第30話 呼ばれざる者

ジルと二人で開始のダンスを踊るとたくさんの視線を感じる。

次期王太子と思われているジルと婚約するということは、

貴族たちからは次期王太子妃という目で見られることになる。

それを意識しながら踊り、鳴りやまない拍手の中、王族席に戻る。

私たちの婚約を祝う夜会ということもあり、

高位貴族の当主たちがお祝いを述べにやってくる。

それらをすべて終えると、夜会も中盤に差し掛かっていた。


「そろそろお腹すいたし喉も乾いたよね?

 もう挨拶は来ないと思うし、奥の控室で食事しようか。」


緊張していたこともあり、喉はカラカラだった。

言われてみればお腹もすいている気がする。

エスコートされるままについていくと、奥にある王族用の控室についた。


王族は夜会の広間で貴族と同じように食事を取ることは出来ない。

そのため王族にはそれぞれ専用の控室が設けられているらしい。

ここはジルと私だけの控室だった。

私たちが部屋に入ってきたのを見て、侍女たちが食事を用意し始める。


「食事は用意されてるけど、飲み物は冷たい方が良いよね。

 すぐに用意させるから座って待っていて。

 俺は父上に声かけるの忘れたから、ちょっと行ってくる。すぐ戻るよ。」


「うん。」


控室は淡い黄色を基調としていて、木の家具が温かみを感じさせる。

大公家で選んだものだろうか。ゆっくりと落ち着けるような部屋だった。

なんだかほっとしてソファに深く沈みこんだ。







「お義姉様ぁ。」


扉が開いたと同時にかけられた声に驚いてそっちを見ると、

紫色のドレスを着たカミーラが入って来ていた。

あぁ、やっぱり来ていたんだ。

残念な気持ちでいっぱいになりながらも、

カミーラと会うのはこれが最後かもしれないと思い話しかける。


「カミーラ、どうしてここにいるの?」


「えぇ~?お義姉様こそ、どうしてここにいるの?

 シャハル王子は私がもらっちゃったのに、まだあきらめられないの?」


「?」


シャハル王子とカミーラが魔力交換したのは聞いたけど、

それが私と何の関係があるの?あきらめるって何?

カミーラの発言の意味がよくわからなくて聞き返したかったけれど、

そんな私には気が付かないようにカミーラは話し続ける。


「シャハル王子は~私の方がいいんですって。

 残念だったわね?お義姉様?」


「…ねぇ、カミーラ。何を言ってるの?」


「ここまで言ってもわからないの?

 シャハル王子は私と魔力交換しちゃったの。

 魔力交換しちゃえば、もう他の女とは結婚できないんでしょ?

 お義姉様と婚約していても、もう無理よね?」


もしかして、私の婚約者がシャハル王子だと勘違いしている?

驚きのあまり言いよどんでいると、カミーラは大きな声で笑いだした。


満面の笑みで、こんなに嬉しそうなカミーラは初めて見た。

シャハル王子のことを否定しなければいけないという気持ちよりも、

どうして私の不幸をこんなに願うのか、わからなくて戸惑ってしまった。



「きゃーはっはっ。勝ったわ。お義姉さまは私に負けたの。

 負けたお義姉様はさっさとレミアスに帰りなさいよ。

 レミアスに帰ってもまともな結婚相手なんていないでしょうけど~。」


「リアが帰るわけ無いだろう?」


「ジル!」


「なんかうるさいと思ったら、こんなとこに入り込んでるとは。

 シャハルはどこに行ったんだよ。」


衛兵を連れたジルが部屋に入ってくる。

それを見たカミーラの動きが止まった。

おそらく何が起こっているのか理解できないのだろう。


「シャハル王子は私に近付けないだろうから、

 どこか違うところで待ってるんじゃない?」


「ああ、そうか。リアに近づくなって陛下から命令されていたな。

 だけど、ここに入り込むってことは近くまで一緒に来ているだろう。

 衛兵に探させよう。で、何の話をしていたの?」


「ちょっ、ちょっと何?」


動きが止まっていたカミーラの横をすり抜けて、ジルが私の横に来て座る。

立ったままのカミーラはどうするのかと思ったら、

衛兵たちが取り押さえようとしていた。


「カミーラ、もう会うのは最後かもしれないけど、誤解だけは解いておくわ。

 私の婚約者はシャハル王子じゃないわ。

 ここにいるジルアークよ。」


「はぁぁぁ?王太子が婚約者じゃないの?」


「ジルアークは王太子候補よ。

 シャハル王子は第二王子で、王太子候補じゃないわ。」


「うそ!うそだわ!」


噛みつくように叫んで、こちらに向かって来ようとする。

それを衛兵たちが必死で腕をつかんで止めてくれているのがわかる。


「じゃあ、いいわ。その男と結婚してあげる。

 その男が王太子になるんでしょ?

 シャハルはお義姉様にあげるわ。交換しましょ。」


「は?」


「王太子にならないならシャハルはいらないの。

 だからお義姉様にあげるわ。代わりにその男をちょうだい。

 ねぇ、いいでしょう?お義姉様じゃなく私が結婚してあげるわ。」


どうしたらそんな発想になるんだろう。

魔力交換したら他の人と結婚できないって、さっき自分で言ってたのに。

今は満面の笑みでジルに向かって結婚してあげると言っている。

ジルはどう対応するのかと思っていたら、完璧な王子様のようににっこり笑った。

その微笑みにカミーラが見惚れたのか、頬が赤く染まる。



「カミーラだっけ。シャハルと結婚したんだろう?おめでと~。

 俺とリアは幸せに暮らすから、邪魔しないでね。」


「どうして?お義姉様よりも私の方がいいでしょう?」


「いや、俺はリアがいればいいし、他はいらないよ?

 リアほど素晴らしい人はいないから。

 どう考えても、カミーラはいらないな。」


ジルに微笑みながら拒否されて、カミーラの顔つきが変わる。

いつもの歪んだ顔を私に向けると叫び出した。


「っ!なんでよ!あんただけ幸せになるんて許さない!

 絶対に邪魔してやる。何度だって壊してやるんだから!」


「…ねぇ、カミーラ。もう会うのは最後かもしれないから聞くけど、

 どうしてそんなに私のことが嫌いなの?」


「…わからないところが本当に嫌だわ。本当に嫌い。大嫌い。」


「衛兵、もういいよ。連れて行ってくれる?

 貴族牢に入れたら、シャハルも拘束しておいて。」


「はっ。」

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