあげた。

それでも明日の朝までという短い時間だけど。


おそらくレミアスについていけば、カミーラと一緒に幽閉されることになるだろう。

カミーラは私に危害を加えると発言してしまっている。

レミアス国王はそれを許さないだろう。

私はレミアスの王女としてジルと結婚することになっている。

もう私個人の問題だけではないのだから。




「ねぇ、シャハル王子はどうする気かしら。」


「わからないけど、これであきらめるような奴じゃない気がする。」


「まだ何か企むとでも?」


「…多分ね。」


話し合いが終わった頃はもう夜遅くで、明日の朝に引き渡しの使者に会うために、

ジルの持つ離宮に泊まることになった。

あらかじめそうなることも予想していたようで、ミトたちが泊まる準備をしてくれていた。

いつものように大きめの寝台の上に二人で転がって、眠くなるまで話している時だった。


ドンッ。

部屋の扉の向こうから大きな音と振動が伝わって来た。

何かの爆発音?



「何?」


「よし、かかったな。」


「かかったなって、何?」


「罠をかけていたんだ。すぐに衛兵たちが来る。

 リアはその格好だから、絶対に出てこないで。いい?」


衛兵たちが来る?こんな薄い夜着姿で出られるわけがない。

ジルにガウンを渡され、夜着の上から着た上で、寝台の中に潜って隠れる。

ジルが扉を開けると、誰かが倒れているのが見えたけど、あれは何?

蜘蛛の糸のようなものに巻かれて転がっているものが二つ。

もごもごして暴れているようだけど、人?


「誰が倒れているの?」


「俺も近づきたくないからここから見るしかないけど、多分シャハルとジャニス。」


「え?」


「あ、衛兵来た。この二人を今すぐ連れて行って。貴族牢でいい。

 陛下の許可は取ってあるから。

 え?ジャニスの格好?そのままでいいよ。

 そんな恰好してるのが悪い。罠ごと引きずって行って。」



どういうこと?

ジルが罠を仕掛けて、それにシャハル王子とジャニス王女がかかった?

ジャニス王女、謹慎中じゃなかった?

シャハル王子はカミーラのこともあるのに、何してるの?


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