第29話 婚約のお披露目


広間にはもう王族以外の者は集まっているらしい。

その中にはシャハル王子とカミーラの姿は見えない。

もしかしたら途中で入ってくるつもりなのかもしれない。


私はジルと一緒に入場し、その後に大公であるお義父様とお義母様、

最後に陛下とサハル王子が入場する予定になっている。

レミアスでの夜会で王族としての出席は経験しているけれど、

他国で王族として紹介されるというのは意味が違ってくる。

緊張するけれど、ジルの婚約者として恥ずかしくないようにしなければ。


「リアちゃん、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。」


心の中で意気込んでいたら、後ろからお義母様に声をかけられる。

そんなに緊張しているのがわかるくらいなんだろうか。


「すみません。もともと夜会って緊張してしまうんです。

 特に今日はジルとの婚約発表だと思うと余計に緊張してしまって。」


「そんなに心配そうな顔しなくて大丈夫。

 そのドレス、リアちゃんだけの特別なドレスだし、よく似合ってるわ。

 誰よりも綺麗なリアちゃんを見せびらかしたくて仕方ないのね。ふふっ。

 みんなに自慢しましょうね。」


にっこり笑って言ってくれるお義母様も、

今日は地味な色のドレスではなく、あでやかな赤紫色のドレスだった。

すっきりとした形のドレスは身体の線がわかるだけ、

お義母様の素晴らしい曲線がはっきり見えて色っぽい。

そのお義母様にお義父様が見惚れてデレデレになっているのがよくわかって、

こんな夫婦になれたらいいななんて思ってしまう。


「そうだよ、リア。そのドレスはリアにしか着こなせないね。

 とても綺麗だよ。今日は俺に好きなだけ自慢させてほしい。」


今日のドレスは濃い赤で、胸元と腰にレースで出来た薔薇が咲いている。

胸はレースで隠しているが、背中が大胆に開いていて少し恥ずかしい。

濃い赤は石榴姫だけ、紫系の色は王族とその妻にしか使えない色だそうだ。

ジルは私のために、両方の色のドレスを用意してくれていた。


赤と紫、どちらの色にするか迷ったが、

今回はカミーラが紫色のドレスだと聞いたので赤にした。

少しでも揉める原因は減らしておきたい。無駄な努力かもしれないけれど。

ジルのタキシードは灰色っぽい銀色に差し色で濃い赤を入れてもらった。

石榴姫の相手として赤を入れたかったらしい。


そのあたりのルールはよくわからないけど、

私とジルだけっていうのは特別な気がして嬉しかった。

その上、婚約発表をするにあたって、大公家に伝わる首飾りをつけていた。

お義父様たちの婚約発表の時もつけていたそうで、大きな紫水晶が光り輝いている。

大公家の一員として夜会に出るのだと思うと、この重さも嬉しかった。


「ジルがそういう服装になると素敵すぎて…。大丈夫?

 ご令嬢方が寄ってきちゃうんじゃない?」


「ふふ。大丈夫だよ。俺には近づけないって言ってるだろう?

 でも妬いてくれたならうれしい。

 リアにはいっぱい令息が近づいてくると思うけど、俺が許さないからね。」


「うん。近づけないようにしてね?」


後ろでお義母様がくすくす笑っているのが聞こえて、ちょっとだけ恥ずかしくなった。

でもおかげで緊張していたのがほぐれた気がする。

名前を呼ばれたのが聞こえて、差し出されたジルの手を取って歩き出す。

広間に入ると光がまぶしくて、すこしだけ目を細めてしまう。

広間中にいる貴族たちの目が一斉にこちらを向いて驚いているのがわかる。


「ジルアーク様のお隣の方は誰?」


「どうして赤のドレス?他国の姫なのに石榴姫なの?」


少し声の大きい夫人が話すのが聞こえる。

留学してきていても、私のことは思ったよりも知られていなかったようだ。

そのままエスコートされるままに王族席について座る。

ジルの隣に座ると軽い悲鳴が聞こえた。



次にお義父様とお義母様が入場し、王族席に座る。

最後に陛下と一緒にサハル王子が入場するとざわめきが大きくなった。

今まで療養のために夜会に出席したことのない第一王子。

第二王子と第一王女がいないこともあるが、

いつもとは違う夜会の始まりに貴族たちの会話は止まらなかった。


「静かに。」


お義父様の威厳ある声が響いた。

静かにと言われて、ようやく広間が静まり返った。

陛下が立って夜会の開始を宣言する。


「本日の夜会は特別な意味を持つ。

 まず、第一王子のサハルが回復し、夜会に出席できるほどになった。

 学園にも復籍することになるだろう。」


おお、という声が聞こえる。サハル王子の回復は皆が待ち望んでいたのだろう。

喜びの声があちこちから聞こえてきた。


「そして、大公家のジルアークの婚約が決まった。

 レミアス国の第一王女、リアージュ王女だ。

 リアージュ王女は石榴姫だったエレーナ王女の孫娘で、リアージュ王女も石榴姫だ。

 再びカルヴァイン国に石榴姫が戻って、ジルアークと結ばれることになった。

 これで両国の友好も深まり、カルヴァイン国はますます発展してくことになるだろう。

 今日は祝いの夜会だ。さぁ、乾杯だ!」



「素晴らしい!」


「石榴姫が我が国に帰って来た!なんという喜びだ!」


「魔王様が石榴姫と婚約!なんてお似合いですの!」


もしかしたら受け入れられない令嬢もいるだろうと思ったのに、

聞こえてくる声は祝福の声ばかりだった。

ジャニス王女のようなことも覚悟していたのに、素直に喜ばれてほっとした。

そっと手に手を重ねてきたジルを見ると、微笑んでくれている。

大丈夫だよって笑いかけてくれたのだと気が付いて、私も笑い返す。


カルヴァイン国での初めての夜会は思った以上に歓迎された。

それが王女としてなのか石榴姫としてなのかはわからないけど、

受け入れられたことがただ嬉しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る