第23話 事態は動いていく


「シャハル様~話していたの聞いてました?

 お義姉様ってば、私を無理やり呼んだのに知らないふりしてましたぁ。

 どうしていつも意地悪されるのかしら。」


「カミーラが可愛いから意地悪したくなるのだろう。」


「もう…悲しいです。もしかしたら無理やり帰されちゃうかもしれません。」


「それは困るな…。」


せっかく公爵家の令嬢を捕まえたのに、レミアスに帰されたら困る。

リアージュとのこともあり、すぐに婚約話を陛下に願い出ることもできずにいたが、

カミーラを連れ帰られることがあったら計画が全て台無しだ。

ここは少し無理をした方が良いか?



「カミーラ嬢。レミアスに帰りたいか?」


「…私、せっかくシャハル様とお会いできたのに…会えなくなるのは嫌です。」


「そう言ってもらえて嬉しいよ。俺もカミーラ嬢に会えなくなるのは嫌だ。

 …この国では書類の婚約よりも優先されるものがあるんだ。

 魔力交換をすれば、もう離れなくて済む。

 どうだろうか?俺はカミーラ嬢と結婚したい。」


「…本当ですか?お義姉様じゃなく私を選んでくれるのですか?」


「俺はカミーラ嬢と結婚したいんだ。」


「嬉しいです!シャハル様と一緒にいられるなら、なんでもします!」


「そうか…じゃあ、奥の部屋に行こうか。」


「…はい。」



シャハルは午後の授業は休むと側近候補たちに伝え、王族の控室にこもった。

邪魔が入らないうちにカミーラを自分のものにし、魔力交換まで行うことにした。

シャハルが王太子でリアージュの婚約者だと誤解したままのカミーラは、

魔力交換をした後もそのまま思い違いをしていることに気が付かなかった。





「妹?宰相殿には長男のフレデリック殿とリアージュ嬢しかいなかったのでは?」


授業が終わり王宮に報告にあがると、

執務室には前回と同じように陛下と大公様が待っていた。

ジルから今日の昼に学園で起きたことを報告すると、

陛下はカミーラのことを知らなかったようだ。

大公様は知っているようだが、私が説明するのを待ってくれていた。


「義妹は七歳の時に公爵家の養女になりました。

 実際には先代国王の異母弟の娘です。」


「先の国王の異母弟?石榴姫が嫁いだ王弟の下に異母弟がいたということか?」


「はい。王妃が亡くなった後、女官との間に産まれたそうです。

 女官は子爵家の者だったため妃になることはできず、

 異母弟は王族ではなく子爵家で育てられることになりました。

 異母弟が茶色の髪で緑目だったことも王族になれなかった一因だそうです。

 王族の色で無かったことから本当に国王の子か怪しまれたそうで…。


 その異母弟と平民の恋人との間に産まれたのが義妹のカミーラです。

 結婚していなかったことから産まれた後も放置されていたそうなのですが、

 一人で育てていた母親が亡くなり、

 孤児院に預けられた際に義妹の目が王家の色だったことで発覚しました。

 でも、その時にはもうすでに子爵家の異母弟は亡くなっていて…。

 王族の色を持っていても、異母弟自体が王族とは認められていなかったので、

 カミーラを王族にすることもできませんでした。

 かと言って王族の色を持つ者を市井に置いておくことも難しかったので、

 父が引き取ったそうです。」


「なるほど…目が王家の色ね。だから魅了眼でもあるのか。」


「魅了眼についてはレミアスでは誰も気が付いておりませんでした。

 今考えれば周りにいる男性はカミーラの言いなりになっているようでした。」


「ふむ。」


陛下が腕組みして何か悩み始めたようで、会話が止まった。

その隙に大公様が私に話しかけてきた。


「ところで、リアージュ?聞きたいことがあるのだが?」


「はい、お義父様?なんでしょう。」


婚約してすぐ大公夫妻にはお義父様、お義母様と呼んでほしいとお願いされ、

本邸で暮らしていた時には毎朝と毎夕の食事を必ず一緒にしていた。

最初に会ったときには挨拶もできなかったが、今では普通に話せるようになっている。


「リアージュはレミアス国での扱いは王族かい?」


「…はい。レミアスでは第一王女の扱いになっていました。

 先代の国王から陛下、王子たち、王子たちの息子まで…王子だけなので。

 王妃様や王子妃様たちには可愛がっていただいていました。」


「長男のフレデリック殿も王族だよね?」


「はい。兄は第三王子の扱いです。」


「その義妹は?王族扱いにはなっていない?」


「…なっていません。

 何度かカミーラに王宮に連れて行くようにお願いされましたが、

 私の判断で連れて行けるようなことではないので断っていました。

 特に引き取った頃は貴族としての礼儀作法すら知らない状態でしたので…。

 私が王宮で王族教育を受けているのを知ったカミーラは、

 同じ教育を受けたがっていました。」


「そうか。いやね、報告が来たんだけど、

 どうやらシャハルと結婚する気のようなんだ。」


「え?」


「しかも、シャハルが王太子だと誤解しているようでね?」


「…シャハル王子は第二王子でしたよね?

 では、第一王子が王太子になるのですか?」


たしか病気だという第一王子がいらっしゃるはず。

シャハル王子が王太子にならないなら、第一王子か、それとも第一王女が女王に?

首をかしげていたら、お義父様も一緒に首をかしげている。


「ジル?…お前、ちょっと今から中庭に行ってリアージュと話してこい。

 ついでにサハルにも会わせてこい。今日は話せるようだから。」


「…わかりました。リア、おいで。」


会話がよくわからなかったけど、ジルから何か聞かなきゃいけないのね。

そう思ってジルの手を取る。

少しだけ緊張しているジルに疑問は持つけど、黙ってついていくことにした。




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