第27話 夜会へ

「夜会にカミーラを?」


「ああ。ドレスの注文がシャハルの名前であったらしい。

 おそらく夜会にカミーラを連れて来て、婚姻を発表するつもりだろう。」


「陛下の許可は…?」


「もちろん無い。」


あれからカミーラを学園で見かけることは無く、

シャハル王子たちから話しかけられることも無かった。

シャハル王子は王宮に帰っておらず、どこか離宮にいることはわかっていても、

カミーラの引き渡しを求める使者とは話し合いすら応じていなかった。


レミアスから来た使者はイルーレイド公爵家からではなく、

レミアス国王からの派遣だった。

カミーラはイルーレイド公爵家の手に負えないと判断されたのだろう。

以前からイルーレイド公爵家はカミーラに手を焼いており、

このまま公爵家で預かるのは難しいと王家で保護するよう要望していた。

学園や公爵家での態度だけでなくリアージュへの嫌がらせがひどく、

公爵家ではもうどうしようもできなかったからだ。

このままではカミーラを幽閉するしかない、そんな話すら出ていた。

リアージュをとりあえず留学という形で逃がし、

その間にカミーラをどうするか話し合いする予定だった。

まさかリアージュを追いかけてカルヴァイン国へ行くとは誰も思っていなかった。


無許可の出国、同盟国の学園への無断侵入、

大公家の婚約者となったリアージュへの嫌がらせ。

レミアス国王はカミーラをレミアスに戻し、離宮に幽閉することに決めた。

だが、第二王子のシャハルがかくまっていることで引き渡しが難しくなり、

カルヴァイン国王との話し合いの結果、

夜会に出てくるだろうカミーラを夜会後に捕まえることにしたそうだ。


シャハル王子と婚姻していたとしても、

陛下の許可が無いためカミーラは王族扱いにはならない。

カルヴァインの貴族ではないため出席する資格はないし、

レミアスの貴族だとしたら夜会への招待状が必要になる。

許可なく王宮に、王族貴族がそろう夜会に出席することは許されることでは無い。

どちらの国王もカミーラを捕まえることに異議は無かった。



「カミーラは夜会の後、レミアスに戻されるの?」


「捕まえて話を聞いた後、両国間で話し合うことになるだろう。

 カミーラ嬢は王族の血筋だし、シャハルと婚姻している。

 幽閉することには違いないだろうけど、

 どちらの国で面倒見るかが問題になるだろう。」


「そうね…シャハル王子とは離縁できないものね。

 もしレミアス国で幽閉されることになったら、

 シャハル王子もレミアスに行くのかしら?」


「…素直に行くとは思えないからね。

 だからと言って、カルヴァイン国で幽閉するのも難しいよな。

 離宮に置いておくのも大変そうだし…。」


「そうよね…。」


今までのカミーラの使用人達への仕打ちを思い出すと、

カルヴァイン国でも同じことが起きるのではないかと思う。

性格が変わらない限り、どこに行っても問題を起こしそうな気がする。



「それはともかく、今回の夜会は俺たちのお披露目でもあるからね。

 学園のものは知っているだろうけど、他の貴族たちはリアのことを知らない。

 話くらいは聞いているだろうけど、リアを初めて見るわけだから。

 きっと注目されるだろうね。」


「…苦手なのよね。夜会って。変に注目されるし。」


「変にって。リアが綺麗だからみんな見るんだよ?

 俺はリアが恋人だって見せびらかすつもりでいるから覚悟してね?」


そう言われると言い返せない。

私だってジルが私の恋人よって言いたい気持ちがあるし。

ジャニス王女とは一度も会えていないし、夜会では何か言われるかもしれない。

何を言われても平常心で返せるように頑張らないと。



夜会当日、私とジルは王宮内の離宮で準備を始めていた。

別邸で準備してから移動するのも難しく、ドレスがしわになったりしないように、

ジルの持つ離宮で着替えて準備することになった。


ジルはもうすでに準備を終え、陛下とお義父様と打合せをしてくると出ていった。

私の準備が全て終わる頃に戻って来て、一緒に広間に移動することになっていた。



「お待ちください!」


「この先へお通しすることはできません!」


部屋の外で衛兵が騒いでいる声が聞こえる。

誰かが離宮に入ってきた?この部屋に入ろうとしている?

ドレスは着替えているけれど、まだ髪を結っている途中だった。

こんな状態の部屋に来ようとするなんて、どれだけ礼儀知らずな人だろう。


「ミト、誰が来ているのかわかる?」


「聞いてきましょうか。」


近くでお茶を用意しようとしていたミトに声をかけると、

ミトは部屋の入口まで行って少しだけ扉を開ける。

外にいる護衛に小声で確認しようとして顔を出した途端、

ガッと扉を大きく開かれてしまった。


「え?」


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