第26話 賢王

「あぁ、そういえば報告がまた来たよ。

 どうやらシャハルはカミーラ嬢と魔力交換したようだ。」


「え?」


「レミアスに連れ帰られる前に何とかしたかったのだろう。

 …愚かなことだ。」


「…陛下、カミーラは王族ではありませんが、公爵家の養女ではあります。

 シャハル王子とは結婚できませんか?」


「それについては問題ないよ。

 ただ、おそらくシャハルがカミーラ嬢と結婚したかった理由は、

 カミーラ嬢が石榴姫の孫だと思っていたせいだろう。

 それが違うとわかった時に、まだ結婚したいと思っていればいいのだがな。」


「…石榴姫はそんなに大事ですか?」


「この国では宝物のような姫だ。あこがれる気持ちはわからないでもないがな。

 実際の石榴姫にも会っているが、あれは並大抵の男では無理だ。

 …そうだな。リアージュ王女も並大抵の男では無理だったろうな、ジル?」


「そうですね。俺がこんな怪物で良かったと初めて思いましたよ。」


「それは良かった。」


あらためて言われると…なんだか私がとても異質なものに思えてくる。

確かにジルが相手なら、私が石榴姫で良かったとは思うのだけど。






「石榴姫と結ばれた者は賢王になると言われているんだ。」


「賢王に?」


「そう。」


帰りの馬車の中ジルに腰を抱かれるように引き寄せられ、肩に頭を乗せる。

ガタゴト揺れる馬車で一人で体勢を維持するよりもジルに支えられている方が楽で、

引き寄せて固定してくれているジルにいつも甘えてしまう。


大公家に帰ってもいいのだけど、まだ魔力交換が終わっていない。

最初の魔力交換からすべて完了するまでは二人きりで過ごすのが普通らしい。

そのため王宮からまた別邸へと戻ろうとしていた。



「カルヴァイン国で深い赤色の瞳の令嬢が産まれると石榴姫と呼ばれるんだけど、

 たいていは公爵家か侯爵家に産まれるんだ。

 だから王子の誰かが娶り、石榴姫の相手になったものが国王となった。


 だけどリアのお祖母様のエレーナ王女が産まれた時、王族はとても困った。

 王女じゃ兄弟の王子と結婚することは出来ないし、

 エレーナ王女の兄の先代国王が王太子として決まっていたからね。

 下手にエレーナ王女と公爵家の令息を結婚させると、

 その者を王にという声も出てしまう。

 誰と結婚させたらいいのか、当時の陛下と王太子は悩んでいたそうだ。

 

 そんな時に、ちょうど留学してカルヴァインに来ていたレミアスの第二王子と、

 同じ学年で一緒だったエレーナ王女が恋仲になった。

 陛下と王太子も友好国の王族なら身分も問題ないし、

 国が荒れることもないと大喜びで二人を認めたんだ。

 おそらく他国に石榴姫が嫁いだのは初めてのことだったと思うよ。」


「そうだったのね。石榴姫が大事にされるって言うのは聞いていたけど、

 そんな理由があったのは知らなかったわ。」


「うん、でも実は裏の話っていうのがあって。」


「裏の話?」


「石榴色の瞳になるのは魔力量が多い上に属性が二つ以上ある女性なんだ。

 つまり、それだけ相手の男性にも魔力量を求められるし、

 石榴姫を守れるだけの力や身分も必要になる。

 石榴姫を娶る相手には賢王になれるくらいの素質が必要だっていうだけの話。

 誰でも石榴姫を娶れば賢王になれるって話じゃないんだ。

 まぁ、誤解されているようだけどね。」


「シャハル王子が石榴姫の血縁を求めた理由がそれなの?」


「おそらく。魔力量が多い上に誇れる血筋だと思ったんじゃないかな。

 シャハル王子が今のままで王太子になるのは難しいから、

 石榴姫の伝説を利用したかったんだろう。」


「…カミーラじゃ無理よね?」


「おそらくカミーラ嬢は伯爵家相当の魔力量だと思う。

 シャハルは子爵家相当とは言われているが、そこまで変わりは無いだろう。

 魔力交換してもあまり変わらないんじゃないかな。

 それに気が付いてからが問題だと思うけど…。

 明日学園で会えばわかるかもしれないな。

 二人の仲がうまくいけばいいけど、あまりそういう風には思えない。

 魔力交換してしまった以上、もう婚姻しているのと変わらないし、

 なかったことにはできない。

 レミアス国と話し合いをしなければいけないだろう。」


「カミーラは陛下にも公爵家にも無断でレミアスから来ているし、

 留学だと偽って学園にも入り込んでしまっている。

 一度帰って処罰を受けなければいけないと思うわ。

 素直に帰るとは思えないのだけど…。」


どう想像しても揉めるだろうと思い、ジルと見合わせてため息をついてしまう。

ジルから見たシャハルと私から見たカミーラ。困った親戚という関係は一緒だ。

そして向こうから一方的に嫌われているという点でも。

自分に関わらないところで平和に幸せに暮らしていてほしいと思うのだけど、

どうやらそんな願いは叶わないらしい。

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