第24話 もう一人の王子


「綺麗な中庭ね。」


「ああ。ここを抜けるとサハルがいる離宮に行けるんだ。

 話したいこともあるけど、先にサハルに会って来ようか。」


「ええ。サハル王子とは仲良いの?」


「そうだね。シャハルとは話もできないくらい嫌われてるけど、

 サハルとは普通に従兄弟の関係かな。

 産まれたのも半年くらいしか違わないしね。」


「そうなの。…何の病気なのか聞いてもいい?」


「魔力過多症だよ。

 双子で産まれてきたサハルとシャハルは、魔力量がずれてしまったんだ。

 シャハルの半分をサハルが持って産まれてしまった。

 だからシャハルは子爵家程度の魔力しか持っていない。

 一方のサハルは魔力量が多いけど、

 器は普通の王族並みだったためにあふれてしまうんだ。

 あふれた魔力が身体のあちこちを攻撃してしまっている。

 …魔力交換できる令嬢と結婚出来れば、という話もあるけど、

 普通の王族の1.5倍ある魔力を交換できる令嬢はほとんどいない。

 …リアージュ、君くらいだ。」


「私?」


「ああ。俺は知っていてサハルに会わせなかった。

 君ならサハルを助けられるかもしれないってわかっていたけど、できなかった。

 話の続きはサハルに会わせてからでいいか?」


「…ええ。」


中庭の奥にある離宮はひっそりとしていて、中に入っても使用人の姿すら見えなかった。

ジルが進む後をついていくと、行き止まりの部屋の前で止まった。

ノックもせずに中に入ると、窓際の寝台に寝ている男性が見えた。


「サハル、今日は話せるって?」


「ジルか…久しぶりだね。後ろの令嬢は?」


身体を起き上がらせようとするのをジルが手伝って座らせている。

熱があるのか顔が赤く見えるが、ジルはそれにふれようとしない。

おそらく熱があるのはいつものことなのだろう。

シャハル王子よりも小柄だが、同じように細い身体が夜着姿なことで余計に細く見えた。

でも受ける印象は誠実そうな気がして、サハル王子とは普通に話せそうだと感じた。


「リアージュ・イルーレイドです。レミアスから留学にきました。

 ジルの婚約者です。」


「ジルの婚約者?本当に?」


サハル王子が驚くのと同時にジルもなぜか驚いている。

ジルが話しにくいかもと思って私から話したが、多分正解だろう。


「そうか~ジルは見つけたんだね。あ、俺はサハル。

 一応第一王子ではあるけど、ずっと病気でこんな感じ。

 元気な時は少ないけど、仲良くしてくれたら嬉しいよ。」


心から喜んでくれているサハル王子に、なんとなくほっとする。

きっとジルと婚約する前にサハル王子に会っていたとしても、

私がサハル王子を好きになることはなかっただろうけど、

王族同士の婚約話があったとしても不思議じゃない。

サハル王子が健康だったら、私との婚約話が来ていただろう。


カルヴィンとの王族同士の政略結婚の話が来なかったのは、

誰が王太子なのか決められなかったことと、私が石榴姫だったからだろう。

それに気が付いて少しだけ申し訳なく思ってしまっていた。



「サハル王子、初対面でこんなことを言うのは失礼だと思いますが、

 少し手をかざして診てもいいですか?」


「…?治療してくれるとか?」


「治療というほどではないですけど…。」


「いいよ。好きにして?どうせ寝ているだけでやることもないんだ。」


「じゃあ、失礼しますね。」


目を閉じたサハル王子の身体にふれるかふれないかの所で探る。

魔力過多症を診たことは無いけれど、根本的な治療が無理なのはわかってる。

だけど、それによって傷ついている身体は治せるんじゃないかと思った。

予想通り、身体の臓器が魔力によって焼き付きかけている。

魔力を消費させたり外へ逃がそうとして、無理に動かしていたのだろう。

このまま無理を続けているようなら、命の危険もあるかもしれない。


今なら私の魔力量は十分にあるし、王族相手なら治療しても怒られないはず。

息を吸って、静かに長く吐く。気持ちを落ち着かせて、身体から光を出した。

ゆっくりとサハル王子を包みこんで、そのまま光でくるんだ。

身体を元へ、臓器を正常に、焦らずにゆっくりと戻していく。


終わった時にはくたくたで、思わずその場に座り込んでしまった。

ジルがそれを見て抱き上げてくれた。

近くの椅子に私を抱えたまま座る。サハル王子はぐっすりと眠っていた。


「リア、まさか治療できたの?」


「いいえ。魔力量の多さはどうしようもないわ。

 だから、傷ついた身体の方を治したの。

 …魔力のほうをどうにかしないと、

 また同じように傷ついてしまうから一時的な回復でしかないけれど…。」


「いや、それでもありがたいよ。

 もう余命少ないだろうって言われてたんだ…サハル。

 ありがとう。少しでもながらえれば、

 ケニー先生の魔術具が完成するまで待てるかもしれない。」


「魔術具?」


「ああ。俺の眼鏡もそうだけど、

 ケニー先生は今はサハルのために魔力量を調節する魔術具を作ろうとしている。

 それが出来れば死ぬことは無いだろうって。

 だけど時間が無かったんだ…。良かった。これで何とかなるかもしれない。

 ありがとう、リア。」


「ふふっ。ジルのおかげで今の私は魔力が満杯だったからね。

 ジルの力でもあると思うわ。」


「そうか。」


ずっと身体の痛みや熱で満足に眠れていなかったサハル王子は、

久々にぐっすり眠れているようでしばらく起きそうになかった。

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